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八、国王、怒る

 卒業パーティーから一か月程たった都の貴族社会は、混乱の中にいる。


 第一王子レイジは、辺境伯家令嬢ミシェル・スキンファクシとの婚約を破棄し、代わりにアンゼリカ・メディアを婚約者にする事を発表した。


 これに激怒したのは、この国の国王である。


 元々この婚姻は、第一王子に、国内最強とうたわれる武力を持つ、辺境伯家を後ろ盾につける為のもの。彼への王位継承を、確実にする為の政略結婚だった。


 第一王子は正直、能力的には、有能な第二王子に劣るという事は王は分かっていた。それでも、「政治・軍事に関しては下の者達がフォローしてやれば良い。それより、下手に第二王子と後継者争いになった方がまずい」と、以前から王太子はレイジであると周囲に宣言していた。実際、その様に彼を扱っていた。


 が、かえってこれが良くなかった。元々、調子に乗りやすい性格だった彼は、みるみるうちに増長し、傲慢で、無能で、何かあるとすぐにかっとなる、人望など得られるはずもない性格になってしまった。なまじ顔は良かっただけに、女からはモテるのが、更に彼を勘違いさせた。


 そうなってくると、こんなのより、第二王子を次期国王に……! という派閥も出てくる。これはいかんと、国内最大の武力を持つスキンファクシ家を後ろ盾にすべく、伯に頼み込み、そこの正室の娘であるミシェルを、彼の婚約者にあてがったのだが……。結果は、レイジ自ら婚約破棄をした上で、どこの馬の骨とも知らぬ男爵令嬢を婚約者にすると宣言したのである。


 国王が、頭を抱えたのは言うまでもない。


 報告を受けた時、当初は、いくら何でもこんな馬鹿な事はしないだろうと、誤報を疑った。だが、辺境伯直筆の恨み節がこもった抗議文。それと共に、これまでの、レイジの婚約者への非道な行いを全て記録した日記の写し付きで、その分を含めた慰謝料を請求する訴状を渡された事。


 何より、レイジ直々に、その原因であるアンゼリカ・メディア男爵令嬢と、取り巻きの貴族令息達を伴って、彼女との結婚の許可を取りに来た事で、信じるしかなくなった。


 そして、結論を出した。もう、こいつに王太子は無理だ。と。


 王は即座に、王子をたぶらかしたとして男爵令嬢を、それらを見ながらも、王子を諫めるどころか、それを煽り、婚約破棄の場では共にミシェルに罵声を浴びせたという、取り巻きの貴族令息達を逮捕した。


 そして、王のあまりの怒りに愕然としながら、レイジは丸一日みっちりと説教された上で、廃嫡と、平民落ちを宣告された。


 ここにきて、レイジはようやく、焦り始めた。自身の行動で廃嫡、あまつさえ、平民に落とされるなど想像もしていなかった。そして、王の前で頭を地面にこすりつけて、許しを請うた。


 そして、こう言った。「私は、あの女狐の如き男爵令嬢や、無能な取り巻きに騙されていたのです、必ずや、ミシェルと復縁するので、自分だけは助けて欲しい」と。


 王は溜息をつきつつ、一ヵ月間待つ、とだけ言った。王としては、すぐにでも放りだしたかっただろうが、そこは実の息子。最後に残った情が、それを思いとどまらせた。


 それに、こうも思った。これだけ説教したのだ。少しは反省しただろう。復縁まではいかなくとも、彼が誠心誠意ミシェルに謝罪すれば、怒り狂っているであろう辺境伯家側の溜飲も多少は下がるだろうと。


 しかし、この判断が後に、悲劇、あるいは喜劇を引き起こす事になる。


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