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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

運命の番とか何ぬかしてらっしゃるの?

作者: 黒智


 これはこれは獣人国の第三王子殿下ではございませんか。お招きした覚えはございませんのにどうして謁見の間まで入り込んでらっしゃるのかしら? 衛兵はお止めしていたと思いますが?

 は? 「我が番である貴方を迎えに来たのだ、誰にも邪魔されるいわれは無い」?

 …何をふざけた事を。私がこの北の国の第一王女と知っての言葉ですか、第三王子殿下。

 知っている? だがそんな事は関係ない? 貴方は我が番なのだ、我が国へお迎えし婚姻を───ああ、ああおやめくださいまし反吐が出る。

 …あら? 殿下だけで無く護衛の方までどうして皆そんな間の抜けたお顔をなさるのです。気持ちが悪いと思うのは当たり前の事では無いですか? ねえお父様…いえ、国王陛下もそうでしょう? …良い笑顔での肯定有難うございますわ陛下。

 さて第三王子殿下、並びにそちらの護衛だか側近だかの方々。

 獣人には運命の番とか言うくっだらない言い伝えがある事は存じております。ええ、ええ。以前そちらに訪問させて頂いた時に貴方からうざったい程語られましたので覚えておりますし今も我々の問いを無視してぐだぐだ抜かしておりました、が。


 何故、貴様なんぞの心底くっだらない衝動などに私が付き合わねばならないのですか?


 あらあら可愛らしい尻尾が膨れ上がって、そんなに意外でしたの? 自分が拒絶されるなんて思っても居なかった様な反応ですが。

 あらあらあら! 番を拒絶するなんて有り得ない? 誰かに何かを吹き込まれたのか? ちゃんと説明したいから我が国に? 莫迦言ってんじゃないですわこのぼんくら王子。あら失礼つい本音が。

 だって、他国の王族を訪問する際に事前のアポイントメントを取る訳でも無く只自身の都合の合う日に勝手に王城まで押しかけてきた挙げ句衛兵達の制止も聴かずに我々王族の前までやってきて、言うに事欠いて番だから有無を言わさず連れて帰るとこちらの都合を聴かない宣言をなさる様な方に、この国の王位継承権第一位の私が何故応えるとお思いなのか本当に理解に苦しみますわ。

 そもそもの話、番がどうのとほざかれましても死ぬ程どうでも宜しいし私には関係がございません。私には婚約者もおりますし、円満な関係性を築いておりますので貴方に付いていく道理が無い。

 それなのに先程は私がその願いに応じて貴殿の国に行く事もさも決定事項の様に話されましたが、誰も了承した記憶はありませんが? 勝手に答えを捏造されていらっしゃるなんて頭沸いてます?


 そもそもの話。全ての獣人がそうであるとは言いませんが、人種が違えば理解出来ない可能性だってある番と呼ばれる反応を正当化し誘拐監禁して他種族を虐げていると言うのに、それがさも当たり前であり常識であり幸福であるとほざく辺り頭がおかしいと言わざるを得ませんしそんな相手の所に行く訳が無いと何故判らないのでしょうね。

 実際、私には貴方に嫌悪以外の感情はございませんの。愛? 番としての執着? 有り得ませんわ…こんなストーカーにどうやってそんな事を思えと仰るのです?

 我が国の研究所が出した論文によれば、この反応は獣人にしか存在せずエルフにドワーフ、精霊達さえもその概念が無いとお答え頂いておりますの。

 獣人からすれば当たり前の事と仰いましたが、それ以外には全く理解出来ない概念だと言うのにそれを押し付けて来る様な自己満足野郎の所に誰が嫁ぐと?


 あら、「幾ら王女だからって言って良い事と悪い事がある」?

