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あやしい神ほどよく喋る 1

「おーっす」


 翌朝、普段は昼過ぎまで遊びに来ない聖が、早朝から京平の家にやって来た。

 寝ていた所を叩き起こされた京平は、眠い目をこすりながら玄関の扉を開け友人を招き入れる。


「……朝練行ってた時よりはえーよ。どんだけワクワクしてるって話だよ……」

「えっ?普通、楽しみにするだろ。神様来てる?」


 部屋に上がり込み、神の姿を探すが、まだ来ている様子はない。


「あいつがこんな時間に来たら問答無用で追い返すわ」


 お前も追い返したいと言外に滲ませつつ、渋々着替えた京平は冷蔵庫から缶コーヒーを二本取り出し、聖の待つリビングに戻る。


「お、サンキュー」


 聖は京平から投げ渡された缶コーヒーを一気に呷る。


「俺はもうちょっと甘い方が好きなんだよなぁ」

「……眠気覚ましには苦い方がいいんだよ」


 京平も一気に呷ると、真剣な顔で聖に向き直った。


「さて、幸いにも神とやらが来てないので、今後について相談しておこう」

「お、おう?」

「仮に、あの神が今日も来て転生云々と言い出したとする」


 京平としては、来ないなら来ないに越したことはないとでも言った感じの口調だが、聖は違うらしい。


「来なかったら『聖騎士王(パラディンおう)』になれねーじゃん」

「来たからなれるってもんでもないと思うけどな」

「……そんな真顔で言われても」


 身も蓋もない京平の言葉に、肩を落とす聖。


「そもそも、俺はあれを神だと信じた訳じゃないからな」

「いや、でも京平も体験したじゃん。えーと、そうそう、チャドウ・ファイト!」


 体内に流し込まれる大量の茶とエンドレスに繰り出される腹パンが京平の脳裏にフラッシュバックする。


「やめろ、思い出させるな。あんなの幻覚だ!」

「……いや、チャドウ・ファイトの幻覚見るって、それはそれでどんな心理状態よって話だぜ」

「とにかく、俺は昨日のあれは夢だった、に一縷の望みをかけている」

「そんなに嫌か?」


 聖にしてみれば千載一遇のチャンスなだけに、煮え切らない京平の態度に少々もどかしさを感じていた。


「高坂を助けるチャンスなんだぞ」


 それは聖に言われるまでもなく分かっている京平であるが、あの転生の神がチャンスの神だとは思えないでいた。


「……それは分かってるんだよ。分かってるんだけど、何もあんな神じゃなくてもいいだろ……」


 その思いが自然と漏れ出てしまう。


「まあ、いいじゃん。昨日、とりあえずやってみようって決めたんだから、やってやろうぜ」

「……そうだな」


 確かに聖の言う通り、昨日とりあえずやると決めたのだ。


「よしっ!」


 一晩寝た事で顔を出しかけていた弱気の虫を叩き潰すかのように両の頬を叩いて気合を入れる。


「OK。とりあえず、これから転生した場合の方針を決めよう」

「そうこなくっちゃ」


 ようやくやる気を出した京平の方へ身を乗り出す聖。


「お前は『ぱらでぃんおう』になる。なる為にはパラディンが存在するような世界を異世界ガチャで引く必要がある」


「おう。『聖騎士王(パラディンおう)』に俺はなる!」


 今日も元気に宣言する。


「そんなファンタジー世界を引けたら、当然全力でパラディンになる努力をしてもらう。これは確定」

「任せろ!」

「で、問題は昨日のチュートリアルみたいな訳の分からない世界を引いた場合だ」


 クプヌヌだのチャドウ・ファイトだの、異世界ガチャの中にはどれだけ訳の分からない世界があるのだろう。


「お前の場合、パラディンになれなさそうな世界なら、とっとと帰ってくるのも一つの手だ」


 訳の分からない世界に無駄な労力を使う必要もない。


「まあ、確かに一理あるけどさ。でも、折角なのに勿体なくね?」


 チャドウ・ファイトの話を聞いてワクワクした男である。どんな世界にも興味を持つだろうという事は想像に難くなかった。


「そう。勿体ない」

「お、おう」


 予想外の肯定が返ってきた事にびっくりする聖。


「俺はパラディン以外の手段を探す。お前がパラディンになれれば手っ取り早いが、そう簡単でもないだろう」


 それは聖も認めざるを得ない。


「そもそもファンタジー世界が引けるかどうかってところからスタートだからな」


