第一話「夢と魔法」
住宅街の灯りが消えた頃。一人の男の子が居た。
枕に頭を預けて、優しくて暖かい毛布に包まれる。
目蓋を閉じて暗い視界に映る世界。僕だけしか居ない部屋。
ぼやけた視界で夢の中に居ることに気がついた。窓に小さな明かりが一つ。ベットから出て窓を開ける。
虫の翅、黄金の髪、緑の服を上下、小さなトンガリ赤い靴の小さな生き物が目の前に居た。
「私の名前はフェアーレ、妖精よ」
「妖精?」
「小人に羽が生えていて魔法が使えるのが妖精なの」
「そうなんだね、教えてくれてありがとう!」
「どういたしまして」
「でもなんでここに居るの?」
「それはね、助けるためなの」
「誰を?」
「あなたを」
「僕をなんで助けるの?」
「空の偉い神様が私に男の子を助けてほしいってお告げが来たのよ」
「でも僕はなんら困ってなんて居ないよ」
「そうなの?本当に?本当の本当に?」
「勿論、本当さ」
「神様が間違える訳ないものね…そうだ!せっかくなら魔法が使えるとこを見せてあげる」
「本当に?」
「魔法の力は偉大で困ってなくても何かしら生きるヒントになると思うの」
人差し指に光を照らしたり、口笛を吹くと風が出来た。
「すごい」
口がぽっかり開いてそれ以上、言葉が出なかった。
「どう?凄いでしょ?」
自慢げに言って鼻を尖らせる。
「もしかして空も飛べる?」
「愚問だね、当たり前だよ」
口を大きく開けて息を吹きかけると、身体が浮かぶ。テレビで見ていた宇宙の事が間近になった気がした。
「すごい!すごい!」
「魔法は出来ると思ったら出来るんだよ」
「僕も出来るの?」
「出来ると思ったら出来る、出来ないと思ったら出来ない、簡単な事だよ」
「じゃあ、おもちゃを動かしたい!」
「自分を信じてやってみて」
「おもちゃ、動け」
手をおもちゃに向けて言う。すると変身して戦う戦士や赤い帽子のおじさんや丸いボールに入るモンスターが動き出した。
金曜日の夜に見ていた、おもちゃの映画が目の前に起こっている。
「本当に動いたよ!」
「あなたには魔法の力が宿っているもの」
「そうなんだね、知らなかったよ」
「誰だって魔法の力を使える、でも使い方が分からないから使えない」
「誰でも使えるの?」
「そう、妖精はまた別だけど、人は言葉と想いの魔法があるのよ」
「すごいや、じゃあママにも!パパにも!近所の友達のあかねちゃんにも!この街の人にも!知らない国の人にも!魔法の力があるんだね!」
「あなたは知ることが出来たの、これは喜ばしいことなのよ、でもね魔法を自分だけに使ってはいけないの…」
「なんで?」
「あなたは知っているけど他の人は知らないからよ、だからあなたの言葉で導いてあげるの」
手本を見せるように小さい喉を震わせる。
|(大丈夫、大丈夫だから、あなたのことを信じてる)
|(あなたのことが大好きで愛おしいと思ってる)
|(いつも助けてくれてありがとう、優しいあなたが素敵だよ)
|(生きてくれてありがとう、あなたが居たから頑張れた)
|(なんとかなる、なんとかなる、頑張るあなたは美しい)
優しい声に自然と涙が一滴、零れた。