 あらあら、これは王女だから口にしている訳ではなく我が国全員の総意ですわ。

 そもそも。運命の番なんて言うクソみたいな…ああいえ失礼しましたわ、御伽噺でも使わない様な呪いの言葉を免罪符に、自分達の衝動を勝手に他者に押し付けて俺が私が愛しているのだから幸福であろうそうに違いないなんてその本人の意思すら無視する様なとんでもない習性を誇りに思う種族と相容れる訳がありませんのよ人間は。

 我々に運命の番と言う概念が無い故に理解が出来ないのだ、などと言う馬鹿みたいな事は思わないで下さいましね。そんなものがあったとてコントロールしますわよ、何の為の知性と理性ですか愚者共が。

 運命の番を見れば有無を言わさず拉致監禁、泣き叫びながら嫌だと拒んでいるのに素直になれないだけだと組み伏せ無理矢理犯し孕ませ、或いは女が獣人の場合は納得する迄腰を振らせ、相手が衰弱しても尚それが愛なのだと宣うなんて本当に気持ちが悪い。唾棄すべき事ですわ。

 …どうしてそんな信じられないと言う顔をなさいますの? 当たり前では無いですか? え、これをあなた方は愛と呼ぶのですか? 本当に大莫迦野郎共なのですか?

 そんな物は愛ではなく、ただの傲慢であり虐待では無いですか。

 拒絶を素直になれないだけだと何故勘違い出来るのです? ただでさえ親兄弟、或いは伴侶と無理矢理引き離された挙句そんな事をされて拒絶しない訳が無いでしょうが!

 嫌だと言う言葉が何の為にあると思っているのです? それが『嫌』だと『拒絶』する為の言葉でしょう? そこにそれ以上も以下もございません。

 照れている? ふざけた事抜かすんじゃありませんわ。嫌よ嫌よも好きの内、なんて絵物語の中にしかありませんわよ。獣人サマ方は揃いも揃って夢見がちの乙女か何かなのですか?

 嫌だと言えば嫌なのです。そんな事をされた相手に、愛など抱く訳が無いし恋する事だってありません。

 そんな方々がもし途中から貴方がたに好意を向けたとしたら、囚人が看守に従わなければならないのだと悟ったのが大半ですわよ。全部では無く本当に想い始めた可能性もあるでしょうけれど、数は少ないでしょうね。


 そも、貴方がたは運命の番とやらにも家族が居る事を理解していますの? 自分さえ良ければ良いんですの?

 相手が何を望んでいるかも考えないで与えたい物だけ与え欲しい物だけ欲しがる、それはただの遠回しの自己愛でしかなく恋愛でも親愛でも無いんですわ。そんな身勝手でクソみたいな衝動に我々他種族を巻き込まないで下さいまし。

 年端も行かずろくな抵抗も出来ない子供さえ連れ去って、本人が泣いても喚いても離さない。

 それでもせめて本人が望む事をしているのならまだしも勝手に決めつけた必要な物を押し付けて、番として愛している筈の人間の心をすり減らす。

 本当にどの口が愛とか恋とか語っているんでしょうね、貴方がたの仰る求愛行為は只の未成年略取とか拉致監禁ですわ。


 それでも、我が国では貴方の国の住人が引き起こす運命の番を謳った誘拐事件について何度も抗議しました。

 が、その度に『運命の番は本能で求めてしまう為衝動的に連れて帰るのは仕方が無いのだ』などと、よりによって王族からの公式回答としてそんな馬鹿げた返事しかなさいませんでしたわね。

 その発言自体が自分は理性が性欲に負けるケモノです、と認めている様な物なのに、国全体でそれを容認していると言う事はつまりそういう事なのねと思われても仕方が無いと気付かないのかしら?

 …あらあら、お顔が真っ赤ですわ第三王子殿下。側近の方々もお耳がぺっしょりしておりますが大丈夫かしら?

 正論を言われて恥ずかしいのか自身を否定されて怒りが湧いているのか、私にはとんと判りませんし判りたくはありませんが…後者であるならば私心底から貴方がたを軽蔑しますわ。


 …嗚呼、そうだ。

 貴方がたは我々…いえ、貴方がたの国を取り囲む四つの国が貴方がたの国に対して提出した資料など読みもしていないのでしょうから、ここでお話させて頂きますが。


 五千三百四十二人。こちらの数にお心当たりはございますかしら?


