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夜にして君を想う 1

 夜の帳の降りた森にジェノの鼻歌が流れていた。マリエラに膝枕され機嫌良さげに歌っている。

 アンと子供達はそれを子守唄にテントで早々に眠りについていた。

 レリーは手持ち無沙汰にたまにバチバチっと音を立てる焚火をいじっている。戦闘で昂った気持ちが収まりきらず眠れずにいた聖達は、何となくその様子を眺めていた。

 また、バチバチッと薪がはぜ、ふとジェノの鼻歌が止まった。


「そういや、ナオエ。お前、何でパラディンになりたいんだ?」


 頭をもたげたジェノが聖に目を向ける。


「えっ?それは……」


 話していいものかとレリーに目を向けると、笑顔の彼女と目が合った。


「病気の幼馴染を助けたいんです」

「病気の、ねえ……」


 自分から聞いた割には気のない返事を返すジェノ。


「はい。自分達の世界では手の打ちようがなくて、パラディンの力ならなんとかと思って……」

「まあ、パラディンならって気持ちは分からないではないけどな」


 そう言いながらマリエラの頬を軽く撫でる。


「……じゃあ、その幼馴染連れてきて、主にでも治してもらったらいいだろ?その方が手っ取り早い」


 ジェノのもっともな疑問に聖は残念そうに答える。


「それが、この世界のどこに来れるかはランダムなんで。その、彼女にはリスクが……」

「は?なんだそれ」


 呆れたようなジェノの声。


「神様曰く、そういうルールらしいです」

「……神ってのはどこでも面倒な事しかしねぇな」


 ジェノもレリーと同じく神という言葉に、妙に納得した様子を見せた。それ以上の興味をなくしたのか、マリエラの膝に頭を乗せると再び鼻歌を歌い始める。


「あの、一つ聞いていいですか?」


 今度は聖がレリーに目を向ける。


「ん?何?」

「さっきの師匠の技、ル・フィ……フィナー……」


 カッコいい響きだった事だけ覚えている聖。


夜天断つ、(ル・フィナーレ・)終焉の疾風(ラファール)?」

「そう、それですそれ。その技って、俺がパラディンになったら使えるようになったりしますか?」


 聖の能天気な質問に、京平が無理に決まってるだろと言う視線を向ける。だが、レリーは笑顔で肯定した。


「うん、出来る出来る」


 レリーの安請け合いに、今度はジェノが何言ってるのかという視線を向けた。


「出来ますか!」


 テンションが上がる聖を見たジェノは、呆れたようなため息と共にレリーを嗜める。


「いい加減な事を言うもんじゃないですよ、主。あの技は主の剣があってこそでしょ。あんなもん、おいそれと手に入るもんじゃないでしょうに」


 そうだろうと頷く京平。聖も確かにと納得の表情を見せる。だが、レリーは首を横に振った。


「私のはそだよ。でもヒジリだって、パラディンになって神に認められる程の活躍をしたら、同じような事は出来るようになるよ」

「……いや、そりゃそうかもしれませんけどね。それがどれだけハードル高いか分かってます?」

「でも、それで諦めてたら何も出来ないし。諦めなかった人だけが神に認められる」

「……まあ、主の弟子だから、私は別に構いやしませんけどね」


 ジェノが早々に匙を投げる。


「だから、がんばろ、ヒジリ」

「はいっ!」


 レリーの言葉に聖が力強く頷く。割と何も考えていない者同士、何となく上手くいくのかもしれない、と言う思いが当人達以外の胸に去来する。


「ヒジリだけの必殺技、使えるようになるよ」

「俺だけの必殺技……」


 拳を握り締め、自らの必殺技に思いを馳せる聖。


「そうか……俺も、こうオーラなんか出ちゃって、バーンと……」


 そのまま自分の世界に浸っていた聖が何気なく呟いた一言に、レリー達は顔を見合わせた。


「えっ?お前、あれ見えてんの?」

「あれって……師匠を包んだ緑っぽい光の事ですか?」

「マジかっ!マジでお前あれ見えんのかよ」


 ジェノが心の底から驚いたというような表情を見せる。大小の違いはあれど、レリーとマリエラも同じような表情だ。


