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三、父がハーレムを囲っていますが、私は元気です

「あのバカ王子め……! 俺の娘に恥をかかせやがって! あああ! どーしてくれるんだよ! 」


 私が辺境の屋敷に帰還したのは王都を発ってから三日目の夕方だった。


 久しぶりの我が家であったが、くつろぐ前に、私は父上母上と謁見した。


 報告はすでに届いていたらしい。父、ジャック・スキンファクシは書斎でワナワナと震えながら、怒りと困惑を露わにしていた。


「これは、王家に、少し私達辺境伯家の力を見せてやらなければね……」


 母であるオリーヴ・スキンファクシも、怒りを隠せていない。愛されているのは良いが、少し、暴走気味にも見える。


 過激な事を口にしようとした時、同じ部屋にいた別の女性三人が口を挟む。


「オリーヴ様……。それに旦那君も、口が過ぎる」


「そうそう、壁に耳あり障子に目ありだよ!」


「私の娘がコケにされたんだぞ! 大体、この婚姻は、我が家の武力を第一王子の後ろ盾に欲した、王家から申し込んできた婚姻のはずだ!それをこんな形で……!」


「はいはい落ち着いて、オリーヴちゃん。あんまり怒ると可愛い顔が台無しよ? 元々、相性はあんまり良くなかったみたいだし、そういう天命だったのよ」


 このそこそこの広さの部屋には、父上と、母を含めた女性が四人いる。


 そう、四人()いる。


 我が父はなかなか好色な男で、正室である母オリーヴの他に、三人も側室を囲っている。それがこの部屋にいる三人の女性達だ。


 だが、それで正室側室で、愛憎うずめくドロドロの家庭になっているかというと、全くそんな事は無く、むしろ、あなた達、なんでそんな仲良しこよしなの? と言いたくなるくらい、四人は父を中心に強固に結束している。ひとえに、父の妙に強烈なカリスマ性と、下半身のなせる業である。あるいは、一種の宗教に近いかもしれない。


 母達の場合、父に対しては愛情だけでなく、畏怖やら崇拝が加わっているからややこしい。それくらい、父には不思議なカリスマ性がある。なにせ、戦争にはめっぽう強く、隣国との国境紛争で名を上げ、『血まみれジャック』なんて、おっかない二つ名を持っているくらいだ。


 戦争にはめちゃくちゃ強いくせに、メンタル自体は割と弱め、というギャップも「この人、放っておけない」となる原因かもしれない。


 まあ、ともかく、そういう家族なのである。


 そんな家庭環境で育ったから、私は、普通は正室と側室・妾は仲が悪いという事をイマイチ理解出来なかったりするし、貴族や王族が側室愛人を囲っているのにも、正直、嫌悪感はそれ程無い。


 あのバカ王子も、婚約破棄なんてせずに、正規の手段で傾国ちゃんを側室にしたい、と言ってきたら、内心は嫌な顔をしつつも、受け入れるつもりだったし。


 ま、終わった事をどうこう言っても仕方がない。


「それはそれとして、このまま朝敵認定とかされないよな……? そんな事になったら、俺泣いちゃうよ?」


「旦那君、まずは落ち着けや。状況的に、バカ王子の独断専行でしょう。陛下の許可の元でやった、という感じでは無い。朝敵認定なんてされません。取るべき道は、王家への抗議と、慰謝料の請求ね。まず、王家への抗議の手紙を書く。これは旦那君がやって。慰謝料の請求に関しては、私が何とかしよう。どれだけ毟り取れるか……さぁ、勝負だ!」


「じゃ、アタシは周囲への根回しを。味方は多い方が良い」


「私は新しい婚約者候補でも見繕うかなぁ。……血が繋がらないとはいえ、娘を悲しませた相手には、相応の報いしないとねぇ」


 三人の側室様(ははうえ)達は、それぞれに次の一手を考えている。彼女達は全員、有能な女性なので、こういう有事の際に心強い。


 父上と、それに仕える女騎士だった実母(はは)上は、国境の防衛をつかさどる辺境伯として、戦争はべらぼうに強いが、この手の根回しや、貴族同士の政治外交は不得手である。


 辺境伯家が、貴族社会でそれなりの地位にいれるのは、彼女達が参謀役になってくれているのが大きい。あるいは、そうした才能を活かすべく、父上が側室として彼女達を囲っているのかもしれないが。


 最近は改善され始めているとはいえ、この国じゃ、女性が仕事で立身出世をするのはまだまだ難しい。それなら有能な女性は、妻として囲っておく、という考えも成立しうる。


 まあ、父上がそこまで考えているかは分からないが。単純に父上のカリスマと下半身に、三人の才女が骨抜きにされただけかもしれない。母含めた四人とも、邪教徒が邪神像を崇拝する時の様な瞳で、父上を眺めている時があるし。


「ミシェル。都では大変だったわね。でも、もう安心して。ここは安全地帯よ」


「そうね側室様(ははうえ)。ようやく肩のこりがほぐせるわ」


 嫌味でも皮肉でも無く、本気で私の事を心配してくれている。いじわるな継母や妾が云々、みたいな話は、我が家では起こり得ない。


「ところで、新しい婚約者候補だけど、貴女はどうしたい? すぐに新しい婚約者が欲しい? それなら適当に見繕うけど。……なんなら、好きな人とかいるなら、考慮するけどぉ?」


 別の側室様(ははうえ)の一人がそう聞いてきた。 


「……正直、今は、色恋は良いかなって。しばらくは田舎でゆっくり自身を癒やしたい」


「なる程、そこまで焦っていないなら、こちらも、慎重に相手を選定しよう。またこんな事が起きたら可哀想だしね」


 占いの事もあったので、しばらく田舎でのんびりする事にする。果報は寝て待て、だ。


「後の事は、我々親世代の仕事だ。疲れただろう。しばらく、ゆっくりしていくと良い」


「そうさせてもらおうかしら」


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