 …莫迦みたいにぽかんと口を開けていると言う事は、本当に読んでらっしゃらないのね。

 少なくとも王子殿下、貴方は王族の端くれなのでしょう? 幾ら王太子の様に公式の外交に出ないとしても、国を取り巻く問題には目ざとくあるべきかと。


 こちら、過去二十年に遡って四国においてあなた方の国が引き起こした誘拐拉致監禁事件の、把握している限りの被害者の総数です。こちらを四国連名で報告書をお送りしたのですけれど…本当にご存知ないのかしら?

 集めたら村どころかそこそこ栄えた都市が出来る位の被害が出ているんですのよ。

 あら、番を連れ帰る事は誘拐では無い、正当な行為だ? 被害など言語道断などと未だ仰る?

 加害者からすればそうなのでしょうが、被害者からすればたまったものじゃありませんわ。

 運命の番であるなどとほざいた獣人によって略取された人間は我が国が把握するだけでも過去二十年で千三百人を超え、その内帰国が確認されたのは三人だけ。

 後は居場所は発見出来ていても面会を謝絶され家族ですら会わせてもらえない、或いはそもそも行方さえ知れないなどと言う結果になっておりますの。

 分かります? 二十年。二十年で実に千三百三十四人も、我が国の人間が失われておりますのよ。

 国民は国の宝です、彼らが居るからこそ我々は国足り得ると言うのに、貴方がたはその宝を横からかっさらってままごと遊びに使っているのです。


 この被害を把握しておきながら何も言わなかったのなら我々が許していたのだろう、と都合の良い解釈をなさらない様に言っておきますけれど、毎年抗議はしておりますしその事件が発生した際居合わせれば捕縛なり何なり対処をしようとはしております。

 ですが貴方がたは、先程も述べた『運命の番なら仕方ない』理論で耳を貸さず、取り押さえようとした兵士なり何なりをその無駄な身体能力で殺して回るでは無いですか。

 お陰で被害者は委縮して余計に抵抗出来ないんですのよ。自身の家族に累が及ぶかも知れないとなれば、自分が犠牲になるしかないと。

 …自分達の種族が他の種族よりも頑健である事を誇りに思っているそうですが、その誇りである肉体を拉致にお使いになるなんて本当に頭がどうかしてますわね貴方がた獣人は。

 

 後、勘違いされては困りますが。

 三人無事を把握しているならそれで良いだろう、なんて馬鹿な事は言わないで下さいましね。

 本来は全員無事でなければおかしいのです。彼らは我が国の民であり、国を離れるのはおのが意思でなければ意味がありません。

 そも、抵抗しなかった逃げられなかったからそこに居なければならないだけで、本当は貴方がたの国に行くなんて嫌だったと言う方が大多数ですのよ?

 それに、帰国した方々も彼らの状況が特殊だったから何とか逃げおおせただけです。


 一人目は伯爵だかに連れ去られた子爵令嬢、彼女はその男の身内に同じ様に運命の番として連れ去られその家で飼い殺しにされかけていた人間に命懸けで逃亡を助けて貰い何とかこちらに戻って参りましたの。

 ですがその後調べましたら、その逃亡を助けて下さった方は伯爵に殺されてしまったそうじゃないですか。

 『我が番を遠ざけたのなら死ぬしかなかろう』、なんて笑ったと聴きましたが。

 何を驕った事仰ってますの? 馬鹿なの? 貴様が勝手に連れ去っただけで本来裁かれ死罪にされるべきは貴様でしょうが!

 …あら失礼、つい本音が。そんなに顔を青くしないでくださいまし、貴方では無くそちらの大罪人に対しての怒りですわおほほほほ。

 とにかく、貴方がたの国では運命の番を害する相手は問答無用で死を与えても良いなんて風潮があるのでしょう? そしてそれが名誉だと褒め称えられるのでしょう?

 そんな貴方がたが一番その運命の番を害しているのにも気が付かず? 常識さえあればそんなおぞましい国から逃げたがるなんて当たり前だと言うのに? 

 この件を容認すると言う事はそれにすら気付かない頭パッパラパーしか居ないのだと喧伝しているのと同義ですがお気づきになられてまして?


