16 超常
~ベック視点~
ガッ! ゴッ! ドゴンッ!
「……んだよ…、これ…。」
目の前で繰り広げられる目にも止まらない高速の格闘戦に、思わず吐いた言葉は酷く掠れていた。
「すぅーー、…はあぁ~~。」
口の中が渇いていることを認識すると、同時に息苦しさも感じて深く、しかし小動物が捕食者から身を潜めるように、静かに深呼吸をする。
「…化け物。」
ジャクソンの威圧を受けてから蹲っていた奴が、恐怖を滲ませてボソリと呟く。
そいつは確か民間船に対して不当な金銭の要求を繰り返し10年はここにいる奴だった筈だ。
そいつからして見れば猛獣よろしく唸り吼えるジャクソンの姿は、普段寡黙な武漢を体現していることからは微塵も想像がつかなかったことだろう。
(…分かるぜ。
一人だけでもヤバいのにそれが複数居るんだもん
な…。)
こればかりは奴に同意せざるを得ない。
なんと言っても、あの岩と岩をぶつけ合うような、生身から出してはいけない音を出す戦闘を繰り広げている片割れは見知った同期だ。
譲りに譲ってジャクソンはまだ分かるが、ピコに関しては本当に意味不明だ。
ただでさえ、仮にも正規の訓練を受けた奴が気絶するレベルの威圧を放つという時点で常軌を逸している。
加えてその直後にあの戦闘。
威圧だけならば戦場で似たようなことを体験することもあるだろう。
だが押し固められた地面を陥没させるような威力のぶつけ合いなど最早艦隊戦レベルだ。
つまり何が言いたいかというと、この闘いを見て「化け物」という感想を抱き恐怖で蹲るのは正常ってことだ。
(あいつら、大丈夫なのか?)
じゃあ異常なのは何か?
それはまともに見ることも叶わない埒外の格闘戦を、微動だにせず食い入るように見つめる奴らのことだろう。
そうなった奴には二通りのパターンがあった。
ずばり、威圧を受けても立っていた奴と気絶した奴だ。
俺を含め、この手合わせを見物していたほとんどは威圧を受けて膝を着かされた。
威圧から解放されてからは、この場から離れたり、物陰に隠れたり、その場に蹲ったりと統一性の無い行動を取っていた。
しかし俺が“異常”だと判断した奴らは、何かがそうさせているように全く同じような行動になっている。
立っていた奴らは耐性があるか鈍いかにしても、気絶した奴らは目覚めた際にパニックとなってもおかしくは無かった。
「まさか、本当に超常の存在だってか?」
お伽噺に語られるそれらは、圧倒的な力に魅入られるか、圧倒的な力に支配されるというというものが多数存在する。
(…こんなことを考えている俺はどっちなのか
ねぇ?)
当然ながらその問いに応える奴は居なかった。
だがすぐにその問いは意味を成さなくなった。
何故なら事態は思わぬ方向に展開し、急速に収束したのだから。
~ピコ視点~
ガッ!
「ふぅ…っ!」
全てのダメージを回復したように見せかけてから幾度目かも定かで無い衝突。
ブラフが上手くいったこともあってか、森王は一撃の威力から手数に重きを置いた闘い方を取っている。
「GaAA!」
ゴッ!
但し、当然ながらその基準は寄り代となっており、依然として当たれないことには変わり無い。
たとえそうだとしても、受け流せる範囲であることは大いに意義がある。
ガツッ!
「っぅ…!」
だが何事にも限度はある。
魔力で覆い強化したことで普通ではあり得ない硬度となっている身体であるが、負傷という綻びが存在している為「無いよりはマシ」程度にしかならない。
そしてその「無いよりはマシ」な防御も遂に誤魔化しを効かせられなくなってきた。
ここまで保っただけでも最良と言える。
(だけどっ…!)
ならばイケる所までいってみようではないか。
「Gu…、GAAA!」
大分消耗した様子の森王も終わりを感じているのか、言うことを聞かない身体で再三の飛び掛かり攻撃を仕掛けて来た。
「OoooN!」
全体重を乗せた、上から叩き付ける大振りの一撃。
「はぁああぁっ!」
止めの意図を隠しもしないその攻撃に、此方も全身を使って繰り出す拳をぶつける。
ドゴオォォンッ!
衝突音というよりか爆発音といった表現が正しいと思われる音が、辺り一帯の空気を震わせた。
「Gu…、ooo…!」
切れかかっていた身体強化のなけなしの全魔力を注ぎ込んだ甲斐あって、相当なダメージを与えることができたようで森王は苦悶の声を上げている。
「…づ、あっ…!」
当然此方も無事では済まされず、この戦闘で酷使してきた右腕は完全に使い物にならなくなった。
(「骨を断って漸く肉を切れたみたいだにゃ。」)
不当な対価を払ったことに、自嘲に似た考えが浮かんだ。
(『何馬鹿なことを!?
早く治さないと!』)
ここまで黙っていたシアが我慢出来ずに「回復」をかけようとする。
(「“まだ”にゃっ!」)
すかさず静止したのでキツい言い方になってしまったが、シアが驚いたことで「回復」は未遂に終わる。
バタバタバタッ
そして内側で行われた数秒のやり取りの間に、予想していた中で不味めの事態へと発展していくのであった。
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