表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/2

2.婚約指輪争奪戦

 ダイヤモンドの輝きを見つめると、思わず顔がにやける。あの女神の戦闘事件から後のことを思い出していた。


 俺は木こりのレオン。アホ女神たちの争いで山ほどの材木を薪にして町に売りに行った。そして泉に落ちた無数の斧は泉の女神(普通)に回収させた。


「泉を守る女神が泉を破壊してどうする」


「私のせいじゃないわよう!」泉の女神はぶう垂れてる。


「とにかく、泉の中の斧が錆びたら、環境汚染になるから回収してくれ」


 回収した斧は 1ダースずつ、縄でむすんで町に売りに行く。これが金貨 20枚、結構な金になる。傷物になった斧は泉のそばに「ご自由にお持ちください」と書いた立て札を立てて、まとめて置いておいた。泉に斧を落として俺みたいな被害者が出ないように。



 薪と斧を売りさばいた金で指輪を手に入れた。プラチナに小さなダイヤモンドが埋め込まれた婚約指輪だ。これで、愛するエリーナにプロポーズするんだ。

 エリーナは青い髪の美人だ。赤い髪の俺との相性は最高だ!


 場所は神秘の泉。ここなら誰も見ていない。湖畔で、ひっそりとプロポーズの練習をする。


「エリーナ、俺と結婚してください……いや、硬すぎるな」


 顔を赤らめながら言い直す。


「エリーナ、君がいないと俺は生きていけない!だから結婚しよう!」


 よし、これならいい感じだ。ところが、木の根っこに足を取られた。


「あっ!」


 手から指輪の小箱が飛び、くるくると宙を舞う。目の前でそのまま湖の中へ――。


「……おいおいおいおい!」


 俺の声は湖面に虚しく響くだけだった。


「あなたが落としたのは金の指輪ですか?それとも銀の指輪ですか?」


 唐突に響く声。湖の中からまた現れやがった、栗色の髪のバカ女神。


「ここで転んだのお前の仕業だよね!こんなところに木の根っこなんてなかったはず」


 あれっ、聞こえないふりしてる!そう思いながらよく見ると、何やら指輪を見せびらかしてくる。


「それっ、彼女に贈る指輪、ちゃっかりハメてるじゃないか!」


「正直者のあなたには、この金の指輪と銀の指輪も差し上げます」


 金と銀の指輪をキラキラ振りかざしながら、女神は笑う。


「いやいや、いらないから!普通のダイヤの指輪でいいんだって!」


 俺は必死に抗議するが、女神は聞く耳を持たない。


「今なら大サービス!なんと、女神もついてきます!」


 そう言うと、自分の指を指しながら目をキラキラさせてくる。


「憑いて来んでええ!」


 全力で突っ込む俺。しかし、彼女はまるで無視。


 泉の女神は勝手に婚約指輪を指にハメたまま、自分の手を眺めてため息をついた。


「こんなに似合うのに、どうしてあなたは私を選ばないのかしら?」


 そのとき、泉の向こうにまた新たな気配が――。


「姉上、まだやってるでありんすか?」


 銀髪の巨斧ロリキャラ女神が登場だ。また面倒なやつが来た。


「わたくしにも指輪をつける権利がありませんこと?」


 金髪の長女女神まで登場。指輪争奪戦が再び幕を開けようとしている。


 俺は叫ぶ。「もういい加減にしてくれえええ!!!」


 ……果たしてこの指輪、無事にエリーナに渡せる日は来るのだろうか?



******



 指輪を握りしめながら店に向かう足取りは軽かった。あのバカ女神たちとの一悶着を経て、婚約指輪を取り戻した。やっとエリーナにプロポーズできると思うと、胸が高鳴る。


 エリーナと予約していたレストランの個室に座ると、俺は意を決して彼女の目を見つめた。


「エリーナ、君がいないと俺は生きていけない!だから結婚しよう!」


 ひざまずき、ポケットから取り出した指輪を差し出す。彼女の瞳が潤んだように見えた。間違いない、これは成功だ!


 エリーナは小さな手を差し出した――が、次の瞬間。


「いやー!!!」


 エリーナは叫び声を上げるやいなや、店のドアを勢いよく開け放ち、全速力で走り去っていった。


 俺はその場に跪いたまま、指輪を握りしめた状態で凍り付く。店のスタッフが怪訝そうな顔をしてこちらを見ている。


「……なんでだよ」


 俺のプロポーズは、大惨事で終わった。


 後日、エリーナをどうにか捕まえて訳を聞いた。カフェで震えながら語る彼女の姿は、あの笑顔のエリーナとは全く違うものだった。


「あなたのことは好きよ。でも……」


「でも?」


「プロポーズのとき、あなたの後ろに……背後霊のように三人の女の顔が現れて、怖い顔してにらむから」


 俺は思わずテーブルを叩いた。三バカだよ。また、あの三バカ女神だ。


 エリーナはびくっとしてさらに震える。


「その人たち、金髪と銀髪と栗色の髪じゃなかった?」


「な、なんで分かるの?……?あなた、まさかその人たちを殺したとか言わないわよね……?」


「いや、あいつらは幽霊じゃない。むしろ、幽霊の方がまだましなくらいだ」


 エリーナの顔がさらに青ざめる。俺は深い深いため息をつく。


「違うんだよ、でも殺したくなるくらい厄介なんだよな」


もしも、少しでも「面白かった」「良かった」などと思ってくださいましたら


ブクマや評価頂けると嬉しいです……!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