11 瞬く
~ジャクソン視点~
(しまった!)
己の拳をまともに受け宙を舞う小柄な身体。
彼女の能力の不自然さに、何か裏があると思った。
だからこそ油断せず持てる力のほとんど全力を振るった。
久しぶりの格闘試合で調整を誤った。
脱力した身体は受け身をとる様子は無く、先日修繕が完了したばかりの塀に向かう。
瞬間的に若き日の記憶が呼び起こされる。
──五十数年前──
俺は軍で部隊を指揮する傍らで、フォレスト家が引き継いで行くべき武術の習得に励んでいた。
そしてキャトラス軍が大敗した大戦の直後、師範である叔父に免許皆伝の試験を打診された。
元々一通りの技術は修めていた俺は「漸く叔父が認めてくれたのだ」と、当時は思っていた。
しかしそれは間違いであったと、謝罪しに向かった叔父の病室で聞かされた。
…………………。
…………。
…。
試験の日、俺は後に起こす悲劇など思いもせず、ただ師範との試合に勝利して認められることだけを考えていた。
家臣たちが言う「歴代最強」との評価に恥じぬ結果にするつもりだった。
幼少の頃から師事していた叔父。
その強大であった壁を越える時が来た。
しかし実際には…。
メリィッ…!
「グブッ!?」
俺の拳はあっさりと師範の身体の真芯を深く捉え、
…ドオンッ!
そのまま屋敷の訓練所の壁に叩きつけた。
……………。
叔父は三日間生死をさ迷い、一命を取り留めてから全治一年という大怪我であった。
叔父はこうなることが薄々分かっていたと言った。
ならば何故試験を行うことにしたのか?
大雑把に言えば「戦争のせい」と叔父は詳細を話した。
現在闘気術を習得しているのは叔父と父、そして俺の三名だった。
その内父はあくまで習得しているのであり、教示可能な者は叔父のみであった。
そして父と俺は軍に属している。
叔父の後継は俺のみ。
本来ならばもっと精神的に安定してから試験を行うつもりであったらしいが、過去にない犠牲の出た戦いで万が一を考えて時期を早めたのだ。
……………。
こうして俺はフォレスト家当主候補筆頭兼闘気術師範代という肩書きとなった。
過去に例の無い「兄弟が存在しながらの兼業」に、弟が劣等感を拗らせるのは明白であった。
そしてあの事件が起こった。
叔父に師範代と認められてから数日。
弟から「父が呼んでいる」という伝言を受けた。
修練から脱落してから避けるような態度であった弟からの伝言に、俺は珍しさを覚えながらも「父は忙しく手が離せなかったのだろう。」と解釈した。
そしてたどり着いた父の執務室。
声をかけても一向に反応がなかったため踏み入れたそこで、頭から血を流し机に伏す父を発見した。
そこから何があったのかは、目まぐるしく変わる状況に加え自身の動揺もあって良く覚えていない。
ただ救急隊が到着した頃には既に父は死亡が確認され、死因は後頭部の損傷であったことが判った。
明らかな他殺であった。
しかし決定的な証拠は発見されず、屋敷の者たちの「父とジャクソンが言い争いをしていた」等の証言、俺が父を凶器無しに殺害可能であること、第一発見者であること等から最有力な容疑者とされた。
そして事情聴取のため警察署に出向いていたとき、証拠が発見されたということで逮捕となった。
それから軍が介入、持て余されていた俺は身柄を引き渡され軍刑務所に入れられた。
ここでも俺は冤罪に憤っているところに、服役者の集団に暴力を加えられたことで大立回りを演じ、その場にいた全ての者を病院送りにした。
──現在──
後になって冷静になった俺は、二度とこの力を振るうことがないよう軍刑務所でひっそりと終を迎えるつもりであった。
しかしフォレスト家外に現れた闘気術の習得者に若き日の自身と同じ轍を踏ませぬよう、力に振り回されるようであれば師となるのも吝かではないと思った。
しかし散々後悔したにもかかわらず、自身の性格は変わっていなかったらしい。
年を経て老成したように思えても、使わない術は未熟なまま。
むしろ経た年の分身体は錆び付き鈍くなる。
以前は意識せずとも出来ていた加減を誤り、結果は同じことの繰り返し。
チラッ
「む!?」
加速した思考、動かぬ身体。
相手の小柄な身体が飛んでいくのを眺めるしかなかった眼が違和を捉えた。
ライトに照らされていると言えど今は闇夜だ。
見間違いかと思ったが一度気付いてしまうと確かに、頭部や袖から覗く試合相手の毛皮が黒みを帯びている。
くるん、トンッ
「!?」
塀に激突するかと思われた相手が空中で身体を回転させ、塀に着地する。
そして、
ビュッ
「何と!?」
一度浮いた身体を重力が捉える前。
縮めたバネが跳ねるように、夜の闇を吸収したかのような変化を見せた相手が飛び込んで来る。
ドパアァンッ!
咄嗟に交差させた腕に響く衝撃。
防御して尚芯に響くその一撃は、先ほどまでの力任せの拳と異なる、修練を重ねた者の拳であった。
「ふんっ!」
ばっ
腕を解く勢いで相手を振りほどき、距離をつくる。
そして見えた相手は口角を僅かに上げ、紅くなった瞳に愉しさを滲ませていた。
「…さあ、第2ラウンドにゃ。」
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