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理屈を捨てよ冒険に出よう 4

「ちっ」


 見かねたジェノが割って入ろうとするが、レリーがその腕を掴んで止めた。


「ちょ、主!何で止めるんですか」

「これはヒジリの戦い。ヒジリが自分で乗り越えないと意味ない」


 ジェノの抗議にキッパリと答えるレリー。


「そうかもしれませんけど。このままじゃ……」


 さらに何か言い募ろうとしたジェノを目で制すると、レリーはゆっくりと聖に近寄っていく。そんな聖に襲い掛からんとしていたアウルベアを軽く蹴り飛ばして、聖との間合いを取らせる。そして未だに朦朧としている聖を背後から優しく抱きかかえ、その腕に触れ耳元で語り掛ける。


「ヒジリ、君は幼馴染を助けたいんじゃなかったの?」


 その言葉で、ようやく現実に引き戻される聖。レリーの言う通り、高坂を救うために異世界へ転生し、そしてこの世界でようやくパラディンへの一歩を踏み出そうとしたところだ。


「君がこいつを殺せなければ、君が死ぬ。君が死ねば幼馴染も死ぬ。君の幼馴染の命は、この怪物よりも軽いの?」


 レリーの言葉が聖の心に突き刺さる。そう言えば神も言っていた。世界が変われば価値観も変わる、と。モンスターを倒すのは、自分達が蚊を殺すのと変わらないとも。

 だが、やはり現実を目の当たりにすると、どうしても自分の常識に囚われてしまう。


「覚悟を決めないとダメ、ヒジリ。誰かを守りたいのなら、その誰かの為に全てを捧げる覚悟を」


 レリーは最後に聖をギュッと抱きしめると、そこから離れた。


「もう少しだけ待ったげる」


 そう言ってジェノ達の元へ戻る。


「鬼ですね」


 呆れたようなジェノの言葉に迎えられた。


「そう?でも、ホントのことだし」


 事も無げに言うレリー。この一歩だけは自分で踏み出さないと意味がない。それは誰もが理解していた。だが、聖が一歩踏み出そうとしさえすれば、手を貸すことは出来る。そんな思いを抱えた三人は、固唾を飲んで聖を見守り続けていた。

 聖は一度大きく深呼吸し、高坂へと思いを馳せる。いつも苦しそうで、それでも自分達の前では笑顔でいようとしてくれていた。自分達に心配をかけないようにと、必死で。レリーの言う通りだ。そんな高坂の命が、こんな訳の分からない怪物の命より軽い訳がない。

 意を決して刀を構え直す。偶然とはいえ、さっきは斬ることが出来た。当てることさえ出来れば、何とかなる気がする。

 また爪が襲ってくる。盾で受けようとした聖の耳にマリエラの声が届いた。咄嗟にその言葉に従い盾の角度を変えると、爪はその表面を滑っていく。


「払って!」


 再びマリエラの声。盾で腕を払われる格好になったアウルベアは大きく態勢を崩してしまった。


「今!」


 三度のマリエラの指示で、聖が刀を振り下ろす。刃が背に喰い込むが、倒すには至らない。


「まだまだ、何度でも!」


 その言葉に従い、繰り返し刀を振り下ろす。腕を振り回し抵抗を続けていたアウルベアだったが、やがて小さな断末魔の唸りを上げて崩れ落ちた。

 肩で息をしながらその様子を見つめる聖。倒した実感はまだ湧いてこない。


「おー、マジで倒せるもんなんだな、やるな、お前」


 ジェノなりの誉め言葉なのだろう。


「お見事でしたわ」


 マリエラは普通に褒めてくれた。


「お疲れ。どうだった?」

「ちょっと、よく分かんないす」


 レリーの質問に正直に答える聖。


「そか。でも、よく頑張った」


 レリーからも褒められる。とりあえず、最初の一歩は踏み出せたようだ。


「ま、指示を出してたのはマリエラですけどね」

「剣と盾は任せてるからOK。私はちゃんと心意気を教えた」


 胸を張るレリー。ジェノは一つ肩を竦めると踵を返す。


「じゃ、先へ進みますか。さっさと見つけて帰りましょう」


 アウルベアの群れを退けてから一時間。ジェノを先頭に森を進んでいた一行は、廃墟と言っていい館を目に出来る所まで来ていた。

 かつて邪教徒がアジトにしていた館。レリー達が強襲して以降、放置されていたのだろう。荒れに荒れているのが、ジェノには分かった。


「ニワとやらがいるはずの場所だな」


 結局、子供達を見つける事が出来ないまま、目的地にたどり着いてしまったのだ。


「一緒にいてくださるといいのですけど」


 マリエラの言葉は希望的観測であったが、可能性がない訳ではない。子供達が森の奥へと迷っていたなら、この館に行き当たっている事もあるだろう。

 そんな一行の耳に、聞きなれた咆哮が聞こえてきた。


「アウルベア?」


 音の元は館の方だ。顔を見合わせた四人は慌てて走り出した。

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