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あるいはクプヌヌという名の狼 1

「用意はいい?行くよ」


 レリーはそう言うとジェノと共にクプヌヌに斬りかかる。聖達はマリエラを挟むように立つと、盾を構え子供達を守る態勢をとった。

 クプヌヌの正面に立ったレリーは、殊更注意を惹くように激しい斬撃を繰り出していく。その隙にジェノが背後に回り、その背を切り裂こうというのだ。だが、クプヌヌはレリーの攻撃に対しクプ腕を振り回して応戦してくる。その激しさはレリーのそれに勝るとも劣らない勢いだ。さらにはヌヌネネーの放射も忘れない。

 ジェノはクプヌヌの攻撃がレリーに集中するのを確認すると、背後から斬りかかった。だが、クプヌヌはその姿が見えているかのように、ジェノに対してもクプ腕を伸ばしてくる。

 ジェノは自分に向かってくるクプ腕を躱し、切り捨て、前へ進もうとするが、その激しさに本体へはなかなか近付けない。右へ左へとステップを踏むようにフェイントを入れても、クプ腕は確実に追尾してくる。さらには首をくるっと回し、レリーに向けて吐いていたはずのヌヌネネーをジェノに浴びせようとまでしてきた。


「ちょっと、レリー!ゲロがこっちに飛んでくるんですけど!」


 たまらず非難の声を上げるジェノにレリーも負けずに言い返す。


「うるさい!こっちだって浴びてるんだから文句言わない!」


 レリーの周囲には斬られたクプ腕が無数に転がっている。だが、襲いくるクプ腕が減った様子はない。斬られたそばから新しいクプ腕が生えてくるのだ。それでも、何度かはクプ腕をかいくぐり胴へと攻撃を当てる事に成功するが、その刃はククネプに阻まれてしまい傷を与える事は出来ていない。


「鎧の隙間からゲロが入って悲惨な事になればいいんですよ!」

「もうなりかけてるから嫌なの!」


 お互いに罵声を浴びせつつも攻撃の手は休めない二人だったが、クプヌヌは苦も無く応戦している。それどころか、離れた所にいる聖達に攻撃を加える余裕すら見せた。

 アンと子供達は三人の背後で身を寄せ合い、神への祈りを唱え恐怖と戦っていた。聖達の盾が激しい音を立てる度に子供達は身を震わせる。アンはそんな子供達は落ち着かせようとギュッと抱きしめるが、

その腕もやはり震えていた。

 その姿を目の当たりにしている聖達は、何としてもアン達を守ろうと力を振り絞る。

 京平がクプ腕の軌道を見極めマリエラに伝え、マリエラはその指示通りにクプ腕を斬っていく。だが、聖達に向かってくるクプ腕の数が増えると、当然マリエラだけでは対処しきれなくなってしまう。聖と京平はマリエラが討ち漏らしたクプ腕を盾で受け止め、子供達を向かうのを阻む。その衝撃は激しく、一々吹き飛ばされそうになるのを踏ん張るだけでも一苦労だ。


「なるほどなぁ」


 そんな状況の中、聖は何かに納得するように頷いた。


「何が!」


 フィジカルで圧倒的に聖に劣る京平は、当然一撃から受けるダメージも大きい。その上、クプ腕の予兆を見逃さないよう集中しているのだから心身共に激しく消耗していた。そんな状況で聖に暢気な声を出されれば、イラっとしてしまうのも仕方が無い事だろう。


「いや、盾はメイスに負けるってのがよく分かるなーって思って」

「はぁ?」

「ジャンケンだよジャンケン。この世界のジャンケンてレイピアと盾とメイスの三竦みで、盾はレイピアに勝てるけど、メイスには負けるんだよ。こうやって盾で守ってても激しく殴られ続けたらダメージ受けるんだなって実感してた」

「それで?」

「いや、それだけ」


 体力的にまだ余裕があるのか、聖の声に悲壮感はない。徐々に限界が近付きつつある京平には、それが無性に腹立たしい。


「一つ教えてやる。お前が受けてる攻撃の半分は、クプ腕の突きだから」

「えっ?」

「半分は突かれてるんだよ。つまり、レイピアでだって物凄い力で突かれたらダメージ受けるってことだ」


 京平の言っている事もだからどうしたという内容であるが、本人にそこまで考えている余裕はない。


「でも、クプ腕は太いからレイピアってよりかはランスみたいじゃん。だから突きに関してはノーカンという事で」

「はいはい、お二人とも。きついでしょうけど、集中してくださいな」


 程度の低い言い争いを始めた二人をマリエラが窘める。そのマリエラも既に相当なダメージを受けていた。

 いかに京平にクプ腕の挙動が見えているとはいえ、素人の聖達がここまでやれているのはマリエラがカバーしてくれているという事が大きい。自らが斬りそこなったクプ腕も極力自分自身で受け止め、聖達に向かわないように体を張ってくれているのだ。

 その事は聖達も気付いており感謝の念に堪えないのだが、同時に傷を負うたびに聞こえてくる、


「ああ、この傷はジェノ様に喜んでいただけるかしら」

「これだけ怪我をすれば、どれくらいの間、ジェノ様に癒してもらえるかしら」


 と言った欲望の声にも気付いてしまっており、胸中は複雑だ。とは言え、マリエラの言う通り集中しなければ、いつミスをするか分からない。


「クプヌヌ、集中!」

「一本一本止めていこう!」


 試合でピンチを迎えた時のように声を掛け合い、気合を入れ直す二人。改めて盾を構え直した二人は、前線のレリー達に目を向ける。自分達が限界を迎える前に、あの二人が状況を打開してくれるのを祈るしかない。

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