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17 終幕

 変化があったのは把握していた。

 しかし居ようが居まいが私には関係の無いことだった。

 元々取るに足らない些事。

 更に森王が暴走を始めたことで掛かりきりとなったことで今の今まで意識から外していた。


ジャジャキッ!


 見物の野次馬達を掻き分けやって来たのは看守の一団。

 そして向けられる複数の銃口。


(あ~、馬鹿にゃ。)


 推測するに、あの銃口から放たれるのは麻酔弾かゴム弾などの非殺傷性の弾だろう。

 手合わせの領域を越え破壊活動となったこの闘いを停止させる為の強行手段といったところか。

 しかしそれはこの場合、絶対にやってはいけないレベルの悪手である。

 寄り代の生命の危機を発端とする暴走は本来、周囲の潜在的なものを含めた脅威の排除にかかる。

 鍛えた雄共が群れて視線を向けていれば、当然排除対象となる。

 今まで暴走した森王の攻撃を受けなかったのは単に私という、寄り代(ジャクソン)に危害を加えた最優先排除対象がいたからである。

 しかし今の私は満身創痍。

 排除優先度が高いことに変わり無いが、そこに万全かつ複数の明確な脅威が現れたらどうなるだろう。


「GURU!」


 答えは簡単、

 「脅威の大小を無視して敵意(ヘイト)が移る」

 である。

 そして私らのような存在は、寄り代の知識を利用可能だ。

 つまり森王はジャクソンの知識から、自らに向けられる物がどんなものであるかを理解した。

 遠距離から寄り代を殺し得る武器として。


コオォォ…


(『マルッ!』)


 森王の口元に集まる魔素を検知して、シアが慌てて声をかけてくる。


(「しょうがないにゃあ~…ってにゃ!」)


ダッ


 シアの希望に応え、森王と看守達の間に割って入る。


カッ!


「『GAOOOooN!!!』」


 魔力を含んだ森王の吼え声が、破壊力を伴う光線として放たれた。

 戦闘系の神が使う最も基本的な技である「咆哮(ハウリング)」だ。

 神同士の戦闘では牽制にぽんぽん撃ち合うそれも、魔力を纏いさえしていない者には過剰威力(オーバーキル)というのも生緩い表現になる。

 そしてその光線は、射線に割り込んだ私にも向かって来る。


(「シアッ、準備は!?」)


(『マルありがとう、バッチリよ!』)


 斥候系である私の能力では、とてもでは無いが今の状態で直撃に耐えることは不可能だ。

 しかしこの身体にはもう一柱(シェツェナ)が宿って居る。

 そしてシアは守護系の能力も持っている。

 最低限の使用で温存してきた魔力の使い所である。

 身体の制御権を解放。




















~シェツェナinピコ~


「「吸収(アブゾービング)防御盾(シールド)」っ!」


 生身で感じ取る五感に、感傷的になる間もなく準備していた魔法を発動する。


バリバリバリッ!


 「咆哮」と「吸収防御盾」の魔力が干渉し合い激しい音を発てる。


(『上手くいった!』)


 生身で最初に発動した魔法が初級の「防御盾(ガード・シールド)」や「反射盾(リフレクター)」より難度の高い中級であることに不安が無いわけではなかった。

 しかし「吸収防御盾」は問題なく機能しており、見事に一切の洩れなく「咆哮」を受け止めていた。


「!

 …、OOOO!!」


 防がれたことを認識した森王が更に力を込めて咆哮する。


バリバリバリバリッ!


 濃度の増した「咆哮」の魔力に、干渉音が激しさを増した。


「止まって…!」


 この身体にはもう一度「吸収防御盾」を展開する魔力は残っていない。

 もし今展開している「吸収防御盾」が破られてしまったら、自分たちはともかく後ろ一帯には甚大な被害が出てしまう。

 そんな事が起こらぬよう、「吸収防御盾」が「咆哮」を受け切れるように乞い願う。


ブゥン…


 魔法は願いの力。


バリバリバリバリ、バチバチバチッ!


 展開する「吸収防御盾」が一瞬淡く発光した後、魔力干渉が放電発火(スパーク)として具現化して現れる。


(『不味い不味い不味いっ…!』)


 展開していた「吸収防御盾」に悪い変化を起こしてしまったのか、吸収する魔力が飽和し始めた。

 そして飽和する魔力が許容を超えれば、当然展開している「吸収防御盾」は崩壊する。


ビッ…、ビシッビシッ…


 魔力で構成された半透明の盾に罅が入り始め、その後の惨状が脳裏を掠める。


(『あ…、だめ…。』)


 わたしは“また”守れ無いのか。

 不甲斐なさと絶望に精神(こころ)が染まる。


(「シアッ!」)


 わたしを呼ぶ大好きな貴女の声。


(「大丈夫、私がいるにゃ。」)


 貴女の声を聞くと不思議と勇気が湧いてくる。


(『…うん、そうね。』)


ブウゥン


 魔法の崩壊が止まり、今度ははっきりとした光を湛える。


(『「止まれえぇぇっ!」』)


 わたしとマル、二柱の願いが重なり…


バチバチッ、ジ、ジジジ


 スパークの発生が止まり、「咆哮」の勢いも弱まった。


ジジ、ジッ…


「「「「「……。」」」」」


 訪れた静寂。


パリンッ


 役目を果たした盾が崩壊して霧散する。


(『…な、大丈夫って言ったにゃろ?』)


 悪戯が成功した時のように笑いながらそう言うマル。

 

(『ありがとう…、信じてくれて。』)


 無意識の緊張で強張った身体から力が抜ける。


「ga、a…。」

 

ズシャッ…


 力を使い果たした森王が崩れ落ちる音で、今がどのような状況であったかを思い出した。

 

「大変…、ぃっ!?」


 魔力を使い果たした上に重度の負傷を抱えては生命に差し障る。

 処置をしようと駆け寄ろうとするも、身体に走った痛みで自身の負傷も大概であることを認識した。


「うぅ…、はぁはぁ…。」


 痛みを堪えて何とか倒れ伏す森王の側まで来た。

 幸い残存する魔力は「回復(ヒール)」と「応急処置(ファストエイド)」、丁度それぞれ一回分使用出来そうである。


「「回復(ヒール)」。」


パアァッ


 柔らかな光が森王を包み、目に見えて負傷が回復したいく。


「…u、ソナタは…?」


 たどたどしい口調だったが理性が戻り、多少の記憶の混濁があるものの意識もあるようで一先ず安心と言える。

 後は自身の処置だ。


「「応急処(ファストエイ)…」


(「シアッ!」)


 突然マルに奪われた身体の制御権。


パンパンパンッ!


 突然の交代に対するマルへの抗議は、直後に聞こえた乾いた音。

 そして血を飛び散らせ、傾いていくピコの身体に封殺された。


 

 

 

 

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