2.婚約指輪争奪戦
ダイヤモンドの輝きを見つめると、思わず顔がにやける。あの女神の戦闘事件から後のことを思い出していた。
俺は木こりのレオン。アホ女神たちの争いで山ほどの材木を薪にして町に売りに行った。そして泉に落ちた無数の斧は泉の女神(普通)に回収させた。
「泉を守る女神が泉を破壊してどうする」
「私のせいじゃないわよう!」泉の女神はぶう垂れてる。
「とにかく、泉の中の斧が錆びたら、環境汚染になるから回収してくれ」
回収した斧は 1ダースずつ、縄でむすんで町に売りに行く。これが金貨 20枚、結構な金になる。傷物になった斧は泉のそばに「ご自由にお持ちください」と書いた立て札を立てて、まとめて置いておいた。泉に斧を落として俺みたいな被害者が出ないように。
薪と斧を売りさばいた金で指輪を手に入れた。プラチナに小さなダイヤモンドが埋め込まれた婚約指輪だ。これで、愛するエリーナにプロポーズするんだ。
エリーナは青い髪の美人だ。赤い髪の俺との相性は最高だ!
場所は神秘の泉。ここなら誰も見ていない。湖畔で、ひっそりとプロポーズの練習をする。
「エリーナ、俺と結婚してください……いや、硬すぎるな」
顔を赤らめながら言い直す。
「エリーナ、君がいないと俺は生きていけない!だから結婚しよう!」
よし、これならいい感じだ。ところが、木の根っこに足を取られた。
「あっ!」
手から指輪の小箱が飛び、くるくると宙を舞う。目の前でそのまま湖の中へ――。
「……おいおいおいおい!」
俺の声は湖面に虚しく響くだけだった。
「あなたが落としたのは金の指輪ですか?それとも銀の指輪ですか?」
唐突に響く声。湖の中からまた現れやがった、栗色の髪のバカ女神。
「ここで転んだのお前の仕業だよね!こんなところに木の根っこなんてなかったはず」
あれっ、聞こえないふりしてる!そう思いながらよく見ると、何やら指輪を見せびらかしてくる。
「それっ、彼女に贈る指輪、ちゃっかりハメてるじゃないか!」
「正直者のあなたには、この金の指輪と銀の指輪も差し上げます」
金と銀の指輪をキラキラ振りかざしながら、女神は笑う。
「いやいや、いらないから!普通のダイヤの指輪でいいんだって!」
俺は必死に抗議するが、女神は聞く耳を持たない。
「今なら大サービス!なんと、女神もついてきます!」
そう言うと、自分の指を指しながら目をキラキラさせてくる。
「憑いて来んでええ!」
全力で突っ込む俺。しかし、彼女はまるで無視。
泉の女神は勝手に婚約指輪を指にハメたまま、自分の手を眺めてため息をついた。
「こんなに似合うのに、どうしてあなたは私を選ばないのかしら?」
そのとき、泉の向こうにまた新たな気配が――。
「姉上、まだやってるでありんすか?」
銀髪の巨斧ロリキャラ女神が登場だ。また面倒なやつが来た。
「わたくしにも指輪をつける権利がありませんこと?」
金髪の長女女神まで登場。指輪争奪戦が再び幕を開けようとしている。
俺は叫ぶ。「もういい加減にしてくれえええ!!!」
……果たしてこの指輪、無事にエリーナに渡せる日は来るのだろうか?
******
指輪を握りしめながら店に向かう足取りは軽かった。あのバカ女神たちとの一悶着を経て、婚約指輪を取り戻した。やっとエリーナにプロポーズできると思うと、胸が高鳴る。
エリーナと予約していたレストランの個室に座ると、俺は意を決して彼女の目を見つめた。
「エリーナ、君がいないと俺は生きていけない!だから結婚しよう!」
ひざまずき、ポケットから取り出した指輪を差し出す。彼女の瞳が潤んだように見えた。間違いない、これは成功だ!
エリーナは小さな手を差し出した――が、次の瞬間。
「いやー!!!」
エリーナは叫び声を上げるやいなや、店のドアを勢いよく開け放ち、全速力で走り去っていった。
俺はその場に跪いたまま、指輪を握りしめた状態で凍り付く。店のスタッフが怪訝そうな顔をしてこちらを見ている。
「……なんでだよ」
俺のプロポーズは、大惨事で終わった。
後日、エリーナをどうにか捕まえて訳を聞いた。カフェで震えながら語る彼女の姿は、あの笑顔のエリーナとは全く違うものだった。
「あなたのことは好きよ。でも……」
「でも?」
「プロポーズのとき、あなたの後ろに……背後霊のように三人の女の顔が現れて、怖い顔してにらむから」
俺は思わずテーブルを叩いた。三バカだよ。また、あの三バカ女神だ。
エリーナはびくっとしてさらに震える。
「その人たち、金髪と銀髪と栗色の髪じゃなかった?」
「な、なんで分かるの?……?あなた、まさかその人たちを殺したとか言わないわよね……?」
「いや、あいつらは幽霊じゃない。むしろ、幽霊の方がまだましなくらいだ」
エリーナの顔がさらに青ざめる。俺は深い深いため息をつく。
「違うんだよ、でも殺したくなるくらい厄介なんだよな」
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