 そして二人目、彼は我が王立騎士団の第一師団長でした。

 実直で剣の腕も立つ、本当の意味で身分に囚われない、部下にも慕われる良い騎士ですのよ。

 それが国境付近で見回りをしている際運命の番と名乗る手練の女に奇襲を受け、善戦するも瀕死の状態に追い込まれた所で連れ去られました。

 この時点で、本来ならば誘拐事件扱いなのですよ? お判りですか?

 更に酷いのは、その団長を連れ去った女は医者も呼ばず適当な手当てだけをして、死にはしないが回復も遅い状態で何日か放置されたとか。

 それが人間と言う種族の身体が獣人よりも脆いと言う事を知らなかった無知からであればまあ百歩…いえ千歩位は譲りましたけれど。

 その女、熱が引いた起き抜けに『お前は元気すぎる、私に逆らわない様しつけてやらないといけない。辛いだろうが暫くはそのままだ』なんて言ったそうですわ。

 つまりは団長様が辛い事を理解していて、故意に、その怪我を放置していたと言う事です。

 高潔な騎士、いえそもそも見も知らない他人に向かって何様なのです? 生殺与奪の権利はこちらにあるのだとほのめかしてらっしゃったんでしょうか。

 そもそも奇襲をかける時点で頭がおかしいし瀕死にまで追い込むのさえ信じられないのにしつけるとは? 番であれば人間の尊厳を無視しても良いと思ってらっしゃる? 貴方がたの仰った『愛』って、このケースに存在すると思われますか殿下?

 …あら、顔が真っ青ですがどうなさったんですお三方。そんな事が行われていたなんて知らなかった、みたいな顔をしておりますが。因みにそちらもちゃあんと先程述べた報告書に記載されておりますけれど。


 話を戻しましょうか。

 そんな言葉と放置された数日も相俟って、彼は『もし逃げようとするならまたこちらをあの様に死ぬ寸前まで追い込んで苦痛を味わわされるのでは? 下手をすれば死ぬのでは?』と自身の行く末を案じ、傷が開くのも構わず死ぬ気で、そう死んでも構わないと本気で暴れ、女も女の屋敷にいた使用人も全て殺して命からがらこちらに戻って参りましたのよ。

 そうでもしないといつか自分は愛してもいない、寧ろ憎んですら居る名も知らない女の所で死ぬ羽目になる。そんなのは嫌だ、あんな悍ましい国で死にたくは無い!と、調書を作っていた際泣きながら語ってくれましたわ。

 因みに、そんなボロボロの状態で長い道のりを歩いたせいで、彼は帰ってきてから半年は寝たきりでしたのよ。

 優秀な騎士の未来を奪いかねない事をしておいて良くのうのうとしておりますわね、貴国は。


 そして三人目は、我が国の筆頭公爵令嬢です。

 彼女は、東の国の夜会に招かれて行った所で貴方の国の男爵令息に連れ去られました。

 彼女には優しい両親や愛する婚約者も居たと言うのに、運命の番だから連れて帰らねばならない!なんて妄言を吐いた男にその場で見知らぬ国まで連れ去られ家から一歩も出させて貰えず、家に帰りたいと泣き喚く彼女にもうここがお前の家だなどと言い捨てたとか。

 何回も聴きますけど貴方がた獣人頭沸いてる奴しかおりませんの? 急に見知らぬ男に連れ去られた挙句に来たくもなかった場所がこれから実家だと宣言されて恐怖以外の何ものであると?

