四、乳兄弟は良いぞ、最高だ
私は、後の事は父上達に任せて、部屋を発った。数年ぶりの我が家は、やはり落ち着いた。
懐かしい気分になりながら、使用人達に挨拶をしていくと、そのうち、見知った顔に会う。
「リチャード! 」
「ミシェル、帰ってきてたのか!」
彼は私を見つけると、親しげに近寄ってハグをしてきた。ちなみに、この国には挨拶で相手に抱きつく文化は無い。
「わ、ちょっと、リチャード、近い……」
「会いたかった。会いたかったぜ!」
かなりグイグイくる彼に、私は思わず、少しドキドキしてしまう。
彼は、私のメイドのハンナの兄。名はリチャード・フリームファクシ。ハンナは私の乳姉妹だから、必然、彼も私にとっては乳兄弟になる。現在、家臣の一人として、我が家に仕えている。
銀色の髪をロン毛にして、金色の瞳は黄金の様だ。久しぶりに会ったせいか、数年前に故郷を発った時より、遥かにハンサムになった気がする。
しかも、奇しくも同年同日の生まれで、同じ銀髪金眼。感覚的には、双子の兄妹という感じが強い。
「久しぶりだな。話は聞いてるぜ。大変だったな」
「ええ。あの馬鹿王子には、ほとほと愛想が尽きたわ」
「しばらくは、ここで心身を癒すと良い。ここの人達は皆、ミシェルの味方だ」
「元から、そうさせてもらうつもり。それにしてもリチャード、離してくれない? 少し、暑苦しいんだけど」
「ああ、これは失礼! ミシェルは俺の半身みたいなものだから、つい再会が嬉しくてな」
少し、名残惜しそうにリチャードは私を解放する。彼は昔から私にべったりだった。だいぶ寂しい思いをさせてしまったかもしれない。
「ミシェルや、ハンナからの手紙で、ストレス過多な環境にいた事は知ってたけど、こんな事になるなんてな……」
「元から向いて無かったのよ。王配なんて。元々田舎で野山を駆け回っていた野生児よ、私は。都暮らしは息苦しくていけないわ」
「でも、久しぶりに会ったら、ますます色っぽくなってて驚いた。王子も馬鹿だねぇ。こんな別嬪を捨てるなんて」
「はは。おだてても何も出ないわよ?」
「本気さ。俺がミシェルの婚約者だったら絶対に手放さない。絶対にな」
リチャードはそう言って、うっとりとした顔で、私を眺めている。そういう彼も久しぶりに会ったら、かなり男前になった気がする。この外見だし、口調は辺境暮らしのせいか少し荒っぽいが、性格自体は真面目だから結構モテるんじゃなかろうか。
「そう言えば、アラン様が今晩、ミシェルの為にきょうだいで宴を開いてくれるって言ってたぜ。今準備してるみたいだな」
「兄上が? そりゃ楽しみね!」
珍しく私が帰って来たのに、きょうだい達が顔を見せず、どういう事かと思ったが、今は私の歓迎準備をしてくれているらしい。心が温かくなる。
アラン兄上は、この家の長男で、きょうだい唯一の男だ。私達きょうだいは、皆母が違うが、母上同士が先述の通り、ありえないくらい仲が良いので、特に角を突き合わせる事も無く、関係は良好である。
ちなみに兄上は、きょうだいの中では一番美人だ。と、いうより外見がほぼ美少女だ。悔しい事に、女の私よりも美少女だ。婚約者との仲も良好である。どうも、私の分の美貌や恋愛運が吸い取られている様な気もする。
「アラン様から、俺も呼ばれているんだけど……行っても良いか?」
「勿論よ! リチャードは私の兄みたいなもんだしね」
「兄も何も、同年同月同日生まれなんだが」
「数時間、リチャードの方が先に生まれたでしょ。だからあなたが兄。今日は沢山慰めて頂戴ね? お・に・い・ちゃ・ん」
「……っ!!」
ちょっと、からかってやろうと、彼に抱きついて耳元で囁くと、流石に少し恥ずかしかったのか、彼は頬を真っ赤に染めた。心臓の鼓動も凄まじい程に高鳴っていた。少しやり過ぎたかもしれない。