18 決着
本章ラストのエピソードになります。
安全機構の作動によりロックされていたブースターが稼働可能となっている。
(どうして…まさかっ!?)
視界は未だにゆっくりと流れているままだが、思考速度に変化は無い。
(…理由なんかどうでも良いにゃ!)
大方誤作動を起こしていたセンサーが被弾により破損したことで、結果的に安全機構を作動させる信号が途絶えたからとかいった理由だろう。
そうなれば燃料は際限無く燃焼され最終的には高まり過ぎた圧力により爆発することになるのだろうが、今ブースターに入っている燃焼の残量ではそこに至らない。
つまりノーリスクでブースターが解放されたに等しい。
災い転じて福となすとは、まさにこのことだろう。
(わたしの悪運もまだまだってにゃ!)
野盗リーダーの駆るキマイラは変わらずパルス弾を撒き散らしながら迫って来ている。
カチッ
〔 MainBooster activat 〕
だがブースターが復活した今、向こうから向かって来るのはむしろ好都合というもの。
キュイィ…、ゴ…
燃料供給ポンプが作動し、ブースターに火が灯る。
『おーわーりーだーあーぁ~』
巫山戯ているのかと言いたくなるほど間延びした野盗リーダーのセリフに、今自分が言葉を発したら向こうにどう聞こえるのかが気になった。
ゴオッ!
しかし身体はこれまで幾度もそうしてきたように、スロットルをFullに上げ機体を加速させる。
『馬鹿なっ!?』
野盗リーダーの驚きは、単に敵機が急発進したことによるものか、わたしがまだ何かしようとすることによるものか。
(「…いや、弾幕に正面から突っ込んで来たからにゃろ。」)
“理由は分からない”が、一瞬出来た隙はわたしには有利に、野盗リーダーには不利に働く。
ジッ…!
急発進で機体の位置が変わったことで、止めのつもりで多少は狙って放たれたであろう弾丸は機体を掠めるに留まる。
オォッ…!
そして野盗リーダーが驚いている間にも、互いの距離は急速に近付く。
『クソッタレがっ!』
しかし野盗リーダーも元兵士らしい判断力で、わたしの機体の接近を阻もうと動く。
ヴォッ!
キャトラス軍ポッドの制式固定武装の6ミリバルカンが火を噴く
(行けっ!)
バチンッ、…ボシュウゥッ!
よりも早いか同時に、片方のブースターを点火したまま分離。
質量から解放されたブースターは、即席のミサイルとなって機体の前に躍り出る。
ガガガッ、ボンッ!
それなりの厚みがある耐高圧タンクは見事盾の役割を果たし、更に僅かに残った燃料に引火した爆発が目眩ましになった。
(『まだ遠いわっ!?』)
しかし目眩ましになった時間は一瞬。
射出すれば届かなくも無い距離ではあるが、それで致命打を与えられるかは別だ。
ブゥンッ…
『来いよおぉ!』
パルスガンは近距離での取り回しが悪いためか、はたまたパルス弾の節約か。
バルカン以上に軍で使われることの少ない、レーザーナイフを起動して待ち受ける姿勢の野盗リーダー。
(このままっ…!)
(「刺し違えるつもりにゃ!?」)
ぐんぐん近付く距離、向こうがアームを延ばせばレーザーナイフの切先が届く間際。
「ここっ!」
カチッ
モニターから目を逸らし、作業ポッドから元来の非常時用スイッチを起動する。
シュッ、パアァッ!
『ぐあぁっ、目がっ!?』
遭難時用の発光信号弾が目前で炸裂し、迎撃のためにモニターを注視していた野盗リーダーは閃光に目を焼かれた。
(『行って!』)
(「行けっ!」)
敵機は目前、しかもパイロットは目標を見失い無防備。
『だあああぁっ!』
ブンッ
自棄糞で振られたアーム。
ガギィイィンッ…!
レーザーナイフは空を切ったものの、敵機のアームがバルカンを無理矢理固定した補助アームを叩き折る。
『ひゃはっ、やってやったぜ!』
機体から伝わった感触に、野盗リーダーは悦びの声を上げている。
だがそれは間違いだ。
「行っけぇええぇっ!」
ガシュンッ!
右上腕代わりに逆さに取り付けたポッド用工具のガスシリンダーが作動する。
ガギイィッ!
『ははっ…。』
(『ああっ!?』)
射出された超硬度鋼ナイフは敵機のコックピット防護装甲を弾き飛ばすも、肝心の敵パイロットは無事。
『ふぅ…びびらせやが』
((「弾はまだ残っているにゃ!」))
ガシュンッ!
二度作動するシリンダー。
メギイィッ!
『て、ぇぐびゃっ!?』
岩を穿つ巨大な釘は、シャッターの弾け飛んだコックピットハッチを容易く貫通する威力であった。
「………。」
『………』
沈黙するわたしと無線機、そして敵機であるキマイラ。
「…わたしの勝ち、にゃ。」
ゴオォ、ォ…
『ピ---』
ブースターの火が消え、鳴り続ける警告音。
(燃料が尽きたにゃ…。)
戦闘には勝利したが、このままでは相討ちと変わらない結果となってしまう。
(「敵機の残骸から燃料は取れないにゃ?」)
残念ながらキャトラスのポッドはスラスター推力機、この機体の推力であるブースターの燃料は積んでいない。
(『…じゃあ“あそこ”に行けば良いんじゃない?』)
シアのイメージから読み取れた場所は、仮想敵とされているノーサイドであった。
ここはノーサイドの外縁であることは確かであり、クレーンアームを駆使すれば自力で討伐隊の船に帰還するより遥かに容易いだろう。
更にキャトラスとドギヘルス関係無く物質の集まるノーサイドであれば、ブースターに使われている燃料が確保出来る可能性も高い。
「…よし、ノーサイドに向かうにゃ。」
敢えて口に出したのは、軍所属のわたしが仮想と言えど敵地に単身飛び込むという覚悟を固めるためだ。
しかしここで思わぬ事態が発生する。
バチッ…バチバチッ!
(『ピコ、火花がっ!?』)
コックピットハッチを貫通した大釘はそれだけに留まらず、キメラのメインスラスターを機体内部から貫いていたのだ!
バチバチッ、ボッ!
損傷したスラスターは激しくスパークした後、バッテリーのアルカリ金属に引火でもしたのか爆発を起こす。
ガクゥウゥン…
「うにゃ~~っ!」
デブリに引かれ墜ちるキマイラの残骸と、キマイラに取り付いていたわたしの機体。
ズウゥンッ…
ノーサイド外縁宙域、不明地点。
キマイラの残骸とジャンク・クラッドは、当該宙域に存在する浮遊岩石に墜落。
キマイラはメインスラスターの破損、ジャンク・クラッドは燃料切れにより、墜落した浮遊岩石から再び飛び立つ手段を喪失したのであった。
予定通り、当話を持ちまして本年度の更新を最後にさせて頂きます。
一旦完結とさせて頂きますが、裏で執筆は続けますので、来年度(来年4月)の再開をお待ち下さると
嬉しく思います。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
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