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理屈を捨てよ冒険に出よう 1


「さ、そろそろ出発しよっか」


 レリーのその言葉を合図に、皆が動き出す。

 ジェノは足元に置いていた鞄から馬の形をした像を二つ取り出し、二言三言呟きながら地面に放り投げる。すると像はすぐさま大きくなり、そこには二頭の立派な馬が現れた。


「おお!」


 ゲームで知っているマジックアイテムを目の当たりにし、単純に興奮する聖。そんなにレアではないアイテムだった気がするが、実際に見るとやはりテンションが上がる。

 一頭にレリーが跨り、もう一頭にはマリエラが跨った。聖はレリーの手を借りながらその後ろに乗り、ジェノは軽々とマリエラの後ろに乗る。


「あれ?」


 物言いたげな聖の視線にジェノも気付いたようだが、珍しく何も言わない。代わりに吠えたのはマリエラだった。


「ダメよ!ジェノ様が後ろに乗って下さらないと、私がジェノ様を感じられませんわ!」

「えっ、でも、フルプレート……」


 プレートメイルのような鉄の板を挟んでしまってはジェノを感じるも感じないもない気がする。


「そう、そうなの。鎧を着なければジェノ様の全てを感じられる。でも、鎧を着るならジェノ様に着替えを手伝ってもらえるのよ!これはこれで捨てられない!そうでしょう?」


 同意を求められても聖には答えようがない。


「だから、馬に乗る時は、うなじにジェノ様の吐息を感じるだけで我慢する事にしてますの」


 まともでなさが漏れ出してきていた。


「変態みたいだからやめろ」


 みたいではなくそのものの気がするが、指摘すると二人から攻撃を受けるのは明白なので黙ってやり過ごす聖。

 しかし主従というならば、主人の手伝いをしなくもていいものなのだろうか、という疑問が浮かぶ。それに気付いたのか、レリーが自慢気に教えてくれた。


「私の鎧は着るのも脱ぐのも自動」

「自動?」

「そう、どっちも一瞬」


 そう言えば助けてもらった時も一瞬で鎧姿から普通の姿へ変わっていたな、と思い出す。確かに着脱が自動ならば従者に手伝ってもらう必要はないだろう。


「宇宙刑事みたいだなー」


 京平と見た懐かしの特撮番組を思い出す。確かコンマ何秒の世界で変身していた気がする。


「ウチュウケイジ?」


 当然伝わるはずもない。


「ええ、まあ。そういうヒーローがいたんですよ」

「ふーん」


 レリーは特にそれ以上の感想はなかったようだが、ジェノのツボには嵌ったらしい。


「じゃあ、主はウチュウケイジレリーって事ですね。ウチュウケイジレリー」


 響きが気に入ったようで、何度も繰り返す。試しに聖も口に出してみたが、意外としっくり来る。


「もう、ヒジリまで」


 少し拗ねた様子を見せるレリー。その姿は年相応にかわいらしく見える。と、同時にレリーとの距離の近さを聖に思い出させ、赤面させる。


「もう行く」


 話題を打ち切るようにそう言ったレリーは、馬を走らせ始める。その瞬間、聖の脳内に神の声が響き渡った。


「おめでとう!パーティーを組んで冒険に出よう。見事クリア!初めての冒険セットゲット!」


 忘れた頃の神の声。不意打ち気味に聞こえてきたその声に、思わず聖は驚きの声を上げていた。

 耳元で大声を上げられたレリーも、びっくりして馬を止めてしまう。まさに馬を走らせようとしていたマリエラ達は、ポカンとした表情で聖達を見ている。


「どしたの、急に」

「あ、すいません。クエストクリアしたみたいで、神様からその連絡が……」


 聖が何気なく発したクエスト、という言葉に、レリー達がざわつく。


「えっ?お前クエスト持ちなの?神の?」


 ジェノですら聖に興味を持ったらしい。


「え?ええ、まあ、そうですけど……」


 何故レリー達がクエストという言葉に反応しているのか、聖は理解しかねていた。クエストなんてものは転生する度に発生する、神の言うところのちょっとしたお楽しみだ。殊更騒ぐことではない。さっきにしてみても、聖にしてみれば何度目かのクエストクリアであり、声を上げたのも単純にいきなりの神の大声に驚いたからに過ぎなかった。


「凄いね、さすが私の弟子」


 レリーも感心したように頷いているが、レリーの弟子である事が関係ないのは確かだ。


「そんなに凄い事なんですか?」

「当り前ですわ。そもそも神の声なんて、敬虔な信者の方でも簡単には聞けませんわよ」


 あの神に敬虔な信者なんているのだろうか。寧ろいないからこそ、向こうから押し売りのようにやってきている気がしないでもない。


「で、どんなクエストなんだ?」


 ジェノが訊いてくるが、答えるべきかどうか悩む。何せクエストの内容が内容である。彼女達が思っているクエストではないのは間違いない。だからと言って彼女達相手、特にジェノを相手にして隠し通せるかというと、否だ。


「えっと、三つほどあるんですけど……」

「うんうん、それで」


 レリーも興味津々のようだ。


「えっと、今クリアしたのが、パーティーを組んで冒険に出よう、で。残ってるのが、誰かの依頼を達成してみよう、と戦闘を経験してみよう、です……」


 レリー達の表情が唖然としたものに変わっていくにつれ、聖の声も消え入りそうな程小さくなっていく。それはそうだろう。彼女達にとってみれば日常レベルの事がクエストと言われれば、呆れるのも無理はない。


「何か、転生先を満喫出来るように設定されてる、らしい、です」


 納得してもらえるかどうか分からないが、一応神から聞いた趣旨を伝えてみる。


「はー、なるほどねぇ」


 ジェノは頷くとマリエラに馬を出すよう促した。それに合わせるようにレリーも馬を出す。


「冒険、依頼、戦闘。まあ、確かにここらしいと言えばらしいけど」


 ジェノの言葉にレリー達も頷く。どうやら納得してもらえたらしい。


「ジェノ様達のクエストとは大違いですわね」


 マリエラはおかしそうに言うが、レリーとジェノはうんざりした表情を見せた。


「邪龍を倒せか、邪教徒を殲滅しろの二択だからな。たまには冒険に出ようとか平和なクエスト来ねーかな」


 冒険に出るを平和と言う程、普段のクエストは危険に満ち溢れているのだろう。だが、ジェノの口調は危険を厭うというよりかは、ただ面倒くさがってるようにしか聞こえない。


「レリーさん達もクエストあるんですね」

「たまにね。私達、龍の巫女だから」

「龍の巫女?」


 なかなか厨二心をくすぐる響きである。


「そう。善なる龍神の巫女として邪龍を滅ぼす為に戦ってる」

「あ、さっきの」


 背後を振り返る。遠目にだが、入口の龍の像をまだ見る事が出来た。


「そういう事」


 この世界でクエストを与えられるという事は凄い事なのだろう。そしてレリー達はそのクエストを与えられる存在だという。ならば、やはりこの世界でレリーに会うことが出来たのは、聖にとって幸運だったと言える。そして、師と仰ぐことが出来た事も。


「さ、無駄話が過ぎたな。急ごう」


 ジェノの言葉に皆が頷く。レリーが、マリエラが、馬のスピードを上げていく。

 四人を乗せた二頭の馬は、目的地の森へと疾風のように駆けていった。


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