15 ジリ貧
ビキィッ
「いっ…!」
右腕全体に走った予期外の痛みに声が出る。
(「チッ、下手打ったにゃ…!」)
通常時より伸びていると言えども、牙と拳では拳の方がリーチが長い。
暴走している森王とてそのくらいは承知している。
その上で噛み付きという手段を取ったのであれば、反撃に対する反撃を用意していたことだろう。
そのため極力攻撃の意図を隠蔽するよう、森王の勢いを利用してダメージを与える手段をうった。
分かりやすく言えば「防御の為に腕を構えたら偶然顎に当たった」という形を狙っていたのだが…。
防御姿勢を見せてもダメージで反応が鈍ったように見せかけたことで、奴は悦び勇んでそのまま飛び付いて来た。
刹那の瞬間の読み合い“は”私が制した。
しかし私も奴自身でさえ読み違えた、ジャクソンの身体のダメージという要素。
思いの外ダメージを蓄積していたジャクソンの身体は、森王の意図より鈍く動いた。
結果として私が構えた腕に顔面から諸に衝突するという、端から見てなんとも間抜けな出合いとなった。
しかし内情的には大小の違いがあれど互いにダメージを受ける痛み分け。
「GA…、Oo…。」
…バッ!
暴走状態である筈の森王は呻き声をあげ、ふらふらと二三歩下がった後に跳び退る。
「……チッ。」
戦いの長期化が確定し、思わず舌を鳴らす。
ピコは私のことを戦闘狂と認識している節があるが、私は戦闘に勝つことが好きなのであって、戦闘そのものに対しては積極的に仕掛ける程ではない。
私がピコを戦闘に煽るのは、ピコが勝てる戦闘であっても避けようとするからである。
「!」
(『マルッ!』)
バッ!
それはさておき、シアが焦った呼び掛けをすると同時にその場から跳び退く。
ドゴォッ!
跳び退いた一瞬後にクレーターがまた一つ、運動場に形成された。
「Ooo…。」
こちらの僅かな隙を突けたと思っていたのだろう。
叩きつけた拳を避けられた森王は、私を虚ろな目で見つめ怨めしげな声を漏らしている。
「…惜しかったにゃ?」
「Uuu…!」
雑に煽ると思いの外反応があることに、森王側も限界が近いということを察する。
(「とはいえ、にゃぁ…。」)
シアに「継続回復」をかけて貰って回復した分、肉体ダメージの割合は向こう側が大きい。
しかし肉体強度を加味すると、こちらが効果的なダメージを与える手段を一つ喪失しただけに等しい。
更にダメージ自体は回復出来ても、ダメージを受けて消耗した体力は回復しない。
それは相手も同じであるが、肉体性能的にこちらが限界を迎えるのが先だ。
つまり、だ。
私はまともなダメージソースが無いなかで、然程時間をかけることなく、森王を戦闘不能にしなければならないわけだ。
しかも相手は私を仕止める為に形振りは構わないと来ている。
(「普通は“詰み”一歩手前…。」)
「Ooon!」
ゴガァッ!
吼えた森王が地面にめり込んだ拳を、土砂を掬い上げながら振り上げる。
「くぅっ…!」
ビシビシッ!
散弾のように高速で広範囲に撒き散らかされた砂礫が体表を打つ。
ビュッ!
「何のぉっ!」
ガツッ!
巻き上げた土埃を目眩ましとして飛び掛かって来た森王を蹴りで迎撃する。
が、勢いを完全に抑えるには至らない。
「ぅらっ!」
ドッ!
だから森王を踏み台として、もう片方の足で思い切り踏み切る。
ブワッ!
脚力と森王が飛び掛かって来た勢いが合わさり、地面を背にして身体が宙を舞う。
…クルリ、ズザザッ
空中で後ろに宙返りして足から着地。
意図した通りに再度距離を取る。
「ふぅ…。
随分と甘く見てくれるにゃ?」
先ほどの奇襲といい、今この瞬間といい、動きに粗さが目立つ。
(「でも私は生き汚いからにゃ。」)
森王とてダメージは負っている。
怪我を押して激しく動けば、当然その怪我により継続してダメージを蓄積することとなる。
肉体の防御力が意味を成さないそれは、ともすれば隙を見て私が与えるダメージを上回る。
時間が敵に回っているのは私だけに限らないのだ。
「よ~く見るにゃ?」
じわり
身体を巡る熱を意識して体表に回す。
「!」
「はっ…、気付いたにゃ?」
僅かに目を見開いた森王を鼻で笑い挑発。
その間にも石礫の角で裂かれた皮膚が、時間を巻き戻すように閉じていく。
「確かに器の能力的にはそっちが圧倒している
にゃ。」
じわりじわり
掠り傷はもう見受けられ無い。
「そのままでも力尽きるのはこっちが先ということも
認めるにゃ。」
比較的大きな傷口からの出血も止まる。
「でもそれって“普通なら”の話にゃ?」
ぱぁっ
仕上げと言わんばかりに熱が弾け、全ての傷口の治癒が完了する。
「お前が相手しているのは私にゃ。」
予想だにしなかった光景に硬直する森王に、傷一つ無いことを見せつけ嗤う。
所々破れた運動服が、確かに傷を負っていたことを証明していた。
「ほら、掛かって来るにゃ?」
余裕綽々というように重ねて挑発。
「GAAAAA!!」
一際大きく吼え挑発に乗って来た森王。
浮かべていた笑みを消して迎えうつ。
身体を巡る熱は霧散していた。
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