夜にして君を想う 2
「あの、俺からも一つ訊いていいですか?」
「何?」
話が落ち着いたのを見計らって声を掛けた京平に、レリーが答える。
「ジェノさんて人間ですか?」
「……失礼な奴だな」
京平の質問は不躾だったが、答えたジェノはさほど気分を害していないように見える。
「人間よ。どして?」
レリーは不思議そうな表情で京平を見つめている。
「えっ?いや、だってジェノさん、再生してましたよね?」
クプヌヌとの戦いを思い返す。ヌヌネネーを浴びようが、クプ腕に斬られようが、暫くすると元の状態へと戻っていった。何より首が折れても平気で動く姿は衝撃的だった。
レリーやマリエラにそんな様子は見受けられないという事は、普通の人間に出来る事ではないのだろう。
「ああ、そかそか。ジェノはね、元々ヴァンパイア。今は転生して人間だけど」
レリーは何でもない事のように答えたが、聖達は驚きのあまり声も出ない。
「だから再生できるって訳でもないけど」
「どういうことです?」
一足先に動揺から回復した京平が訊く。
「転生って転生先の種族そのものになる訳だから、例え元々ヴァンパイアだからって『普通』は再生なんて出来ないの」
レリーは、普通、と言う部分を強調しながら意味あり気にジェノの顔を見るが、ジェノは我関せずといった感じで鼻歌を歌っている。
「ジェノさんは普通じゃないって事ですか?」
「そう。だよね?」
明確に話を振られたジェノは、渋々と言った感じで答える。
「ええ、まあ。転生の際、散々ごねましたから」
「ごね、た?」
京平は予想外の答えにオウム返しに訊いてしまう。
「ああ」
「誰にですか?」
「転生させようとした神に」
唖然として言葉を失う京平。最初の衝撃からようやく立ち直った聖が質問を続ける。
「神様相手なんですよね?ごねて大丈夫なんですか?」
「主を庇って首飛ばされて、やっと龍の巫女とかいう御大層な使命から解放されるかと思ったら、今日から人間になって巫女を続けてもらいますときたもんだ。多少ごねたって罰は当たらんだろ」
事情を知っているらしいレリーは、ジェノの答えにおかしそうに笑っている。
「多少ってレベルじゃないって聞いたよ?」
「そうですか?吸血出来ないを受け入れた時点で、譲歩の極みだと思ってたんですが」
「吸血出来たら、それはもうヴァンパイアじゃ……」
聖の突っ込みに頷いて見せるジェノ。
「そう。ようは元通りヴァンパイアに転生させてくれりゃ良かったんだよ。それを龍の巫女としてどうのこうのって難癖つけやがって……」
当時を思い出したのか、イラっとした表情で吐き捨てるように言い放つジェノ。
「ヴァンパイアが龍の巫女?」
レリーは善なる龍神の巫女だと言っていた。一般的なヴァンパイアのイメージとは到底合わない。
「確かに世間体は良くなかった」
レリーが頷いている。
「てめぇで選んでおいて世間体が悪いもないと思いますがね。だいたい、主だって半分サキュバスじゃないですか。どっちかと言うとこっち側の存在ですよ」
「えっ?」
新たな衝撃が聖達を襲うが、主従は構わず話を続ける。
「私はほら、慈愛の聖騎士だから」
髪をかき上げポーズをとるレリー。
「やってる事はサキュバス成分だだ漏れですけどね」
ジェノはにべもない。
「遍く者に愛を説いてるの」
唇を尖らせて抗議するレリーだが、ジェノに簡単にあしらわれる。
「はいはい。そんな事を千年もやってるんですから、そりゃサキュバスだって噂も出ますよ。ま、半分当たってる訳ですが」
「えっ?」
更なる衝撃が聖達を襲う。そこでようやく主従は聖達が二人の話についてこれてない事に気付いた。
「大丈夫?」
レリーに訊かれ、聖達は同時に頭を振る。
「え?あ、まあ、ちょっとびっくりしただけです」
そう答えた聖だが、二人の驚きは到底ちょっとというレベルではない。
「半分サキュバス、なんですか?」
恐る恐る訊く聖。出会いを思い返してみれば、訊くまでもない気はする。
「うん。父がパラディンで母がサキュバス」
あっけらかんと答えるレリー。
「それで、千年生きてるわけですか?」
やはり恐る恐る訊く京平。
「うん。千年生きてるのは本当。でも、サキュバスだからじゃない」
小首を傾げて少し考え込むレリー。
「んと、ヒジリ達で言うところのクエストの報酬?になるのかな。龍の巫女としての。それで、不老不死」
「不老……不死?」
聖達は思わずレリーの姿をまじまじと見つめてしまう。そこにいるのはどこからどう見ても十代の少女で、到底千年生きているとは思えない。
「そう、だから私は永遠の十七歳」
軽く胸を張るレリー。
「永遠の龍の巫女でもありますけどね。敵を殺し尽くすまで戦い続けさせられる訳ですよ」
ジェノはいかにも面倒だと、投げやり気味に言う。
「いいじゃない。永遠に青春を謳歌できると思えば安い物」
それに比べるとレリーの声はまさに千年の間、青春を謳歌してきたと思わせるかのように明るい。
「まあ、そうなんですけどね。主はせめてもう少し成長してからの方が良かったんじゃないですか?」
「十七歳と言うのが大事」
いつものやり取りを始める主従を呆気にとられた様子で見つめる聖達。言葉通り住んでる世界が違う相手だが、想像を超えていた。




