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アンティーク喫茶  作者: 砂月
1/4

その一 本日の招かざる客

※前に違うサイトに登録していた小説です。

短いですが、良ければお楽しみください。

時折来るんだよね…。懲りないって言うか何て言えばいいのか…。








「ここかぁ!」


 グワラーン、と入口のカウベルが凄まじい音を鳴り響かせる。

 幸い、普通(・・)の客が誰もいない、夕方に差し掛かる直前の時間だ。


 最近冷たくなってきた風が、一瞬だけオレの足元をくすぐった。

「おのれ! この国はどうなっているんだぁ!

こちらにはこんなに死者が群れ集まって…」


 何故かボロボロ黒い……神父服?を着込んだ男が、ムンクの叫びのような体勢で入口で嘆き出した。

 ……どうでもいいが、少し寒いから閉めてから嘆いてくれ。

 因みに、珍しい客をまじまじ見ていた店内のモノたちは、すぐに飽きて直前の井戸端会議に戻る。

「何え? こやつは?」

 いつもよりワントーン低いアルトの声が響くのと同時に、誰もが一斉に口を閉じた。

 オレは恐る恐る、視線を声の元へ向けると。

 一番奥のカウンターで、時代錯誤な煙管を燻らせていた女がスパァーと煙を吐き出し、不快そうに眉をひそめていた。

(げっ……椿さん、目付きヤバ!)

 オレが一歩退くのと同時に、舞台の上の役者のような動きで絶望を演じていた男が顔を振り上げ、びしぃ、と椿を指差した。

「キサマかぁ! ここの悪霊どもの元締めは!

 良かろう!

見たところ、かなりの年を経た霊だ。私の聖なる力で、御方様の御元へ送ってやろう。

ありがたく思うが良い!」

 あまりの暴言に、ヒィ、と喫茶内にいたモノ達が顔を青ざめさせた。

 周囲の怯えにも気づかず、男は懐から分厚い本を取り出し掲げる。

「聖なるかな。聖なるかな!」

 その言葉以降は日本語ではないため、何を唱えているかは不明だ。

 だがいつの間にか閉まっていた、扉ではないでたらめな方向から冷たい風が吹き付けてきた。

 椿は眉を寄せたまま男を眺めているだけだったが、ここで小さな溜め息をついた。

「美しき姿をしておるのに、残念だの。

……坊や」

 このタイミングでの、オレへの椿の呼びかけの意味は一つだ。

「じゃあ、ついでに休憩もらいます、椿さん」

「あいよ」

 軽く煙管を吹かした姿を一瞥してから、オレは店の奥に引っ込む。

 ……、まあ、よくあることだから。

 ガチャり、とオレが扉を閉めた瞬間、椿の号令が扉越しに響く。


「……やっちまいな」

「うっしゃあ!」

「久方ぶりじゃ! 思いっきりいくぞえ」


 ウキウキした答えがいくつも扉越しに聞こえてきて、

「アホか、アイツは……」

 オレは思わず呟く。


 ここの店長を勤めきれる椿は、かなり長い時を過ごしている、と思う。

 怖くて年なんて聞けない。

 根本的な疑問、一度無くした命を再度犠牲とともに伸ばしながら、なぜ喫茶店をしているか、すらも聞けていないが。

 むしろ長すぎる時で、どうやって同じ場所で店を開いていれるのかも不可思議だが。


 そんな椿の同士たち=一度命をなくし、現世に戻ってきたモノ、

それもそれなりに年期の入ったモノたち(肉体あるなしに関わらず)の、会合という名の井戸端会議真っ最中だったのだ、先ほどから。



「……ぐぎゃあぁ~」

「あーあ」

 響いてきた悲鳴に、とりあえず合掌。



 当たり前だ。

 霊は祟る。

 それはそれは年期の入った、呪いと祟りを浴びせかけられているだろう。

 慌てず騒がず、置いてあったまかないをゆったり食べる。



 ……まあ、店内に戻ったら、いたのはスーツを着たおっさんだけだった、と言っておこう。







 今回の騒動は、うちに時折くる迷惑な客の一人だった、というだけ。

 その一言で完結。


 よく似た職業の奴がしょっちゅう乗り込んでくるし。


 仕方がない。



 うちは、死者が運営する喫茶だからなぁ……。




 あ、追記。


 あの神父がどうなったは不明。



来た時に神父っぽい人が既にボロボロだった理由ワケ


 後で聞いた話だが、あの神父は、友人のところを先に襲撃していたそうだ。




 あそこも過激だもんな……。




という一日は、この喫茶では日常です。

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