 そもそも、国が違うとは言え格下の貴族が、我が国の最高位の令嬢に対して何を抜かしているのです。

 愛しているとほざきながら、その女が泣いているのに見当違いな事ばかり言って自分の愛を押し付けているだけだと言うのに身勝手にも程がある。

 当然彼女の家族も婚約者も怒り心頭でしたわ。でも流石に獣人相手に腕力で勝てるかと問われると危うい。だから、その家に対しての経済制裁をする事にしたんです。

 最初は出入りの業者を買収して食料が手に入りにくくする。

 次は領地に出回る日用品、衣料品を買い占め、領民にも手に入りにくい状況を作り出す。

 更に彼らの領地の畑から取れる筈だった作物を根こそぎ奪い、その畑を潰す為に塩まで撒いて少なくとも数十年は実らぬ様に変えてしまえばあら不思議。

 領地が立ちいかなくなり、どんどん貯蓄が減っていく。しかも自分だけでなく、領民さえ生きる事すら出来なくなっていく。

 そんな所で、公爵が娘を返せば助けてやると言えば…お判りでしょう?

 後もう少し遅ければ、死ぬ前の思い出と称して令嬢を無理矢理手籠めにしようとしていたとか。乱暴される前に助け出せて本当に良かったですわ。


 …何々、ランキン男爵が爵位返還したのはそのせいか? あら、そんな名前でしたのあのクズ野郎の一族。

 でも潰れて良かったですわね。公爵家が本気を出せば、この一件だけで貴国を揺るがす大事件に出来ましたのよ。…いえまあ、もう既に遅いですけれどね。


 しかし、ここに挙げた三人は、本当に運が良かっただけ。

 何とか出来る権力、腕力、協力者が居たからどうにかなっただけで、それに恵まれず未だ貴方がたの国に囚われた我が国民は山ほど居ます。

 それら被害者に対して、貴国が何をしてくれました? 加害者を擁護した挙げ句、その子供達にも犯罪者になれ、と教え込んでいるでは無いですか。

 そんな国に、嫁ぎたいと思う訳が無いと何故思わないんでしょう。


 …あ? 二件目は確かに我々が悪いが、それ以外は運命の番に対しての愛である? だから責められる謂れは無い、と?


 口を閉じろ蛮族が!!! 我々が貴様らにどれほど奪われてきたと思っている!!!

 …あら失礼、怒りで我を忘れるなんて私の方が余程蛮族ですわね。自分の部隊を率いている時の癖が抜けませんの。

 …あらあら、運命の番とか宣った癖に私が何をしているのかご存知ありませんの?

 私、自ら騎士団の第三師団を率いておりますの。つい先日我々の部隊で西のゴブリンキングを討ち取りましたのよ。ですので、それなりに剣の腕は立つ方だと思いますわ。

 …まあ、番にそんな危ない事はさせられない? 私が守るからやめて欲しい? ここまでの話を聴いておいてまぁだそんな世迷言を宣うのですねぇ…


 貴方がたの仰る運命の番とか言う悪習によって、四国は大変な被害を被っています。そしてそれは、更にその国よりも遠方にも広まりつつあると。

 ですので、『我々』は、思ったのです。


 『獣人、管理した方が良くない?』と。


 …あらあらあら! 面白い顔をなさっておりますわねぼんくら共! 何を聴いておりましたの、その結論に至るのは当たり前では無いですか!

 だって、呪いを肯定する貴様らを野放しにするからこんな事になるのでしょう? 国家を挙げてそんな馬鹿みたいな呪いを推奨し崇高だと言わしめているのでしょう?

 そして、誰に言われてもそれを変える気は無いのでしょう?


 なら、そんな国家からぶち壊し文化を壊したら良いでは無いですか!


 他人様に迷惑を掛けていなければ見逃されていたでしょうが、あなた方は四方八方に喧嘩を売りまくったでしょう? その自覚も無く。

 それでも反省しないなら、自覚し反省するまでしつけるか何も知らない次代を産ませて悪しき因習であると教えれば良いのです。

 どちらが蛮族だ?と言われても仕方が無い事は自覚しておりますわ。でも、人間にそうせざるを得ない程の被害を出したのは貴様ら獣人です。


 で、その為に国を滅ぼして自治区にして、少なくともその環境が整うまでは貴方がたをそこから出さない様にしないといけないなと、ふと思い立ってしまって。

 その事を他の三国にもご連絡したら、諸手を挙げて賛成されましたの。

 だって、彼らもその運命の番の被害者ですので。先程も言いましたよね? 過去二十年の被害者数。あれは四国の総数ですのよ? 我が国だけでは無いのです!


