表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/12

二、名前に『ストライク』とつければ、大体のものは格好良い響きになるんだよ(持論)

 私は愛馬、ストライクブラックウィングちゃん(♀5歳)と共に家路にいる。


 こちとら辺境伯家の娘。移動には馬車では無く、自ら馬を駆る。乗馬自体久しぶりだが、体が覚えていたのか、振り落とされる事無く、難なく乗れている。


 私の愛馬のストライクブラックウィングちゃんは、とても大きな黒い駿馬で、東の国の、ショート・ウーマヤという王子が愛馬にしていたという、『黒い有翼馬(ペガサス)』にあやかって、ストライクブラックウィングと命名した。名前の通り、本気で走らせると、羽が生えていると錯覚する程に速い。

 

 名前がダサい……? 余計なお世話だ。悪かったな、ネーミングセンスが無くて。


 ちなみに、ショート王子は、どこぞのバカ王子と違い、物凄く有能だったとか。あれにも、ショート王子の爪の垢を煎じて飲ませたい。


 実家のある辺境伯領まで、王都から、およそ三日の旅程だ。今日は、私が王都を発って三日目。辺境伯領までは、もう目と鼻の先だ。


 婚約破棄の情報は早馬なら、もうとっくに着いているだろう。家族との仲は良好なので、私が悪くないというのは理解してくれるだろうが、やはり直接報告した方が良いだろう。自然とストライクブラックウィングちゃんの速度も速くなる。久しぶりに全力で走れて、彼女も嬉しそうだ。


「む?」


 私の耳が悲鳴の様な声を捉えた。若い、なんなら子供の様な、女の子の声だった。


 人並みに正義感もある私は、それまで走っていた街道を外れ、その声のする間道に馬の歩みを進める。


 果たして、道の先で悲鳴を上げていたのは、白い髪をツインテールにした、赤い瞳の少女だった。ウサギを思わせる彼女は、盗賊と思われる三人組の男達に囲まれていた。


 この手の手合いはどこにでもいるのだな、と思いつつ、私は声をかけた。


「お前達、何をしている! 怖がっている女の子を多数の男で囲むのは、マナー違反だ」


「あぁ!?なんだテメェ」


「待て、女だ……それに、良い馬だ。売れば金になる」


「グヘヘ……」


 ゲスな発想をしたのか、顔が醜く歪む盗賊達。武器を抜いて、敵意を露わにする。そんな彼らに私も馬上で剣を抜いた。三対一だが、馬上な事と、私の剣技を考えたら、丁度いいハンディだろう。これでも武門の家の娘。腕に自信はある。


 それに、久しぶりに剣を抜いて、私の心臓も高まっている。ああ、早く目の前の賊を切り刻みたい。きっと、血がドバドバ吹き出て、きっと、溜まった王子への鬱憤も、少しは晴れるだろう。


「攻撃の意思を確認。排除する。相手にとって不足無し。交戦する!」


 私は、ストライクブラックウィングちゃんを加速させ、すれ違いざまに一撃し、一番近くにいた賊の首を刎ねた。


「なっ!?」


「一つ!」


「あ、兄貴!」


 どうやらリーダー格だった様だ。残りの二人は明らかに動揺する。


 その隙を逃さず、私は愛馬を反転させるや、太ももにマウントしていた投げナイフを放った。


「がはっ!」


 ナイフは、見事、賊の首に命中し、彼は悶絶しながら倒れる。


「二つ! ははは! 皆地獄に落ちろ!」


「ひ、ひぃィィィ!」


 最後の一人は、即座に仲間がやられた事に動揺したのか、背を向けて逃げようとした。が、馬に乗った相手から、徒歩で逃げられる訳がない。すぐにストライクブラックウィングちゃんに追いつかれ、前脚で蹴り飛ばされた。そのまま、倒れ伏した所を、私に剣で突かれてトドメを刺された。