「えっ?あ、はい。京平も見えてたよな?」


 何をそんなに驚かれているか分からない聖は、京平に同意を求める。


「ええ、まあ……」


 控えめに肯定した京平を見たジェノは、そのまま天を仰いだ。


「何だよこいつら。神の声が聞こえたりオーラが見えたりって、訳分かんねぇよ」


 訳が分からないのは聖達も同じだ。ジェノの様子に困惑の表情を浮かべるしかない。


「さすが私の弟子。やっぱり出来が違う」


 そんな中、何故か胸を張るレリーに対し何か言おうとしたジェノだったが、珍しくその言葉を飲み込んだ。


「……確かに、そうかもしれませんね……」


 ひねり出すようにそう言ったジェノは、まだ信じられない様子で二人を見ている。状況を全く理解できない聖達は、助けを求めるようにマリエラを見た。


「普通の人は、神の声も聞こえませんし、オーラも見えないんですよ」


 マリエラは端的に答えてくれる。


「マジっすか!えっ?もしかして、俺、少し凄いんですか?」

「うん、凄い凄い」


 レリーと一緒になってはしゃいでいる聖を静かに見ていた京平だが、心の内では同じようにはしゃいでいた。

 転生の神の声が聞こえる件は横に置いておくとしても、万人に見える訳ではないオーラを聖が見ることが出来るのは朗報だ。パラディンの素質があるとまでは言わなくとも、全く何の素質もないという事もないだろう。


「でもまあ、弟子じゃない方も見えてんすけどね」


 驚きを脱し、いつもの調子を取り戻したジェノが突っ込む。


「それなー。何でお前も見えてんだよ」

「いや、そこはいいだろ別に」


 残念そうな聖に、たまらず突っ込む京平。


「そっか。じゃあ、もしかしたらキョウヘイの方が向いてるかもね」

「えー、そりゃないっすよ、師匠」


 師弟の他愛無いやり取りを見ながら京平は苦笑いを浮かべる。どう考えても自分がパラディンに向いているとは思えない。面倒な話になる前に、流れを変えようとジェノへ話を振ってみる。


「ジェノさんは出せないんですか?その、オーラ的な……」

「出るわけねぇだろ。バード舐めんな」


 別に舐めていた訳ではないが、一蹴される。


「じゃあ、その、必殺技的な何かとかは……」

「ねぇよ、そんなの、恥ずかしい」


 手をヒラヒラさせて、それも否定してくる。


「なんで、カッコいいよね?」


 レリーが同意を求めた相手は聖だ。当然、聖は全力で頷く。


「ジェノも何か言えばいいのに」


 レリーの言葉に嫌そうな表情を隠そうともしないジェノだったが、それでも何か考えたらしい。やる気なさげに言い放つ。


「殺す、でいいんじゃないですかね?」

「……いつも通りじゃん」

「は?私、そんなにいつも殺す殺す言ってますかね?」

「自覚ないとかヤバすぎ」


 暫く睨み合った主従だったが、すぐに鼻を鳴らして目を逸らす。その横で、マリエラが私にも聞いて感を全力で出しているのだが、主従は気付きそうにない。仕方なく、京平が水を向ける。


「マリエラさんなら……」

「ジェノ様の為に、ですわ」


 待ってましたとばかりに食い気味で答えるマリエラ。聞いた全員が知ってたとばかりに納得の表情で頷いた。


「そういや、ナオエ。お前、主が技を撃った時、何か変な事言ってなかったか?えーっと、あれだ、チョーチューニ」

「ああ、言ってたね」


 頷きあう主従を見た聖の顔色がサッと変わる。


「あれ、どういう意味だ?」


 天を仰ぐ。そのまま助けを求めるように京平の方へと顔を向けたが、京平はさっきの自分のように明後日の方を向いて気配を消していた。


「いや、その、それこそ、カッコいいとかナイスって感じの言葉で……」


 しどろもどろになりながら答える聖の様子を疑い深げに見ていたジェノだったが、それ以上追及する事はなかった。


「ふーん、カッコいい、か。チョーチューニ」


 レリーは気に入ったのか、何度か口ずさんでいる。

 その姿に一抹の不安を感じないではなかった聖だが、愛想笑いでその場を誤魔化した。

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