親友は静かに誓う 2
「ねえ、ヒジリ」
さっきまでとは打って変わって真面目な口調のレリー。
「今日のその気持ちを忘れないで。その気持ちを積み重ねた先に、きっとヒジリが求めるものがあるから」
「はい、師匠」
思わず背筋を伸ばし答える聖。彼女が言うのなら間違いはない、素直にそう思えた。
「で、お前らはいつまでここに居れるんだ?」
ジェノが訊いてくるが、既にいつものように興味なさげな感じを出している。
「えっと、とりあえず十日は大丈夫で、後、延長も出来るみたいなんですが……」
そう答えた聖は、渋々ながら神に対して声をかけた。
「すいません、神様。延長チケット欲しいんですけど」
「……傍から見たら頭のおかしい奴だな」
予想通りジェノにからかわれる。
「でも、邪教徒も神への最後の願いは口に出してる。きっとそれと一緒」
レリーは一人納得している。
「いや、流石に邪教徒と一緒にされるのは……」
京平が抗議するが、誰も聞いていない。
「あっりがとうございまっす!延長十日チケットが二千転生石、二十日チケットが三千六百転生石となっております。よろしく、よろしくご検討ください!なお、連続三十日以上の滞在は推奨いたしかねますので、ご注意ください」
うっきうきな神の声に思わず顔を見合わせる聖と京平。
「……二千円と三千六百円か。冷静に考えれば安いんだろうけど、奴に払う金だと思うと高く感じるな」
「そうか?考えすぎだろ」
どこか悔し気な京平とは対照的に、聖は既にやる気満々な表情を見せていた。
「……まあ、今回に限っては悩む必要もないけどな。お前は二十日一択だろ」
どこか転生の神の掌の上で踊らされているようで気に入らない。だがそんな事でこのチャンスを逃す程、京平も馬鹿ではない。この際、聖にはきっちりとパラディンの修業を積んでもらおう。
「ん?京平は?」
「俺はとりあえず追加無しでいいかな。ちょっと色々見て、何かいい手がないか考えるよ」
「おう。じゃ、それは任せた」
そう言った聖は、笑いながら続けた。
「まあ、俺がパラディンになって高坂の病気なんてパパっと治すから。悪いけど無駄足になるぜ」
「うんうん、その意気。一ヶ月、みっちりと身も心も鍛えたげる」
レリーのその言葉に、聖が食いつく。
「えっと、そこに変な意味はありますか?」
「ん?やっぱり、ヤりたい?私はいつでもウェルカム」
「そりゃもち……」
勿論と言いかけた聖だったが、京平の凍てつく視線を受け、残りの言葉を呑み込んだ。その視線に気づいたレリーは、からかい交じりに京平にも声をかける。
「ん?キョウヘイもヤる?」
「いや、俺は一人に愛を説いてくれる人がタイプなんで、結構です」
京平は間髪入れずに断ってしまう。それを聞いたジェノが爆笑した。
「ハハハ。主がバッサリ振られるの、初めて見ましたよ」
「むー、このままじゃサキュバスの沽券に係わる……」
少し悔しそうなレリーに、ここぞとばかりに聖がアピールを始めた。
「じゃ、じゃあ、やっぱり俺が……」
はしゃぐ聖を見て呆れながらも小さく笑う京平。パラディンになれる、本人にまだその自信はないのだろうと京平は感じた。
ここまで来てもまだ、ゴールへ続く道を感じられない、そんな不安をお互いに抱いているのだ。無理にでもはしゃいで少しでも不安をかき消したい、その気持ちはよく分かる。
だからって、そのはしゃぎ方はどうかと思うけどな、と聖に向ける冷たい視線で苦言を呈する事も忘れない。
とはいえ、今は進むしかない。
そんな事を思い悩む京平に、ジェノが声をかける。
「こっち色々見て回るんなら、マリエラかティファナを貸してやろうか?」
「えっ?」
意外な申し出に驚きの表情を見せる京平。その表情を見たジェノは、心外だとばかりに肩を竦めて見せた。
「十日しかないんだろ?右も左も分からない所を一人でウロウロするより、誰かに案内される方が効率的だろうが」
マリエラとティファナも同意するかのように、うんうんと頷いている。
確かにジェノの言う通りなのだが、まさか彼女から手を差し伸べられるとは思っていなかった。
「……じゃあ、ジェノさんにお願いする事は出来ませんか?」
少し考えた京平は、思い切って訊いてみた。ジェノならこの世界の表も裏も見せてくれる、そんな確信があった。
「あ?私か?……まあ、別にいいけど」
一瞬戸惑いを見せたジェノだったが、意外にあっさり了承した。
「えっ?」
「なんだ、お前。自分から頼んでおいて、えって事はないだろう」
「すいません」
慌てて頭を下げた京平は、上目遣いにジェノの様子を確認する。口調は不穏だが、表情は厳しくない。むしろ楽しげにすら見えた。
「まあ、いいさ。せっかくだから色々見せてやるよ。楽しみにしときな」
意味ありげに笑うジェノを見て、一瞬京平の脳裏に後悔がよぎるが、すぐに思い直す。
聖は高坂を救う道を見つけ、一歩踏み出した。自分が遅れるわけにはいかない。
俺は俺に出来る事を探そう。
馬に揺られながら、京平はそう決意を新たにした。




