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10 1stラウンド


パンッ!


 掌打音が薄暗くなってきた運動場に響く。


パパパッ…!


 様子見の一当てを完全に制されたことにより、徐々にギアを上げていく。

 ジャクソンも威力の増加に完全に流すことが出来なくなっている。


「新入りが押しているぞ!」


「くそっ…、大穴か!?」


 身体強化により上昇している聴力が、運動場の外周にたむろする服役者(ギャラリー)達の言葉を拾う。

 内容からして賭けでも行っているのか、わたしが優勢だと見えているらしい。


「りゃっ!」


パンッ!


 拳の連打の締めにハイキックを見舞う。


トンッ…タッ


 左側頭部を狙った蹴りは、ジャクソンの筋肉の詰まった腕に止められる。

 すかさずその腕を踏み台に、残った左足で跳躍。

 距離を取って仕切り直しだ。


「ふぅ…。」


「……。」


 互いに隙を伺う小康状態…に見えるだろう。

 だが実際は…


(わかっていたつもりだけど、ヤベェにゃ…。)


 ジャクソンの言う「闘気術」は案の定「身体強化」であった。

 以前に経験したことであるが、「身体強化」の出力は魔力量に比例する。

 そして家系のおかげかピコの魔力量はジャクソンを遥かに上回っている。

 しかし打ち合った結果は互角。


(「いや、完全に遊ばれているにゃ。」)


 …マリーダの指摘の通りだ。

 最初の一撃を流されたことから、単発では分が悪いとして連撃という手段を取った。

 しかし試した結果は見ての通り、一撃を通すどころか体勢を崩すことも出来やしなかった。

 

「…分からん。

 何故そのような未熟で闘気を使う?」


 これまで黙って攻撃を受け止めていたジャクソンが、こちらを睨むような表情で尋ねてくる。


「いや…、体術はともかく闘気の扱いは出来ている。」


 訂正、独り言のようだ。

 しかしその顔と低い声音は、猛獣が得体の知れないモノに対して威嚇しているようで、本能的な恐怖を感じる。

 

(「“ようで”じゃなくて“正にその通り”って感じじゃ

 ないかにゃ?」)


(『どうゆうこと?』)


 シアの質問に対するマリーダ曰く、どうやらジャクソンの言う闘気術(身体強化)では「永き修練の果てに習得するという認識なのではないか?」ということらしい。

 つまり体術が未熟であるにもかかわらず、身体強化(闘気術)を習得していることを怪しんでいるということだ。


「…そうか、そういうことか。」 


 ジャクソンの中で何かしらの結論が出たらしく、眼光が鋭くなる。


(…嫌な予感がする。)

(「楽しそうな感じがするにゃ。」)


 わたしとマリーダの予感が重なった。

 予感の内容は正反対に等しいものであるが、それは逆に予感確固たるものにしたらしめた。


「ならば…。

 此方から行くぞ!」


ドンッ!


「!」


 地面が弾ける音に、反射的に後ろに跳びずさる。


ブォンッ!


 鈍い風切り音。


…ブワッ!

「っ!?」


 遅れて届いた風圧に、避けなかった場合の惨状を想像し冷や汗が出る。


「ぁっ…!」


()な!)


(「おお~、良く避けたにゃ。」)


 マリーダが呑気な調子で褒めてくるが、そのことに抗議する余裕はなかった。


「ふっ…、この程度は避けるか…。」


 何てことも無いように呟くジャクソンだが、当たれば軽く首をへし折るか、最悪頭が胴からフライアウェイする右フックを「この程度」呼ばわりとは…。


(冗談じゃねぇにゃ!?)


 …………………。

 …………。

 …。


ブンッ…ブォンッ!


 ジャクソンが攻勢に出て数分。

 ピコが攻めていた時は打撃音が響いていた運動場では、拳が空気を押し退ける音が鳴っていた。


「……よく避ける。」


フォンッ…!


 全力ではないが本気の拳の悉くを避けられ、ジャクソンはピコの評価を「素人に毛が生えた程度」から「一応経験者」に改めていた。


「っ…!」


サッ


 一方のピコは回避に専念することで辛うじて当たっていない状況であり、反撃などと考えることすら不可能であった。


ビュッ!


「ぅっ!?」


 しかし攻勢時の連撃と、ジャクソンの拳の余波を避けるための安全マージンを取った回避行動により、徐々に追い詰められつつあった。


(なんとかしないと…!)


 時間が経つほど体力は減り、被弾の可能性が高くなっていく。

 最低耐久(紙装甲)のピコでは一撃を喰らうだけでアウトだ。

 

ビッ!


「チィッ…!」


(掠った!)


 最早回避すら満足に行えなくなってきたことに、つい舌打ちが出る。

 いっそのこと防御に強化を全降りして一撃を受け降参するという手も


(「却下にゃ。」)


 無いようだ。


(じゃあどうしろって!?)


 ジャクソンの拳の威力は組み手のそれを逸脱している。

 勝ち目が薄い以上、これ以上魔力を消耗して無防備に受ける理由は無い筈である。


(「ふぅ…。」)


 呆れたというように溜め息をつくマリーダにイラッとくる。


(「平和ボケには早いんじゃないかにゃ?」)


(戦争は終わったにゃ!)


 現ドギヘルスとは技術交流が試験的に始まり軍の役目は縮小しつつある。

 今さら死力を尽くして戦う精神など不要である。

 ましてや軍から離れた場所でなど。


(「教えてやるにゃ。

 生きている限り脅威は潜在しているにゃ。」)


 そんなことを言われても常に気を張り詰めて生活することなど不可能だ!


(「ああ…。

 だから戦いの時くらいは真剣になるのが一端の戦士

 というものにゃ。」)


戦闘狂(マリーダ)の常識何か知らんにゃ!)


 元々…否、現時点でもわたしは闘争など可能な限りは避けたいと思っている。

 英雄と呼ばれているが、正直戦士の心構えなどは無い。


(「…ふぅん。」)


 気の無い返事。

 そもそも命をかける試合は意義が違うのだ。

 どうにかマリーダを宥めようとする。

 試合(死合い)に対するスタンスの相違。

 だからこそあくまで試合と認識するピコは悪手を打つ。


「隙だな。」


(!?ヤバッ…)


 戦闘において意識の散漫は格下相手であっても致命的である。

 そしてジャクソンは体術であれば遥かな格上。


ドムッ…


 気付いた時にはジャクソンの拳がピコを捉えていた。


「カッ…ハ…!」


 めり込んだ拳の衝撃に、体内の空気が強制的に吐き出される。


ふっ


 立っている地面の感触が消える。

 ジャクソンが拳を突き出した姿勢のまま後ずさっていく。


(あ、これ…)


 余りにも不自然なその現象に、自身が殴り飛ばされていることを理解して


プツン


 視界が真っ暗になった。

 

 

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