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あるいはクプヌヌという名の狼 4

「マリエラ、好きなタイミングでクプヌヌの前に飛び出せ。出来る限り引きつけろ。後ろはニワ達に」

「承知いたしました」


 ジェノの指示を受けたマリエラは、クプ腕の攻撃が手薄になる瞬間を狙い走り出した。追尾するクプ腕もあるが、大半はそのまま聖達に襲い掛かる。


「うお、一気に来やがった」


 どれほどマリエラに守られていたか実感する二人。必死にクプ腕を止めようとするが、全ては止めきれない。


「しまっ……」


 慌てて振り返ると、アン達に届くことなく切り捨てられたクプ腕が転がっていた。


「ヒジリ、減点」

「すいません、師匠」

「ニワ、てめぇ見えてんならしっかりしろ」

「サーセン、ジェノ姉ちゃん」

「お前は後で殺す」


 クプヌヌの背後を取ろうとしたレリー達が、通り過ぎざまに切り捨てていったのだ。


「次はないからな。死ぬ気で頑張れ」


 ジェノの頑張れは、アン達と同じ言葉とは思えない程恐ろしく聞こえた。


「無茶苦茶言うな」


 とは言え、ジェノの言う通りである。たまたまさっきはレリー達のタイミングが合っただけだ。


「お互いカバーするのが仲間だよ、次はしっかり」


 レリーのフォローが心に染み入る。


「カバーされてばっかだな、情けねぇ」


 聖が呟く。その肩を京平が軽く叩いた。


「カバーされてでも失点しなけりゃいいんだよ。次は二人で守るぞ」


 そんな聖達を見守りつつ、レリーがクプヌヌの背後に回り込む。マリエラは十分に囮の役目を果たしているらしく、後方への攻撃は手薄になっていた。その隙に、ジェノはクプ腕を避けながらギリギリまでクプヌヌに近寄っている。


「ジェノ、行くよ」


 レリーはジェノの返事も待たず、剣を鞘に収めると深く腰を落とした構えを取る。そして、祈りのような言葉を唱え始めた。


「我が剣、聖龍の爪となりて、斬り裂け……」


 レリーの体から薄緑のオーラのようなものが立ち昇り、全身を包んでゆく。


「すげー、マジでスゲー」


 その姿に語彙を無くす勢いで感嘆の声を上げる聖。


「……確かに」


 騒ぐ聖に文句を言おうとした京平もまた言葉を失った。


夜天断つ、(ル・フィナーレ・)終焉の疾風(ラファール)!」


 レリーが剣を抜き放つと、その刀身は唸りを上げる衝撃波を生み出した。渾身の一撃が激しくクプヌヌを穿ち、その衝撃でククネプが大きくうねる。そして、鱗に覆われた本来の体が初めてレリー達に晒された。


「うわっ、超厨二!」


 まさに必殺技と言う一撃に、感嘆のピークに達する聖。


「おい、集中しろって。まだ、終わってねぇし」


 いち早く我に返った京平は、そんな聖に対して非難の声を上げる。レリーの技にクプヌヌの意識が集中したとはいえ、自分達に向かってきているクプ腕が減っているわけではない。


「くそっ、せっかく異世界の醍醐味を体験出来たんだから、少しは浸らせてくれよ」

「生き残ってから浸れって」


 二人して必死でクプ腕を防ぐ。その目に、軽快にクプヌヌの背を駆け上がり突き刺さったままの剣に飛びつくジェノの姿が映った。


「上等!」


 剣は鱗を貫いて背に刺さっていたが、ジェノは構わず力をこめ肉を切り開こうとする。


「急いで」


 衝撃を逃がしきったククネプが元の状態に戻ろうとしている。


「なめるなよ」


 さらに力を籠める。剣の動きに合わせ、貫かれていた鱗が剥がれ生の肉が姿を現した。ジェノはここぞとばかりにその背を切り裂く。

 慣れぬ痛みに暴れるクプヌヌ。傷はさほど大きくなかったが、ジェノにはそれで十分だった。首飾りを引きちぎると、その傷口に捻じ込む。

 次の瞬間、ククネプは元の状態へと戻り、傷口を覆い隠す。その背から飛び降りつつ呪文を唱えるジェノ。

 傷口の中で首飾りに巻き付けられた呪符が炎に包まれる。その炎は首飾りの紅玉を次々と呑み込み、火球へと変えていく。


「爆ぜろ!」


 そしてその火球が一斉に爆発した。

 ククネプが内側からの衝撃で激しくうねる。だが、本来爆発四散するはずのエネルギーはククネプに阻まれ、全てクプヌヌへと還っていった。

 クプヌヌの体が激しく跳ね上がる。その背を覆うククネプが溶けるように流れ落ち、爆発で肉が弾け飛んだ無残な傷が露わとなった。傷口からは青い血が激しく噴き出している。


「ハハ。やっとだ、やっとお前の血を見たぞ!」


 ジェノは笑いながら傷口へと身を躍らせる。

 ククネプは破損した部分を修復しようと背の部分に集まってくるが、傷口を越えて結合することが出来ない。


「なんだ?傷があると元に戻らないのか?それは残念だな」


 剣を拾い上げると傷口をどんどん抉っていく。


「で、次は何だっけ?」

「あ、えっと、マプージョンをクポヌカする、です」


 京平が答えるが、ジェノは真面目に聞いてはいない。


「ま、何でもいいや。どうせ分からないしな」


 笑いながら斬り続けている。


「楽しそう」


 レリーは何でもない事のように言うが、聖達は若干引き気味だ。


「あー、これか?これがマプージョンか?」


 ジェノによって一つ目の内臓が引きずり出される。だが、クプヌヌは動きを止めない。最後の抵抗とばかりにクプ腕を傷口へと伸ばす。


「くそ、人が気分よく斬ってる時に邪魔すんじゃねーよ。レリー、マリエラ、見てないで手伝え!」

「えー、めんどう」


 ぶつぶつ言いながらもクプヌヌに斬りかかるレリー。


「仰せのままに」


 マリエラは嬉々としてクプ腕に斬りつけている。

 こうなれば最早クプヌヌに打つ手はない。ジェノに全ての内臓を引きずり出され、クプヌヌが動きを止めるまで、そう時間はかからなかった。

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