夜にして君を想う 3
「ああ、ついでだから教えてやる。マリエラとティファナは三百年後の世界から来た人間だ」
「はっ?」
ジェノの言葉で驚愕の視線を向けてくる聖達に、マリエラは満面の笑みで応える。
「えっ?もう、設定が渋滞しすぎてて追いつけない……」
呆然と呟く京平をよそに、レリー達の会話は続く。
「三百年後に出会った時は、普通のいい子だったのに。今ではもう、すっかりジェノに毒されて」
からかうような口調のレリーの台詞は、よく聞けばおかしいが恐らく事実なのだろう。
「あら、私とても幸せですわ。それこそ三百年後にジェノ様と出会えなかったらと思うと、ゾッとします」
マリエラはそう言いながら膝の上のジェノの髪を愛おし気に撫でている。
「朱に交われば赤くなると言うけど、マリエラもティファナももう真っ赤だよね」
「無差別に朱を撒き散らしてる主よりかはマシだと思いますけどね」
今度はジェノがからかう様に言う。
「何度も言ってるけど、私は遍く者に愛を説いてるの」
「じゃあ、私はマリエラとティファナに愛を説いてるんですよ。私が二人を赤く染めてるなら、主は遍く者を赤く染めてるんじゃないですか」
「むー」
ジェノにやり込められて拗ねる姿は、どうみても千年生きているとは思えない十七歳の少女だ。
「あの、三百年後って、三百年前じゃなくて?」
三百年前だとしてもおかしな話なのだが、驚きが大きすぎてそこに気付かない京平。
「うん。クエストでね、三百年後に飛ばされて邪龍と戦った」
近場に散歩に行ってきた位の気軽さで答えるレリー。
「ええ。そこで邪教徒の軍団に苦戦する私達の国を救ってくださったんです」
当時を思い出しうっとりした表情を見せるマリエラ。
「で、帰って来る時に一緒に連れてきたって訳」
事も無げに言うジェノ。
「未来の人をそんなに簡単に連れて帰って来れるもんなんですか?」
聖の問いにレリー達が顔を見合わせる。聖達にはその様子で何となく答えの想像がついた。
「あー、それな。ごねた」
想像通りの答えがジェノから返って来る。
「連れて帰れなければ帰らないって、ダダのこね方凄かったもんね」
「そうですか?有無を言わせず三百年後に飛ばされたんですから、あれ位普通でしょう」
神相手にごねることを何とも思ってない感じが言葉の端々から見て取れる。
「……凄いですね」
京平はただただ呆れるしかなかった。転生の神相手にそれなりに強気に出てはいる京平だが、ここまで堂々と言えるほどではない。
「神だって慈善事業じゃないんだ。あいつらにはあいつらの思惑があって私達に干渉してくるんだから、こっちだってそれなりの対価を求めたって問題ないさ」
「はぁ」
「お前らを転生させてる神だって同じさ。そいつに何かしらのメリットがあるから、こうやって転生させてるんだろうよ。じゃあ、たまにはお前らがごねたって罰は当たらんさ」
「そういうもんですか」
そう言いつつ転生の神を思い出す京平。『おねリン』に隠された思惑の一つでもあるのかと考えてみるが、あの神の様子からはどうにも思いつかない。そもそも、あの神相手にごねても出てくるのはせいぜい詫び石位なものだろう。
「そういうもんさ」
そう言ったジェノは再び鼻歌を歌いだす。聞いていると何だか気が静まっていく気がする、そんな歌に耳を傾けながらジェノ達を見ていた京平の脳裏に、ふとある事がよぎった。
「あの、もう一つ訊いていいですか?」
その思い付きをどうしても確認したくなり、再びレリー達に声をかける。
「うん。別に遠慮しなくていいし」
そう促された京平は、真剣な表情で尋ねた。
「ヴァンパイアって、病気にかかるんですか?」
ゲームではアンデッドは病気にかからない事が多いが、実際かからないものだろうか。
質問されたレリーは小首を傾げている。
「ん、病気のジェノ……私の記憶にはない……どうなの?」
思い当たる記憶のなかったレリーがジェノに訊く。
「んー、なると言えばなりますね。ただ、基本的にすぐ再生するんで影響は受けないと思いますよ」
「だって」
ジェノの言葉にやっぱりねと言う感じで頷くレリーに、京平は続けて質問する。
「じゃあ、病気の人間がヴァンパイアになったら、その病気はどうなりますか?」
「ん?ジェノ?」
今度はすぐにジェノに振る。
振られたジェノは暫く考え込んでいたが、やがて頭を振った。
「そりゃ、痛んでりゃ再生するでしょうけどね。ただ、簡単に治る病気ならともかく、そうでないなら悪化と再生を延々繰り返すんじゃないですかね?なった事ないんで分からないですけど」
そう答えると、鋭い目を京平に向けた。
「何を考えてる?」
「いや、その……」
思い付きを見透かされた京平は口ごもる。
「ん?何だ?」
話が見えていない聖は、緊張感の走った京平とジェノを交互に見やる。
「病気が回復するなら、一度……」
「ダメ」
「馬鹿か、お前」
「およしなさい」
京平の言葉を、レリー達三人それぞれが強い否定の言葉で遮った。
「下らない事考えるな。ヴァンパイアなんてロクなもんじゃねえよ」
その言葉にレリーが頷く。
「ジェノを見てたら分かるよね?そもそも人間とは全然違う存在なんだよ」
レリーの言う通り、ジェノの言動には人間の範疇を逸脱した様子が散見される。だが、京平にしてみれば、命を失う事に比べたら許容できる範囲だと感じていた。
「確かにちょっとどうかと思わなくもないですけど……そんなに言う程ですか?」
その言葉に主従は顔を見合わせ、やがてどちらからともなく笑いだした。
「まあ、今は人間だからな。どうです、主。私も随分とそれらしく振舞えるようになったでしょう?」
「ちょっとどうかと思われてる時点でダメ」
「これでもシスターや子供達の手前、随分と我慢したんですけどねぇ」
その言葉にマリエラがうんうんと頷く。
「我慢は認める」
そう言って小首を傾げ何事か考えていたレリーは、やがて一つ頷いた。




