化かされ
乗ってきたバスの運ちゃんに目的地までの道を教えてもらいバスを降りた。
ビュゥゥゥゥーー!
風が吹き荒れている。
「うう、寒み」
見渡す限り雪で真っ白だ。
雪は降っていないけど強い風が吹き荒れているせいで、降り積もっている雪が巻き上げられ視界が遮られる。
行くか、早く行かないと日が暮れちまうからな。
教えてもらった農道を遠くに見える部落目指して歩む。
俺は歩きながら此処にいる訳を思い起こしていた。
高校に入学してから高校受験のために潰れた中学2〜3年の青春を取り戻そうと、チョット羽目を外したら外しすぎて2学期の終わりごろには留年が決定。
3学期を真面目に過ごしても必要な出席日数に届かない。
それに激怒した親父が担任と交渉して、2学期の終わりで留年が決定しているのなら3学期中は学校に行かせずに、親父の従兄弟が宮司をしている神社に放り込んで俺の心根を叩き直すという事が、俺の意向なんて無視して勝手に決められた。
で、正月三箇日が過ぎたばかりの1月4日の今、真っ白な田んぼに囲まれた農道を歩いているって訳だ。
寒くて身体をすくませて歩く俺の目に、雪に覆われている田んぼを何かが横切って行くのが映った。
何だ?
目を凝らしてよく見る。
犬? 違うなぁ……、あ! 狐だ。
俺は雪を手に取り硬く握りしめ雪玉を作って狐に向けて投げた。
「ヨシャ!」
ストライク、雪玉が狐の頭に命中。
二個目の雪玉を投げようと雪に手を伸ばしかけたけど、その前に狐はキャンキャン鳴きながら逃げちまった。
逃げていく狐を見ていたら、目から火花が散るほど強く頭を殴られ怒鳴られる。
「コラ! 何をしている!
お狐様に雪玉を投げるなんて罰当たりな事をするな!」
涙目になり叩かれたところを両手で押さえながら後ろを向く。
憤怒の表情の若い女が俺を睨んでいた。
「うん? 見かけない奴だな。
余所者か?
何処に行くんだ?」
俺の口から罵声が発せられる前に、女が畳み掛けて質問してくるので勢いに押されて答える。
「こ、この先の神社に行くんだよ」
「神社? 狐神社の事か?」
「そんな名前だったかな?」
「それなら此方の道よ」
女はそう言いながら山の方へ続く道を指差す。
指差された山の方を見てげんなりしながらも礼を言う。
「あ、どうも」
「この道を真っ直ぐに歩けば神社に行きつくから。
それから!
狐神社はその名の通りお狐様を祭っている神社なの、だからお狐様は大事にしなさい。
分かった?」
「はあ、分かりました。
そんじゃ」
暴力女の説教をこれ以上聞きたくないってのもあって、おざなりに返事を返しサッサッと山の方へ向けて歩き出す。
山の方へ歩きだしたら雪がチラホラと落ちて来た。
強く降りだす前に神社に辿り着かなくては。
山の上に向かう坂道を登り始めたら一面見通しの良い田んぼだった周りの風景が変わり、道の両脇に生い茂る木々が枝に大量の雪を乗せ壁のようになっていて視界を遮る。
雪が積もり滑りやすい坂道を転けないようにゆっくりと登っていたら、生い茂る木々の奥の方からコーン! と獣の鳴き声がした。
獣の鳴き声が周りに響いた途端、ドサドサドサドサと木々の上に乗っていた雪が落ちて来る。
「ウオ! 危ねえ」
危うく雪の下敷きになるところだった。
生い茂る木々の壁の所為で気が付かなかったけど、いつの間にか日が暮れている。
数十メートル毎にある街路灯のお陰で道に迷う事は無いだろうけど。
でも……まだ先かなぁー? 寒いよー、腹減ったよー。
歩き続けていたら降り注ぐ雪に消されかかった足跡に気がつき、俺はその足跡を辿りながら神社に向けて歩き続けた。
獣の鳴き声が響いたとき神社の鳥居と参道にも大量の雪が落ち、鳥居と参道を雪の下に埋めてしまう。
表の鳥居と参道だけで無く、神社の裏にある駐車場と止められていた宮司の自家用車も雪に埋まった。
雪が舞う夜、少年が一周前の自分の足跡を辿りながら神社の周りをグルグルと歩き続けている。
木々の奥から笑みを浮かべた狐が眺めているとも知らずに。