表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

・「マンダム、男の世界」とおじさん、の巻

 

「…いま、社内は社長派と、専務派に分かれている。…俺は無所属だ。それは、知ってるな?」

 わたしは、知っているという風にゆっくり(うなず)く。笠原(かさはら)の言葉は、質問ではなくわたしに対する確認である。


 笠原は営業部の部長であり、笠原の動き方如何(いかん)で、社長派・専務派のパワーバランスが一気に(くず)れる。社を真っ二つに割らないためには、笠原はどちらにも付かず無所属を通すしかない。それは、一昨年に亡くなった先代社長に対する笠原なりの義理の通し方なのだろう。

 ちなみに、わたしも無所属だ。ただし、笠原とは意味が違う。わたしは社長派、専務派のどちらの陣営からも必要とされておらず、(ゆえ)に無所属を通すことが出来る気楽な身分である。


「大変だな…」

 わたしは、思わずつぶやく。笠原の置かれた立場の責任と重圧は、わたしには想像ができない。

 わたしの言葉に、クッ…、と笠原が(わら)った。長い付き合いだが、初めて見る笑い方だった。お気楽なわたしのことを笑ったのか、板挟(いたばさ)みの笠原自身を嘲笑(わら)ったのか、あるいはその両方か。

 笠原は言葉を続けた。


「…それでな。それで、(おか)の奴を総務部の課長にしようという動きがあるらしい。専務の描いた絵でな。…岡の後任を営業部に新しく入れる予定はないらしい」

 そう言って、笠原はカウンターの上に置いていたお湯割りのグラスを(つか)んでグビリと一口飲んだ。まるで自傷行為のような飲み方だ。

 低く抑えた声で話す笠原の説明に違和感を感じて、わたしは口を(はさ)む。

「今の鳥谷(とりがい)君はどうなる?」

 岡が総務部の新課長なら、現課長の鳥谷はどうなるのか?

鳥谷(とりがい)は、近々関連会社への出向(しゅっこう)を命じられる」

 笠原は、チラッとわたしの方を見たあとでお湯割りのグラスを置き、右拳で左手のひらを叩きながら言った。野球のキャッチャーミットを叩くような仕草。

 ナルホドね。

 笠原の言いたいことが()み込めてきた。


 現在、営業部課長代理の(おか)を総務部の課長にして、現総務部課長の鳥谷(とりがい)を飛ばす。社長派の鳥谷を(のぞ)いて、専務派の岡をその後釜(あとがま)に付ける。そして、営業部から岡を奪うことで、ついでに無所属の笠原営業部長を牽制(けんせい)しようって狙いか。…専務も、わたしより若いくせに随分(ずいぶん)いやらしく露骨(ろこつ)な奴だ。


 実質的に会社の業務は専務が牛耳っている。今の社長は、長年の間お(かざ)りみたいなものだった。先代社長の遺言に従って、現社長をもり立ててきたはずの専務が、ここに来て急に自分自身が天下を取りたくなったらしい。


「そうまでして社長になりたいもんかね…」

 わたしには分からない。そんなことができるくらいなら、もう実質的に社長みたいなもんだろうに。


「…なりたいんだろうさ」

 怒ったように、笠原が自分のお湯割りをあおる。笠原はまるで、わたしにも怒っているように思えた。



この会社は実際の人物・団体等と一切関係ありません。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