 運命の番なんて物にころっとやられて理性を無くす危険な種族、本来なら滅ぼしても良いのですけれど。

 流石に全部滅ぼしたら、運命の番の研究もそれを無くすとか無くせなくても抑制する薬とか生み出せなくなりますし。もし滅ぼし損ねてまた繁殖されたら、潰すのが面倒でしょう?

 なら、まず管理した方が良いかなと思いまして。


 その為に、既に我が北の国以外の三カ国は宣戦布告をそちらに送っております。

 そして我々も、今から貴殿の首と共にそれを送るつもりですのよ。

 幾ら領土も国民の数も我らに比べれば圧倒的の数量、そして個々に戦闘に優れているとは言え、四方向全てから攻めいられれば貴方がたの国も流石に疲弊はするでしょう?

 せいぜい無駄な足掻きをして人数を減らして下さいませ。我々は一向に構いませんのよ、貴方がたがどれだけ減ろうが痛くも痒くもありません。寧ろ宿敵が減り未来の被害者が減るだけなので嬉しゅうございますわ!

 …あら、今更逃げようとしても無駄ですわ。ほら、動けないでしょう? 先程貴方が意気揚々と番への愛を語っている間に魔術師が捕縛の術を貴方がた全員にかけておりますの。

 貴方がたが乗り込んで来なければ穏便に書面を送るだけでしたのに。付けた護衛さえ運命の番とやらにのぼせ上がり王族が害されるのにも気付かない愚鈍にさせる様な教育、本当にどうにかしないといけないのではないですかね。


 …何? 大人しく言う事を聴く、愛している? だから番である僕を離してくれ?

 何回言っても理解しないんですのねぼんくら王子様。言う事を聴かれても困ると言うか、そもそも貴方の死体さえあれば充分ですので。

 死んでくれればそんな世迷言を二度と聴かずに済みますし、生かしているよりも死んで貰う方がメリットが大きいので…命乞いされた所で意味が無いと言うか…面倒と言うか…

 は? 王族を傷付けるなら国際問題だ? 何を聴いてらしたのかしらね、もうとっくに国際問題になっているのです。本来ならとっくに我が国も宣戦布告をしている頃でしたのに、貴方がたが邪魔をしただけですわ。

 二十年間、ずっと見ないふりをしてきたのは貴様ら獣人達の方。我々はずっと訴え抵抗してきましたの。

 運命の番なんて言葉を、甘ったるい口説き文句から絶望の宣告に変えた自分達の行いをもう少し早く振り返っていれば宜しかったのにね。


 さて、それでは第三王子殿下、永遠にさようなら。

 運命の番だなんて馬鹿みたいな妄言を嬉々として宣う姿は心底からおぞましく、反吐が出る程気持ち悪うございましたが、貴方の亡骸が役に立って下さるのなら少しは溜飲も下がります。

 後、言い忘れておりましたが先程の三件目の公爵令嬢。実は私の無二の親友でしたのよ。

 そして、二件目の第一師団長は私の同僚ですの。その愚かな頭で覚えておりまして? 私が第三師団を率いておりますと言いました事。

 貴様らは我が親友と仲間の心を傷つけた、それだけでこの剣を取るには充分だった。

 眠れる虎の子を起こしたのは貴様らだ、覚悟するが良かろうよ。…なんて、もう聴こえてはおりませんわね。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 番系の話はホント獣人の皮を被ったゴブリン以下共が胸糞悪くて大嫌いなので、この話でいくらかストレス解消になりましたw
2024/02/12 10:47 退会済み
管理
[良い点] 興味深く拝読させていただきました。 番系の作品で、自分の中でなんとなく共感できなかった部分がはっきりとして目から鱗が落ちる思いでした。コレか、と。 皆さまの感想も拝見しましたが、私も同じく…
[気になる点] 獣人国の第三王子が北の国の王位継承者である第一王女の番って、明らかに国の乗っ取りじゃないですか。 百万歩譲って王女の侍女ならば番のロマンティシズムもわからなくはありませんが。 [一言]…
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