12 さぷらいず
物資の補給作業があった日の翌日のこと。
第444小隊実働班は初日以降初、二回目の上官執務室へ集合していた。
「軍付属専門技術学校パイロット育成科卒業実地研修
班4名、本日よりご指導よろしくお願いします!」
班のリーダーであるらしい活発そうなどこかで見た雰囲気の青年が、いかにもな定型の挨拶を行う。
「…うむ。
貴官らは非常に優秀な成績であると聞いている。
将来有望な貴官らには我が隊の素晴らしい部分を十
二分に学び、キャトラスの繁栄と平和の礎となって
貰う。」
当然のように遅刻して来た我らが上官殿は青年の簡素な挨拶に対し、椅子にふんぞり返ったままで偉そうにそう宣った。
「…しかし残念ながら儂も忙しいのでな。
貴官らの指導はコレらが担当させていただく。」
一欠片も残念だと思っていないことが全開の顔で、大尉は壁際に並ぶわたし達を顎で指す。
「…ピコ・フローレンスにゃ。」
事前に何も聞いていないが、集まる4つの視線にとりあえず名乗った。
「実習班リーダーのクライグ・ライオネルです。
宜しくお願いします!」
わたしの名乗りを聞いて表情を輝かせたライオネル訓練生は、大尉への挨拶より心の籠った挨拶をして来た。
変なところで敏感な大尉はこのことに、あからさまに機嫌を悪くする。
「おほんっ!
指導係と親交を深めるなとは言わんが、執務が立て
込んでいてな。
自己紹介は後でやって貰いたい。」
色々と突っ込みたい気持ちはあるが、下手に刺激するのは下策も下策だ。
「失礼しました。
…それじゃ訓練生、わたし達について来るにゃ。」
なのでわたしは形式的に大尉に謝罪し、集合した面々に執務室からの退室を促したのであった。
………………………。
……………。
…。
トリアンダら部下に訓練生らの合計7名を引き連れ向かったのはフリーのミーティングルーム。
執務室から近い隊の作戦会議室でも良かったのだが、大尉の機嫌が悪かったのと、そこで行うのが自己紹介ということからこちらを選択した。
移動の間にこっそりと指揮官用の情報端末を確認すると、執務室で待機していた時間に一件の通達を受信していた。
通達の内容は訓練生の実地研修についてであった。
(…セコい真似を。)
大尉が遅刻してきたからとはいえ、これでは事前に通達が為されているということになる。
つまりあの場で抗議していたとしたら、一方的にこちらの責任とされた可能性が高い。
そうならなかったとしても、急な事態で訓練生に無様を晒すことを期待していたのだろう。
退出時の大尉の不機嫌は、そういった嫌がらせの悉くが不発であったことも一因かもしれない。
(『もうすぐ着くみたい。』)
シアの告知に、どうでもいい考察を終わらせる。
…………。
…。
目指していた部屋が使用中ということもなく入室し、示し合わせた訳でもなく我々のパイロット組と研修班が向かい合って並ぶ。
「それじゃ改めて自己紹介するにゃ。
まずはわたしから。
第444仮想敵小隊隊長のピコ・フローレンス、階
級は中尉にゃ。」
先ほどは(主に大尉に)言いたいことを呑み込んでいたために無愛想な名乗りとなってしまった。
誤った印象を払拭するために意識してフランクな自己紹介を行う。
そのかいあって、訓練生らの緊張した雰囲気が若干和らいだ。
「俺はカマッセ・トリアンダ。
階級は小尉で一応副隊長をしている。」
…まぁ、続くトリアンダが前に出た際に訓練生の二名がビクついたが、概ね問題なくこちらの自己紹介は完了した。
「それじゃ次は訓練生の番にゃ。
階級や役割はまだ決まっていないと思うので、良か
ったら何か一言言って貰うにゃ。」
俗にいう一言コメントというやつだ。
「……じゃあおれからで。
改めまして…、研修班リーダーのクライグ・ライオ
ネルです。
シンのアニキみたいな雄を目指してます。」
コメントを聞いてピンときた。
確かライオネルという家名は、シンのキングハート家の外戚にあった筈だ。
つまりクライグとシンは親戚、雰囲気が似るのも然もありなんである。
「スチュアート・グラシズです。
副リーダーを務めさせてもらっています。」
そう簡潔にまとめたのは軍服をかっちりと着用した黒と白のハチワレ…もとい七三ワレの、いかにも真面目といった感じの眼鏡をかけた青年。
「カティア・クルセルです。
フローレンス中佐に憧れて軍へ入隊しました!」
わたしに視線を固定してそう言ったのは、研修班の紅一点。
期待にブルーの瞳を輝かせる彼女はサバトラ(つまりわたしと同柄)の毛柄であった。
「…あ、リョウ・イカーワです。
えと…、よろしくお願いします。」
クルセル訓練生が話し終わってから少し間が空き、何も思い付かない時のコメントを話したのはいつの間にか馴染んでいそうな青年。
毛柄も白地に他の毛柄が点々と混ざった(いわゆるミックス柄)ケットシーに一番多い毛柄パターンである。
(「頑張ってコメントしているけど、要はパッとしな
いってことにゃ。」)
(『特徴がないのが特徴っていうやつね。』)
マルとシアは、相手に聞こえないどころか対面すらしていないので言いたい放題だ。
(「にしても“イカーワ”ねぇ…」)
大尉の言葉を信じるならば、その優秀さに不釣り合いな卑屈さはそういうことなのだろう。
また訪れた厄介事の気配に、わたしは内心で肩を落とした。
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