1 今日から始まる監獄ライフ
お待たせ(?)しました!
アフターストーリー、記念の一章スタートです。
「判決を言い渡す。
ピコ・フローレンス被告に、一年の服役。
また服役後、然るべき階級にて三年の強制軍属と
する。」
…………………。
……………。
………。
ガチャンッ
「……こんな結果になって自分は残念でなりません。」
わたしを牢に入れた刑務官が、そう言い残し立ち去る。
「………。」
はい。
ということで、牢屋の中からこんにちは。
初めましてピコ・フローレンスです。
久しぶりの方はお久しぶりです。
いきなりの刑務所スタートに困惑しているのではないでしょうか?
(「誰に向かって喋ってるにゃ?」)
わたしを寄り代とする一柱、マリーダが呆れた雰囲気をかもし出している。
(…いや、特には。
小説とかのモノローグだとこんな感じかなって…。)
(「…オーケー、ピコも困惑しているのにゃ。」)
(『「あなた疲れてるのよ…。」ってやつね!』)
わたしとマリーダの会話に加わるのは、こちらもわたしを寄り代にしているご先祖様のシェツェナ。
(『シアって呼んでね?』)
はい。
他所から見れば牢内のベッドに腰掛けて茫然といった様子のわたしですが、内部では大変賑やかに過ごしております。
(「いい加減にするにゃ。
シアも悪ノリしないでにゃ。」)
元愉悦犯のマリーダに注意されてしまった。
(『ごめんなさ~い♪
…ところで、マルはいつまでその語尾なの?』)
それな。
とまあ、何故わたしが軍事裁判で有罪と判決されたかというと、単純に言ってしまえば「同士撃ち」だ。
しかし誤解を恐れずに言うと、「同士撃ち」自体は割りと頻繁に発生している。
特に要塞「マズル」攻略戦や要塞「ゲート」攻略戦のように七桁規模の大戦になると、前線の戦死者の2~3割の死亡原因が「同士撃ち」によるものだとされている。
そしてその大半が故意の有無を立証出来ず、乱戦における不慮の事故とされるのが暗黙の了解となっている。
ここまでを整理したところで、わたしが裁判にかけられていることに矛盾が生じる。
だが矛盾は存在しない。
つまりわたしは、裁判にかけざるを得ないほど明確な意思の下に「同士撃ち」を行ったのだ。
勿論「同士撃ち」が立件された場合、かなりの厳罰が下される。
程度によっては死刑も珍しくなく、最低でも十年単位の禁固刑となる。
ここでまたもや矛盾が生じる。
「同士撃ち」は立件された時点で十年単位の禁固刑が確定とされる。
だがわたしに下された判決は「一年の服役と三年の強制軍属」という、罪状の割には無いに等しいものである。
まあこれも“但し”がある。
というのも、わたしが明確な意思の下で行った「同士撃ち」は死者が存在しない。
とはいえ「同士撃ち」という行為が厳罰ものである。
しかしその点についても、わたしのそれまでの軍への貢献や市民の嘆願署名やらを加味した上で、「違反を例外無く罰した」という体裁を保ったというわけだ。
(「分かり切った体裁は無いに等しいけどにゃ。」)
マリーダの言う通り、通常であれば軍内で完結する軍事裁判に一般市民の署名が集まるほどに、わたしの裁判は広く知られている。
いくら独自の裁量を有する軍事裁判も、市民の暴動を起こすような判決を下すわけにはいかなかったのだろう。
名声はあるに越したことがないことが証明された一件であった。
(だからと言って積極的に名声を稼ごうとは思わない
けどにゃ…。)
こういったときには有用である名声も、通常時には煩わしくなることが多々ある。
それに名声稼ぎを行おうとすれば、いつしか本当に擁護出来ないことをやらかすのが定番だ。
(『わたしたちの力は平和の為に使うべきです。
そうしてきたからこそ、今回のようなときに助けて
貰えるのですから。』)
実に神っぽいことを言うシアである。
因果応報、自業自得、情けは人のためならず。
シアが言ったことは、つまりはそういうことだ。
そんなこんなで夕食の時間だ。
ガヤガヤ…
服役者が一同に会する食堂は、ここ最近で一番賑わっていることだろう。
わたしの入れられた場所が独房であったのは、ある意味幸運だ。
モグモグ…ゴクン
「ふむ…、普通にゃ。」
今日のメニューは焼き魚定食であった。
噂や創作では非常に不味いとされる監獄飯だが、どうやら軍刑務所ではそんなことはないようだ。
確かに汁物の具は申し訳程度で、副菜の野菜は萎び気味、メインの焼き魚もパサパサだ。
しかし品質が悪いというだけで食べられない物は無い。
非公認宇宙都市「ノーサイド」の一般層より、よほど良い物を食べているまであり得る。
あそこは富の集中が激しいという話だ。
戦争から逃れた者たちが建てた都市だが、戦争が終結した今、これまでのように放置されることはないだろう。
周囲が近所の牢の数名グループで談笑する食堂の中、そんなことを考えながら黙々と食事をとる。
それが逆に目立ってしまったのだろうか?
「おうおうおうおう!
お前見ない顔だな?」
「新入りか?
なら先輩に挨拶しないとな?」
そう言う取り巻き二人を連れた、いかにも悪そうな顔をした雄がよってきた。
(「なんか芳しいのが沸いたにゃ。」)
(『こういうの「てんぷら」って言うんです?』)
そういう“テンプレ”はいらないかな~って…。
いきなり投獄される主人公がいただろうか?
(いや、いない。)←反語風
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