ダンス・ウィズ・ウーズ 8
「で、そのクプヌヌとやらはどうすれば倒せるんだ?」
目が完全に据わったジェノは、ヌヌネネーを浴びるがままの状態で京平に訊く。
「あ、その、あの表面を覆っているククネプを制御するマプージョンと言う器官をクプヌヌ・ネ・ズブサでクポヌカ……」
一言発する毎にジェノの表情に凄味が増していく。その目で見つめられている京平に最後まで話しきる勇気はなかった。
ヌヌネネーが止む。クプヌヌはすぐさまゲロを吐いて、次弾の準備を始めている。
「大人しくしてれば調子に乗りやがって」
すぐにでも斬りかかって行かんばかりのジェノを、レリーが冷静に押し止めた。
「ダメ。今行ってもさっきの繰り返しだよ。キョウヘイの話を聞いてからにしよ」
レリーの言葉に渋々といった表情で従うジェノ。
「分かるように喋れ」
「えーっと、つまりですね、あの表面を覆っているのはククネプって呼ばれている液体状の金属で……」
「水銀みたいなものか?」
「ええ、まあ、そうです。それが鎧みたいな役割を果たしていまして、それを制御するマプージョンという器官をどうにかしてやれば……」
クポヌカについて正確な情報がないのが口惜しい。
「そのマプージョンと言うのは内臓か?」
「……多分」
「頼りねぇな」
「クプヌヌ・ネ・ズブサという、こうリーチの長い鋏みたいな武器でクプヌヌ突き刺す必要があるのは間違いないので、内臓なんだと思います。で、クポヌカするって聞いてるんですが、それがどういう事かはよく分からないんで……」
京平が説明している間も断続的にヌヌネネーが降り注いでいる。そのたびにレリー達は守護を展開し、ジェノはヌヌネネーを浴びていた。
京平は、ジェノの苛立ちが自分の説明の至らなさか、ヌヌネネーを浴び続けているせいなのか判断出来ず、ドキドキしながら話を続けている。
「先が鋏になってるので、マプージョンを切り取るんじゃないかと思うのですが……」
「……OK、OK。つまり、そのマプージョンとやらを引きずり出せば、あいつは死ぬんだな」
「ま、まぁ、そんな感じじゃないかと、思ったり思わなかったり……」
京平も正確な情報を掴んでいるわけではない。もし間違いだったらと思うと、その後の展開にゾッとする。
そんな京平の心の内を知ってか知らずか、不意に笑いだすジェノ。
「フフフ、ハハハ、ハハハ!死ぬんだな!あれもちゃんと死ぬんだな!いやぁ、良かった良かった。実は殺せない奴かと思ってドキドキしてたんだ。なぁ、レリー」
呵々大笑するジェノとは違い、控えめに笑うレリー。
「うん。殺せると分かったら、それで十分」
「マプージョンだか何だか知らないが、内臓全部引きずり出したらいいんだろ、簡単な話だ」
そう言って笑ってみせたジェノの笑顔は、京平達が見てきた中で一番いい笑顔だった。
「どうやる?」
「どうもこうも、背中から開きにするしかないでしょ」
「おっけー」
レリーとジェノの視線が交差する。次の瞬間、二人は同時に動いた。
「最初はメイス!ジャンケンポン!」
レリーは手のひら、ジェノは拳を出している。
「じゃ、囮はレリーって事で」
「うう、やだなぁ」
全力で嫌さ加減を見せるレリーだったが、ジェノは全く取りあう気は無い。
「マリエラ、剣貸して」
そう言って自分のシミターを渡し、代わりにロングソードを受け取る。
「ウフフ、ジェノ様の刀……」
マリエラは小声で呟き、シミターに頬ずりせんばかりの勢いである。京平はその様子に気付いたが、さっと目を逸らした。聖の言っていた事が徐々に分かってきた気がする。
「これなら届きますかね」
ジェノはそんなマリエラの様子も気にすることなく、受け取った剣を確認する。
「マリエラのが一番長いから、それで無理なら無理」
そう言うレリーの剣は、確かにマリエラのより全体的に小振りだ。
「ですね。ま、無理だったらその時はその時って事で」
そう言って剣を構える。
「ヒジリ、君はマリエラとキョウヘイと協力して子供達を守って。キョウヘイ、君はあの触手が出る瞬間が分かるんだよね?」
「ええ、まあ、それなりには」
レリーに急に話を振られた京平は、慌てて答えた。
「うん、じゃ、それをマリエラとヒジリに教えたげて」
「は、はい」
「ヒジリ、私もジェノもそっち守る余裕はないと思うから、しっかりね」
「分かりました」
いつになく真剣な口調のレリーに、聖達は神妙に頷く。
「マリエラ、任せたよ」
ジェノの言葉は短いが、マリエラには十分だった。
「承知いたしましたわ、ジェノ様」
弾むような声で返事をすると、盾を京平に差し出した。
「何もなし、という訳にはいかないでしょう。これをお使いなさい」
「え、でも……」
戸惑う京平だったが、マリエラは構わず盾を押し付ける。
「せっかく見えるんですもの。あなたが持っていた方が役に立ちますでしょ。せいぜい頑張ってくださいな」
そう言うと手の中のシミターを、まるでジェノ本人かのように愛おし気にさする。
「それに、私にはジェノ様がついているんですもの。盾なんか必要ありませんわ」
盾を受け取った京平は、その様子を見ていた聖と顔を見合わせた。
「な」
「お、おう」
お互い、見てはいけない物を見てしまったと言った表情だ。




