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ダンス・ウィズ・ウーズ 1

「マリエラ、灯り!」


 その声に従い、マリエラが再度灯りを取り出す。まず照らし出されたのは、走って戻ってくるジェノの姿だ。そしてその後方には、鈍く銀色に光る巨大な四つ足の怪物が迫っていた。


「何、あれ」


 そう呟きながらジェノと合流すべく前へ出るレリー。その姿はいつの間にか黒のハーフプレートで覆われている。


「あ、宇宙刑事レリー」


 思わず呟く聖。


「?なんだそれ」


 聞き慣れたようで聞き慣れない言葉に反応する京平。


「銀、赤、青に続く第四の宇宙刑事、かな」

「ちょっと何言ってるか分かんねーよ」


 そんな二人の会話に構わずレリーはジェノと合流する。


「何、あれ?」

「はぁ?そんなの私が知る訳ないでしょ、ちょっとは自分で考えてみたらどうです」


 ジェノにそう言われたレリーは、怪物の様子に気を配りつつ、少し考え込む。


「分かんない」

「でしょうね。知らないものは、いくら考えたって分かりゃしませんよ」


 呆れたようなジェノの言葉に、少し拗ねた口調で抗議するレリー。


「ジェノが考えろって言った」

「言葉の綾ですよ、あーや。だいたい、私に考えろって言われて大人しく考えるタマじゃないでしょ」

「うん」


 打って変わってケロッとした口調で答えるレリー。


「で、何か考えてたんですか?」

「んー、あれ何なのかなって」

「やっぱり考えてるんじゃないですか……」

「別にジェノに言われたからじゃないし」


 二人は会話を続けながらも、ずっと怪物を観察し続けている。初めて見る怪物なら、その正体を見極めようとするのは当然の事だろう。


「いや、マジで何なんですかね」


 怪物は辺りの木を薙ぎ倒しながら目前まで迫って来ている。何より目を引くのはその体表だろう。鈍く銀色に輝く粘性を帯びた液体に覆われ、怪物が動く度に緩く波打つ。

 その銀色の液体は、重力に引かれ体表をドロドロとゆっくり流れ落ちている。その一部は地面へと滴り落ちていくが、すぐにスルスルと足元から吸い込まれるように消えていく。

 体のどこかからか湧き続けているのか、その体は常にドロドロしたままだ。一応、犬の頭のような部位もついているが、そこには感情を感じさせるパーツは何一つない。胴と同じく銀色の液体が常にその表面を流れ落ちているだけだ。

 そして後方には尻尾らしき物が長くのたうっている。


「ウーズかな?」

「……脚付いてるウーズ見た事あるんですか?」

「ないけど。新種かもしれないじゃん」

「……じゃあ、新種だったらレリー・ウーズって名付けましょう」


 ジェノの提案に、レリーは顔を顰める。


「絶対ヤダ。やっぱりあれはウーズじゃない」

「……まあ、そうでしょうね」

「うーん……じゃあ狼?」


 何気なく呟いたレリーの言葉に、今度はジェノが顔を顰めた。


「嫌なこと言いますね」

「んー、でも似てない?昔戦った魔狼に。大きさといい、形と言い」

「そうかも知れませんけど……だとしたら厄介ですね」


 怪物を見つめるジェノの表情が少し真剣みを帯びる。


「……前は勝てなかった訳ですから」


 その言葉からは悔恨の色が見てとれた。


「だね」


 レリーの言葉も苦い響きを帯びている。

 二人はかつて邪龍の手先たる魔狼と戦った時の事を思い出していた。その圧倒的な力の前に苦戦を強いられたレリー達だったが、最後は仲間の巫女がその身と共に異次元へ放逐する事で辛うじて危機を脱する事が出来たのだ。


「いや、でも、だとしたら変わりすぎじゃないですか?」


 少なくとも以前は一目で狼とわかる姿をしていた。その体を覆っていたのは鋼より硬い毛皮であり、訳の分からない銀の液体ではなかった。


「……うん。じゃ、気のせいか」


 レリーにしてみても確信があって言った訳ではない。違うと言われれば、そういう気もしてくる。


「ま、何にせよ、ぶっ殺せばいいんでしょ、ぶっ殺せば」


 雑に結論付けたジェノは、慣れた様子で黒い剣を手の中に生み出す。


「よし、任せた」


 あっさりとジェノに丸投げするレリー。


「まぁ、こういう場合は仕方ないですね」


 ジェノもまたあっさりとそれを受け入れる。

 アンと子供達、それに聖、京平と、五人も守る必要があるのだ。敵の強さが分からない以上、まずは五人を守る事を優先するという事で、二人の考えは一致していた。


「マリエラ、そっちは任せた」


 子供達の側にいたマリエラにそう声をかけたジェノは、怪物に斬りかかっていった。同時にマリエラがアン達を、レリーが聖達を庇うように展開する。ジェノは一太刀浴びせては離れ、また一太刀浴びせては飛び退って距離をとる。まるで剣舞のような流れる動きで怪物を切り裂いていく。だが……


「効いてないね」


 レリーが呟く。ジェノの剣は確実に怪物を切り裂いているが、すぐに銀色の液体が傷口に流れ込み、切ったそばから塞いでしまう。


「再生か?」


 斬りつけているジェノが首を傾げる。怪物はダメージを受ける度に再生しているように見えるが、斬っているジェノは傷を負わせた手応えを感じられずにいた。

 斬られた怪物は痛みを感じている様子もなく体に集る虫を払うかのように尻尾を振り回しているが、ジェノは軽々と避ける。


「とりあえず、もう少し斬ってみるか」


 手応えはないが、だからと言って何かいい案がある訳でもない。ジェノはもう暫く、怪物を斬り続ける事にした。

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