夜にして君を想う 6
「主もそろそろ寝ましょう。さっきも言ったように、ホントにもう何もしたくないんですよ」
欠伸交じりにそう言ったジェノは、暫くすると寝息を立て始める。
「えっ?従者なのに先に寝るなんてズルい」
レリーの呟きにマリエラは小さく笑うと、ジェノに毛布を掛けてやる。そしてその横に自分も潜り込み、やがて寝息を立て始めた。
「さ、私達も寝よっか」
二人を促しレリーも横になる。
「キョウヘイ?」
焚火を見つめ身動ぎしない京平に声をかける。
「あ、もう少しだけ。もうちょっとだけ考えたいんで」
「そ。あんまり思いつめないようにね」
そう言うとレリーもさっさと寝息を立て始めた。
聖はそんな京平に何か声を掛けようとするが、いい言葉が思いつかず悶絶していた。その様子を見た京平は、小さく笑う。
「大丈夫だって、心配すんな。きっと、いい手が見つかる。見つけてみせるさ」
「そうか?」
「とりあえず、お前は『ぱらでぃんおう』になる事に集中しろよ」
よそ見しすぎなんだよ、と心の中だけで付け加える。
「お、おう。『聖騎士王』に、俺はなる!」
殊更力強く宣言して見せる聖。
「そう、その意気だ。お前が『ぱらでぃんおう』になれさえすれば、それで上手くいくかもしれんしな」
二人が拳を合わせる。
「じゃ、俺は寝るけど、京平もあんまり無理すんなよ」
そう言って横になる聖に片手を上げて応えた京平だったが、その後は焚火を見つめたまま物思いに耽っていた。思い浮かぶのは、穂波と一緒に見た怪奇映画の数々だ。数多の名優達が演じたヴァンパイアの姿が次々と浮かんでは消えていく。
「……刷り込まれてるなぁ」
妖しくも美しく、そして恐ろしいその存在の魅力について熱く語る穂波の姿を思い出した京平が小さく笑う。今や当然の事のように、その手の新作映画が公開されるたびに映画館に連れていかれていた。どうしてもヴァンパイアという存在に期待してしまうのは、間違いなく穂波の影響だろう。それほどまでに、物語の中のヴァンパイアは魅力的だ。だが……
「……中身、か」
ヴァンパイアそのものだったジェノ、そしてそのジェノと共に暮らしてきたレリーの言葉は重かった。如何に人と同じ姿をしてようとも、その内面は全く違うものなのだと二人は言う。そしてそれは間違いなく真実なのだろう。
それでも、と京平は思う。ジェノはヴァンパイアでも龍の巫女として暮らしていたのだ。もしかしたら、高坂だってそれなりに人として暮らすことが出来るかもしれない。
「いや、それを強いるのは酷か……」
ジェノの言葉の端々には苦労の跡が窺えた。それこそ、京平には想像できないものだ。
「……他に何かいたっけな……」
徐々に襲い来る睡魔と闘いながら、京平は何とか対案を引っ張り出そうとする。
「……ライカンスロープ……は生きてるか。……レヴナント……は復讐必須だっけ……高坂に復讐は似合わないもんな……それにあれ、ゾンビみたいなもんだったような……じゃあ、駄目だ。……デスレス……祝福する位なら病気何とかしてくれよ……」
特にいい案が思いつかなかった京平は、そのままゴロッと横になった。
「やっぱりヴァンパイアか……」
そう呟いた京平の視界の端に、寝息を立てている聖の姿が映った。その暢気な寝姿に少しイラっとする。
「そうだ……そうだぞ、聖……お前が『ぱらでぃんおう』にさえなれば、俺がこんな事で悩まずに済むんじゃないか……だいたい、お前はいつもいつも……」
勿論、聖なりに真剣な事は京平も理解している。それでも一言いいたくなるほど、聖の姿は気が抜けていた。
「高坂だってきっと……」
何やら言い募っているつもりの京平だったが、それはいつしか夢の世界での出来事となり、そしてそのまま深い眠りへと落ちていった。




