表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/12

七、意外と世界は狭いみたい

 前々から兄上達が両親達や家人達には、(どこぞの王子と違い)前もって完璧な根回しをしてくれていた様で、私の新しい婚約者を、リチャードにするという事に、特に障害は無かった。


 中央の貴族達の間では私の事を、「王子に振られ、他に嫁ぎ先が無いので、家臣の息子とやむなく婚約した傷物令嬢」などと、揶揄して嘲笑する奴もいるそうだが、所詮、人の噂も七十五日。他の奴がやらかせば、そちらの方へ皆の関心は移るし、何より私は、田舎で休養しながら鍛錬や嫁入り修業をしているので、それらの噂で心を痛める事は無かった。


 そうして、リチャードと付き合う事になって数日が経った頃、家に、ある母娘が訪ねてきた。曰く、「娘がここの人間に助けられたので、改めてお礼が言いたい」という事である。

 

 まさかと思い様子を見に行くと、果たして、そこに居たのは、メアリー・マクナリー。故郷に帰る道中で助けて、占いをしてくれた少女と、その母親であった。


「あなた達、わざわざ来てくれたの?!」


「これはミシェル様! 改めてお礼に参りました」


「はい。我が娘の恩人です。一度、母である私からも一言お礼申し上げたく」


 メアリーとその母親は、改めて平伏した。


「私は貴族として、当然のことをしたまでよ。頭を上げて」


「ミシェル。道中でそんな事をしていたのか。凄いじゃないか。盗賊相手に大立ち回り!」


 それまで対応をしてくれていたリチャードは、ニコニコと笑いながら、私を称えた。今までが今までだったせいか、恋人に褒められるというのは、どうも、慣れない。


「ミシェル様、とってもかっこよかったです!」


「どいつもこいつも相手にとって不足だったわ。私にかかれば朝飯前よ。もっと、命をかけた闘争がしたかったくらいよ」


 母子から改めて礼の言葉を貰い、その後は、しばらく雑談したが、メアリーの母君は、なかなか凄い人だった。


「隣国の『聖女』? 貴女がですか! 」


「昔の話ですよ。ざっと三十年以上前の事です」


 母君、名をケイシー様というらしいが、彼女は驚いた事に、元々隣国で神殿に仕えていた『聖女』であったという。彼女は、この国の言葉は完璧にマスターしていて、一見、隣国人には見えなかった。


 聖女というのは、魔法や、占いや、薬を用いたトリップを用いて神託を受け、それを人々に伝えるという役目を、生まれながらにして受けた巫女の事である。まぁ、今はそういう、学術的な事はどうでも良い。問題は彼女が隣国の聖女という事だ。


「元々、私は隣国の神殿にお仕えしておりました。そこで、私の場合、日々占いで、神からの神託を受けていたのです」


 こころなしか、少し、リチャードの顔が厳しくなっている。私も似たような顔をしているだろう。


 この国と隣国の仲はあまりよろしくない。現在は戦争状態にこそなっていないが、かつては、血生臭い事件も度々起こっているし、国境沿いでの小競り合いなどは現在でも定期的に発生している。


 特に辺境伯家などは、歴史的に最前線で彼らと戦ってきたから、隣国の名が出た時に私達が警戒するのは、悲しいが、血に刻まれた一種の本能の様なものだ。


 空気が変わった事が、ケイシー様にも分かったのか、あえて、にこやかに話を続けた。


「ふふ……ご安心下さい。隣国出身といっても、私はそこから追い出されたのです。もはや彼の国に情はありません」


「追い出された?」


 私が反芻すると、ケイシー様は話を続けた。


「はい。私は自分で言うのもなんですが、腕のいい占い師でしてね。神殿での地位は中々高かったのですが、ね。政治的なセンスというのは持ち合わせていませんでした。まぁ当時は十六、七歳の少女でしたから、その辺りは仕方ありません。当時、かの国は、この国と戦争をしたがっていました。内政でポカをやらかして、民の不満が溜まっていましたから、それから目を逸らさせる必要があったのです」


「三十年前……ホウネール紛争の時の話か……」


「確か、隣国がこの国のホウネール州へ攻め込んできた事件だったわよね」


 この時、辺境伯家が迎撃を行ったという話を、私達は父上達から聞いた事があった。


「この時、私はこの戦争の成否について、神へお伺いをたてたのですが……答えは絶対に戦争はしてはいけない。戦えば必ず負ける。というお告げが出たのです。私は戦争反対を訴えて……それが目ざわりだったのでしょう。当時はかの国の王子と婚約していたのですが、冤罪をかけられて、婚約破棄の上、聖女を騙る偽物として、国外追放されてしまったのです」


「うわぁ……なんかデジャヴが……」


 ちなみに、ホウネール紛争は辺境伯家が健闘した事もあり、数年に渡る血で血を洗う激戦の末、お告げ通り、隣国は兵の死傷十万人以上、士官クラスの戦死三百人以上という壊滅的損害を出して敗退。内政の失敗とのダブルパンチで、国内はガタガタになったと聞いている。


「私は国外追放されて、国境で野垂れ死にするはずでした。そこを保護していただいたのが辺境伯様です」


「父上が!?」


 意外な繋がりが出てきて、私は驚く。


「従軍中に、たまたま行き倒れていた私を見つけて、身なりも良いので、訳ありだと思われたそうで。彼には、大変よくしていただきました。……情勢が落ち着いたら、夜のお誘いをしてきたので、流石に丁重にお断りして、この地を去りましたが。奥方様もいらしたようですし」


「なんかすいません。うちのスケベ親父が……」


 なにやってんだ、あのハーレムおじさん。この人も側室様(ははうえ)になる可能性があったと思うと、複雑な気分になる。


「まあ、別に無理強いされた訳ではないので、それは良いんですが。その後、この国で占い師として生計を立てて、称賛に値する人とも巡り会えて娘も生まれ、それなりに幸せな人生を送れています。……今回、娘が貴女に助けられたのも何かの縁でしょう。元聖女として、占い師として、今後、お困りの事があれば、手を貸しましょう」


 そう言って、ケイシー様は微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