18 強化への路
8話ぶり(閑話含め)の主人公視点です
「……んっ、…うん?」
目を開くと経年劣化なのであろう、少し黒くくすんだ天井が視界に映る。
「知らn」
(「刑務所の救護室にゃ。」)
呟きを遮って、マルがこの場所が何処であるかを知らせて来る。
((にゃ~っ!
最後まで言わせろにゃ!))
キャトラスの科学発展の祖である、サンタ・ニャオ・タシロが生後初めて発したとされる有名な台詞を言うチャンスを潰されて憤慨する。
(「そんなことより、ほら。」)
わたしのある種の憧れを一蹴したマルが、足元の方に意識を向けるよう促して来る。
意識を向けてみると、この部屋にある六つのベッド、向かい合う3つのベッドの真ん中に知った気配を感じた。
視線を感じることから、その気配の主は起き上がっているのであろう。
何やら用が有りそうな雰囲気から、マルはわたしに起き上がって話をしろと言っているわけだ。
…目覚めたばかりの(推定)重傷者に酷なことを要求する。
(『はいっ!
寝ている間に粗方治療しておきました!』)
そしてたった今、「褒めて!」という気持ちが全開のシアの通告により、わたしに傷病休暇など存在しないことを知る。
おそらく今のわたしは、天井を突き抜けて空を眺める表情をしていることだろう。
「くくっ…、本当に異なる存在が身の内に居るのだ
な。」
わたしが目覚めてからの様子を観察していたのか、笑いを堪えたジャクソンが話し掛けてきた。
「…、!?」
ガバッ!
何と返そうと思案して、反芻した内容に飛び起きる。
「警戒せずとも良い。
元々儂らにはその可能性が示唆されていた。」
………………、そうか!
ジャクソンの氏はフォレスト。
フォレスト家と言えばキングハート家やウィング家に並び数えられる旧家である。
ウィング家に天虎とマルコシアスの伝承が伝えられていたり、キングハート家の後継者が金獅子の力を発現までさせていて、フォレスト家がそれら神の存在を関知していないわけがなかった。
「だが…、だからこそ儂は疑問に思うのだ。」
その声音はむしろ穏やか。
しかし一切の身動きを禁じられたように感じた。
「そなたの身の内に巣食っているソレは何だ?」
「…………。」
どう答えるのが正解なのか分からず、沈黙。
「………………。」
「………………。」
その沈黙は時間の流れを何倍にも遅くしたように感じさせたが、視線を合わせていたのは実際には十秒に満たない。
旧家あるいは飛躍して政府の把握外の超常。
何度か曝したマルの暴虐性に対し、排除対象となってもおかしくは無い。
「心配せずとも良い、単なる興味だ。
そうでなくとも儂はそなたをどうこう出来る立場に
ない。」
表向き的にはそうかもしれないが公的組織と関わりが深い旧家の者として、私的判断で「秘密裏に処理」する可能性も無くはないのではなかろうか?
(「そもそも私らは天虎のとこを通じて既に把握され
てるだろうにゃ…。」)
…それもそうか。
よくよく思い返してみればわりと早い内からマルの正体は露見していた。
幸いと言って良いのか微妙なところだが、露見したのが戦時中ということもあってか、脅威として排除するより解析して戦力とする方が有益と判断されていたのであろう。
わたしが解析に協力的であり、重要な局面で戦果を上げたこともありなあなあで済まされていた。
(……じゃあいいか。)
仮にマルとシアのことを話して障りがあったとして、ここに居る期間が無期限になるかくらいの違いにしかならない。
(まぁ、それが大問題なんだけどにゃ…。)
ふと頭に浮かぶ虎柄の愛しい娘。
…あの娘ならわたしと一緒にいるために大それた事をして、わざとここへ来るかも知れない。
(「おーい、話しが逸れてるにゃ…。」)
え~…っと、マルとシアの説明をするんだったか。
「存在としてはマルコシアス。
ウィング家に伝わる天虎に打ち倒されたとされてい
る悪魔にゃ。」
「ほう…。
伝承の存在と同名かつ同等の力を持つ別の存在、と
いうことかね?」
僅かに目を見開いたジャクソンであるが、直ぐにこちらの言い回しからほぼ真実を導き出すあたりに経験が伺える。
「丸っきり別というより、伝承の悪魔は暴走状態だったと言った方が近いらしいにゃ。」
「……なるほど、理解した。」
自身のつい最近に体験したことを重ね、違和感を残しながらも一応の納得を得たようだ。
「ではあの手合わせは途中から交代していたというわ
けか?
そなたは自在にそういったことが可能だと?」
疑問系ではあるが、ジャクソン自身も森王が暴走しただけあって、わたしの身体を使ってマルが戦っていたことを確信しているらしい。
「どちらもイエスにゃ。
但し交代に関してはわたしが自在にとは言えないにゃ。」
日頃から「わたしの身体であるのにマルは自由に利用し過ぎではないか」と思ってはいる。
不本意であるが、それにより助かることが多々あることも事実であり、一概に悪いことだとも言えない。
そんな複雑な心境を覚ったのだろうか。
「……一つ提案なのだが。
我が家当主に代々伝えられる武技、習ってみるつも
りはないか?」
ジャクソンの予想だにしない方向からの提案に、わたし達はそれぞれの反応を示した。
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