「三つ! 口ほどにもない」


 私は、愛馬から降りて、三人の死体の心臓に改めて剣を突き刺して死亡確認をしてから、白い髪の少女の手を取った。


「怖い目にあったわね。もう大丈夫よ」 


「あ、ありがとうございます」


「あまり人気の無い道は通らない方が良いわ。今日みたいな事になるわよ」


 見ると、少女は乱暴狼藉される寸前だったのか、服が破られて、胸元が露出していた。私は、気を効かせて、羽織っていたジャケットをかけてやる。


 そういえば、あの男爵令嬢もツインテールだったか。妙な繋がりを感じる。


「それ、あげるわよ。早く家に帰って着替えなさい」


「え、でも……」


「何、そろそろ買い換えようと思ってたの。それとも、その格好のまま、家まで行く?」 


「……ありがとうございます」


 少女は、すこし躊躇しつつも礼を述べた。


「あの……」


「どうしたの? 怪我でもした?」


「あ、いえ、体は無事です。私、メアリー・マクナリーといいます。やはり助けて頂いた上に、ただで服までいただくというのは気が引けます。……今日は、母の知人に手紙を届けるお使いの途中でして、その帰り道で襲われたのです」


「そりゃ、災難だったわね」


「はい。やはり、女一人で人気の無い道を通るものではありません。それで、本題なのですが、私、母が凄い占い師で、それに憧れて、占い師を目指してるんです! 服と助けていただいたお礼と言ってはなんですが、あなたの事を占っても良いですか?」


「……占い、か」


 正直、私もオカルトの類は嫌いではない。しかし、先程まで危機的状況だった上に、近くには盗賊の死体も転がっているのに、大した肝っ玉だ。将来は大物になりそうだ。


「母からは筋が良いって言われるんです。どうですか?」


「そういう事なら、一つ、占ってもらおうかしら」


「ありがとうございます! 出先なので簡易なものしか出来ませんが……」


 そう言いつつも、彼女は鞄からカードや本を取り出した。道具一式は携帯しているらしい。熱心で感心する。


「何を占いましょうか?」


「そうね……」


 現在、頭を悩ませている事と言えば一つしかない。


「実は、私、色々あって、先日婚約者に婚約破棄されてしまってね」


「それは……心中お察し申し上げます」


「いや、はっきり言って、クソみたいな婚約者だったからそれは良いんだけど。今後、私はどうしたら良いのかと悩んでいて……。すぐに新しい婚約者を見つけるべきか、しばらく色恋沙汰から離れてのんびりするか。なんなら、一生独身の方が良いのか」


「恋愛に関する占いですね。それなら、この占いと、この占いで……」


 メアリーは、いくつか占いをしてくれた。引っ込み思案そうな印象とは裏腹に、占い中はよく話をしてくれた。何かきっかけがあれば饒舌になるタイプなのかもしれない。


 そのうち、結果が出たのか、彼女は少し嬉しそうに口を開いた。


「結果が出ました。結論から申しますと、すぐに素敵な出会いがあると思います」


「ほう。それは良かった!」


「昔馴染みの人が良い。とも読めますね。この結果は。それから、トラブルにも巻き込まれるかもしれませんが、大した事にはならない、とも」


「はは。ひとまず安心したわよ」


 私は満足げに言った。昔馴染みか。奇しくも、今から丁度、故郷に帰還する所だ。そこで何か、出会いがあるという事だろうか。


「ありがとう。参考にさせてもらうわ」


 私は、そう礼を言うと、ストライクブラックウィングちゃんにまたがった。


「こんな事しか出来ず、申し訳ありません」


「いや、楽しい時間だった。ジャケット分の価値はあったわ。……これも何かの縁でしょう。もし、何か困った事があればスキンファクシ辺境伯家を訪ねて。私はそこの家の者だから。出来る限り、力になる」


「っ! お、お貴族様でしたか! 何か非礼はありませんでしたか?!」


「あぁ、あまり気にしないで。民達に関わるのも貴族の仕事だし。じゃあね! もう一人で人気の無い所をノコノコ歩かないでね!」


 私は爽やかに言うと、ストライクブラックウィングちゃんに鞭を入れた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