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9  裏ボス戦~1st attack~

 それからの時間はあっという間に過ぎ去り夕食後。

 運動場ではわたしとジャクソンが向き合い、立ち合い役の看守が審判のように間に立っていた。


「これよりジャクソン・フォレスト申請による、相手

 ピコ・フローレンスとの軍隊格闘試合を行う。」


 看守がこの手合わせが正当な手続きにより行われる試合であることを、改めて宣言した。

 手続き上ではここで異議を唱えれば無効となる。


(「勿論そんなことはしないにゃ?」)


 わたしの場合は事後承諾のような形となったが、普通であれば双方の合意があってから申請することが多く、事情の変化を考慮した制度である。

 

(退く理由は無いにゃ。)


 元々形骸化している制度だ。

 それにこれだけの注目を浴びている中でそんなことをすれば、今度は看守も見放すだろう。

 

(『その辺が軍関係って感じね。』)


 ……いやもしかしたら断った場合、今ほど不自由なく過ごせるかすら怪しい。


(「可能性としてはあり得るにゃ。」)


(『え、どうゆうこと?』)


 わたしは不可抗力とはいえ、表向きここ(軍刑務所)で最強であったトリアンダを歯牙にもかけず下した。

 そうなると実力が未知数となり、看守らとしては万が一に備え、わたしを拘束する必要があると判断することもあるかも知れない。

 

(『なるほど…、未知はそれだけで恐怖になるという

 ことね…。』)


(「そこである意味で信頼のある(長年大人しくしている)ジャクソンを試金石

 にしたってとこにゃ。」)


 ルールという制限内であるが、わたしがルールに従うか、そうでなかった場合ジャクソンが抑えることが可能か、ジャクソンが抑え切れない場合も消耗しているところを看守総出で拘束。

 …と随分周到に考えられている。


(『(ジャクソン)との試合で消耗しなかった場合はどうするの

 かしら?』)


(「そうなると今ここ(軍刑務所)に入れられているのはどうして

 にゃ?」)


(『あ、そっか…。』)


 マリーダが言うようにそこまでの実力があるのであれば、アウトローにでもなれば良い話になるのだ。

 ……それか「消耗しないことなどあり得ない」と確信があるということか。


「両者異議は無いようだ。

 それでは合図で試合の開始とする。」


ピリッ


 いよいよ試合ということで“周囲の”空気が張り詰める。

 看守が巻き込まれないよう、運動場の端まで離れて行く。


「くれぐれもルールに則った試合をするように!」


 看守が忠告を叫ぶ。

 いよいよ始まる…!


「それでは…」


ス…


 看守の合図の予兆に構える。


「試合…」


(…?)


 しかしジャクソンは棒立ちのまま構える様子は無い。

 

「開始!」


 そしてそのまま開始の合図。


「フォレスト家長子、闘気術免許皆伝。

 ジャクソン・フォレスト。」


 仕掛けるか迷っていたところ、ジャクソンが口を開いた。


(「これはまた…。」)


(『古風な作法ね。』)


 なるほど…、らしいじゃないか。


「…マルコシアス隊隊長、キャトラス軍中佐。

 ピコ・フローレンス。」


 少し迷ったが、最終的な肩書きで名乗り返す。


ス…


 ジャクソンは満足そうに口角を僅かに上げ、ここでようやく構えた。


「いざ、尋常に…」


「勝負にゃ!」


タッ!


 実力がどちらが上かは不明であるが、慣れているのは圧倒的に向こうだ。

 慣れは明確な有利点(アドバンテージ)だ。


(だからこそ先制で流れを掴む!)

 

 姿勢を低く、地面を蹴る。

 狙うは身体のド真ん中( 鳩 尾 )

 威力は重視せず、まずは確実な一当てだ。


トン…


「っ!?」


 いつの間にか差し込まれていた(てのひら)に、突き出した拳を受け止められる。


(ヤバッ!)


トンッ


 反撃を喰らう前に、敢えて前方に跳び距離を取る。


ザッ…


 無理やりの離脱で崩れた体勢を立て直して振り向くと、ジャクソンは既に身体をこちらに向けてピコを注視していた。


(「まあ、この程度はにゃ。」)


 マリーダは余裕そうにジャクソンを評するが、わたしは内心で焦っていた。

 いくら威力を二の次にしていたと言っても、トリアンダを殴り飛ばしたときと同等かそれ以上の威力であった筈である。

 それを片手で受け止め、あの打撃(インパクト)音はおかしい。


(「おかしくないにゃ。

 打撃のエネルギーを音に変換させなければ音は出な

 いにゃ。」)


 つまりジャクソンは、鍛えた雄を軽々と飛ばす力のほとんどを、インパクトの瞬間に片手で受け流したということになる。


(『そんなこと出来るの!?』)


 シアが驚くが、現に出来ているからこそわたしは焦っているのだ。

 自慢するつもりは無いが事実として、今のわたしの身体能力は別次元となっている。

 一般的な身体能力であればあり得なくない芸当を当て嵌められても困るのだ。


(「それは傲慢という奴にゃ。」)


 今のを見せられて尚、分からないわけは無い。

 実力ははっきりとあちらが上だ。

 その気になれば受け止める際に掴むことも、わたしが体勢を立て直している隙に追撃することも出来たのだ。


「…体格を利用した不意を突く一撃。」


 次にどう仕掛けるか考えようとする前に、ジャクソンが話し始めた。


「意図としては悪くないが、狙いが正直過ぎるな。」


 それは士官候補生時代、白兵戦闘術の授業で教官が行うような批評であった。


「だがその後の判断は良かった。」


 自分が未熟であることは自覚しているが、仮にも神の力を利用しているわたしに対して指導する余裕。


(ジャクソンは強い…!)

(「コイツは強いにゃ。」)


 



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