表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/328

夜にして君を想う 4

「いっそ、いつもの様子見せたげたら?」


 マリエラの顔がパァッと明るくなる。


「……見世物じゃないんですけど」


 対照的にジェノはあまり乗り気ではなさそうだ。


「マリエラも頑張ったんだから、ね。それにキョウヘイ達にジェノの頭のおかしさも見せられるし、一石二鳥」

「……頭のおかしさを見せるって、意味わかんないんですけど」


 そう言いつつも起き上がったジェノがマリエラに向き直る。マリエラはうきうきと髪をかき上げ、ジェノの前にうなじをさらけ出した。


「今日は特別だからな」


 大きなため息を吐いたジェノはそう言うと、マリエラの首筋に噛みついた。


「えっ?」


 驚く京平達を尻目に、恍惚の表情を見せるマリエラ。


「……吸血出来ないんじゃ……」

「うん、吸ってない。噛みついてるだけ」


 レリーの言う通り、ジェノの喉は動いていない。


「ヴァンパイアはあれで興奮するんだって。だから今でもジェノはあれで興奮する」


 頭おかしいでしょ、と言わんばかりの表情で京平達を見る。

 暫くの間噛みついたままでいたジェノは、やがてつっと首筋から離れた。首筋に空いた小さな二つの穴から血が滴る。


「牙?」

「そう。吸えなくてもいいから牙は残せってごねたらしいよ」


 レリーが肩を竦めて説明する。

 乗り気でなかったジェノだったが、始めてしまえばそうでもないようで頬は少し上気していた。その様子を濡れた瞳で見つめているマリエラの手には、いつの間にか短剣が握られていた。


「どこでも、よろしいですか?」


 ジェノが頷くのを見たマリエラは、躊躇うことなく自分の内腿を切り裂いた。赤く染まるズボンを引き裂き、傷口を露にする。

 そこから流れ出す血を見るジェノの目が、異様な輝きを帯びる。

 何か呪文を唱え、マリエラの傷口に唇をつけたジェノ。今度はその喉が小さく動いている。


「!」


 その背徳的とも言える淫靡な光景に、動揺しつつも二人は目を離せないでいた。


「血への欲求は相変わらずだって。だから、今でも血を見るとあんな風に興奮する」


 レリーの口調からは、さっきまでのからかいの要素が消えていた。


「それでも人間だから、随分と大人しいけど」


 ジェノの舌が傷口を這い、その動きに合わせて、傷は癒えていく。


「普通、治癒の呪文って、一瞬で怪我を治すんだけど。ジェノはそれをあんな風に、ちまちま回復するように改造したの、あれだけの為に。絶対おかしいよね」


 そうレリーに同意を求められるが、京平には答えようがない。

 内腿の傷が癒えたマリエラは、今度は胸元を切った。またもやジェノの舌が傷口を這い、その傷が癒される。

 マリエラが自らを傷つけ、ジェノがそれを癒す。

 幾度かそれを繰り返した二人だったが、最後にジェノがマリエラの首筋に触れ噛み跡を消し、離れた。

 満足そうに唇の端に着いた血を拭う。


「嫌がってた割には楽しんでたね」

「わざわざ自傷してまでする事じゃないんですけどね。まあ、やるからには楽しみますけど」


 ジェノに悪びれた様子はない。


「私の為に傷ついた、という事実が血を甘美なものにするんですよ」

「ね、頭おかしいでしょ」


 いつもの調子に戻るレリー。


「それに、躊躇いもなく自分を切れるマリエラも頭おかしい。ホント毒され過ぎ」

「あら、これでも自制しましたのよ。先の戦闘の後でしたら、もっと愛していただけましたのに」


 少し残念そうなマリエラを見て、京平は彼女が傷を負うたびに歓声を上げていた理由が分かった気がした。


「ジェノの頭おかしいポイントはこれだけじゃないよ。戦闘でもそう。私やマリエラと決定的に違う所が一つある。分かる?」


 レリーの問いに顔を見合わせる聖達。


「ジェノはね、ダメージを恐れないの」


 その答えにまたもや聖達は顔を見合わせる。そうは言うが、レリーやマリエラもダメージを受ける事を恐れているようには見えなかった。

 その戸惑いを感じ取ったのだろう。レリーが説明を続ける。


「そだね。ヒジリ達から見れば、私達もそう見えるかもしれない。でも、私達はダメージを受け続ければいつか死ぬ。そう理解しているから、ある程度ダメージを受けたら慎重に行動したりする。でも、ジェノはそうじゃない。ダメージを受け続けても、死ななければ平気って思ってる。だから、敵を殺すだけを考えて行動する」

「……その言い方には悪意しか感じない訳ですが」


 軽く抗議するジェノだったが、レリーに無視される。


「でも、それって再生するからじゃ……」


 聖の言葉にレリーは首を振った。


「そだよ。でも、普通の人間は再生しないよね。だから、そんなメンタリティは持ち得ない。えっと……ヴァンパイアだった頃、よく言ってた言葉あったでしょ。あれ何だっけ?」

「……死ななきゃ、私の勝ちってやつですか?」

「そう、それ。正直、そんなメンタリティで襲ってくる敵、怖くて相手したくないもん」

「いやいや、私なんて『夜天断つ、(ル・フィナーレ・)終焉の疾風(ラファール)』一発で消し飛びますからね。主の敵じゃありませんよ」


 そう言って笑うジェノだったが、どこまで本気かは分からない。


「まあ、何より血を吸いたいって時点で人としてダメだよね」

「人じゃないですからね」


 真顔でジェノに返され、同じような真顔になるレリー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