 チュートリアルでこそファンタジー世界だろうと思う京平だったが、神曰く異世界ガチャはガチらしい。


「転生物と言えばファンタジーってレベルなのに、三連続で引けてないからなー」

「引けないなら引けないで仕方がない。ガチャだからな。だからこそ、俺はその他の世界で高坂を救う方法を探す」

「おう。それは任せる」

「いや、お前にも手伝ってもらうんだけどな」


 すっかり他人事なつもりだった聖は、京平の言葉に目が点になる。


「お前が言ったんだぞ。折角なのに勿体ないって。ようは俺もお前も、どんな世界に転生しようが十日間フルにその世界で過ごす」

「それで?」

「お前はどんな世界か出来る限り覚えて帰って来てくれればいい。そしてそれを俺に伝えろ」

「そんな事でいいのか?」

「ああ。情報は大事だからな。期待が出来そうな世界なら、俺も行ってみる」

「よし、任せろ」


 聖お得意の安請け合いな気がしなくもないが、まあ大丈夫だろう。


「早く神様来ないかな」


 期待に胸を膨らませ神を待つ聖のその姿は、遠足前日の小学生を彷彿とさせる。


「……神だけ何とかならねぇかな……」


 昨日のやり取りを思い出した京平は、あれが今後も続くのかとうんざりしている。


「それな。こういうのって普通は女神様が相場だよな」

「いや、まともでさえいてくれれば、それでいいんだけど……」

「ドジっ子女神とかだったら萌えるだろ?」


 京平の眉間にしわが寄る。


「転生の際にドジをされるって、物凄く怖いと思わないか」

「あー、確かに。じゃ、転生先でドジっ子に出会う、とかに期待しよう」


 しわが深くなる。


「……念のために聞くけどさ、何の為の転生か分かってるか?」

「『聖騎士王(パラディンおう)』に俺はなる!」

「その『ぱらでぃんおう』になるのにドジっ子は必要か?」

「……そこは一つ別の話という事で……」


 更にしわが深くなる。


「ならねーよ。何の為の『ぱらでぃんおう』か、真面目に考えろ」

「そうは言うけどさ、どうせ転生するなら会ってみたいじゃん。異世界のお姫様、ドジっ子エルフ、ケモ耳メイド!」

「どれか一つでも『ぱらでぃんおう』になるのに必要か?」


 気持ちは分からないでもないが、もう少し真剣になってくれないものかと、心の底から思う。


「……お姫様はワンチャン……」


 その答えに京平は大きなため息をつく。


「……分かった。まあ、『ぱらでぃんおう』になるのはお前だから、その過程は好きにしたらいいさ。だけど……」


 真剣な眼差しで聖を見据える。


「なれるチャンスがあったのになれなかったら、俺が詰める」

「お、おう」

「後、遊び惚けて情報持って来れなかった場合も、詰める」

「分かった」


 聖も真剣に頷く。


「あの神のやる事だから、適度なお楽しみでもなけりゃやってられないってなるかもしんねーしな」


 昨日のチュートリアルに思いを馳せる。ティラノサウルス、クプヌヌ、チャドウ・ファイト。こんな世界ばっかり続くとしたら、高坂を助ける前に自分達がどうにかなりそうだ。


「だろ?たまには息抜きも必要だって」

「三回」

「えっ?」

「息抜きしていいのは三回までな」


 唐突の回数制限に戸惑う聖。


「えっ?いや、少なくね?」


 聖の抗議にも京平は耳を貸さない。


「最大三十回の中の三回だぞ。一割も息抜きしていいなんて息抜きし放題じゃないか」


 京平にしても三回が多いか少ないかは全く判断出来ていないが、とりあえず聖には釘を刺しておくに越したことはない。


「お姫様とエルフとケモ耳で三回埋まっちまうじゃん」

「お姫様もエルフもケモ耳も、全部ファンタジー世界の可能性が高いからな。出会えたところで、お前は息抜きどころじゃないかもよ」

「げっ、マジか……」


 気付いてなかったのか、かなりの衝撃を受けた様子を見せる聖。


「お姫様はファンタジーじゃなくてもワンチャン……」

「そうだな」


 京平はにべもない。


「そう言う京平だって、何か会ってみたいのいるだろ?」


 その聖の問いに、京平は間髪入れずに答えた。


「スーパードクター」

「……そういう事じゃないんだよ……」


 聖は聖でため息をつく。京平の言わんとすることも分かってはいるのだが、今はまだどうしても異世界への興味が勝ってしまっていた。

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