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君を僕が見つけた日 8

「この辺り、深い森になってますね」


 マリエラが横のテーブルに地図を広げ、印を付けた場所を指さす。確かに印は樹々が描かれている一画に付けられていた。


「というか、ここ、アジトだった館ズバリじゃないです?」


 ジェノがレリーに訊く。

 当時連中がアジトとしていた館は、森に囲まれ背後に高い山を抱く位置に建っていた。マリエラが指す印も、地図上ではそれらしく見える所にある。


「そうだっけ?」


 レリーは覚えていないらしい。


「行ったら分かる」


 思い出す気もないようだ。


「そう言えば、最近、この辺りでアウルベアを見たと言う噂を聞きました。館にいるなら大丈夫かもしれませんが、少し心配ですね」


 マリエラがさらっと物騒な事を言う。


「レリーさん!」


 慌てた様子を見せる聖に、レリーは大丈夫だという風に頷いて見せる。


「じゃ、そういう事で、気を付けて行ってきてくださいね」


 そんな二人を見ていたジェノはそう言って立ち上がり、そそくさと部屋を出ていこうとする。だが、レリーはその腕をさっと掴んだ。


「さっき言ったよね。手伝ってって」

「だからこうして魔法でお手伝いしたじゃないですか。ね?」

「ダメ。一緒に行くの」

「いやいや、アウルベアなら何頭いたって主一人で十分じゃないですか。何も私までそんな遠くまで行かなくても……」


 無駄な足掻きと分かっていつつも抵抗を試みるジェノ。


「ザナエ村なら馬で行けばすぐですよ。今から出れば夜には着きます」


 マリエラが冷静に告げる。


「あ、マリエラ、てめぇ!」


 思わぬレリーへの援護射撃に狼狽えるジェノ。そんなジェノにニッコリと笑顔を見せたマリエラは、レリーに対して優雅に頭を下げる。


「私もご一緒して宜しいでしょうか?ジェノ様は私が責任をもってお連れしますので」


 そのマリエラの要望に、レリーは無言で、しかし力強く親指を立てて応える。


「では、準備いたしましょうか、ジェノ様」


 マリエラは嬉しそうにそう言ってジェノの手をそっと握る。ジェノはその笑顔を恨みがましい表情で見る。


「……マリエラ。お前、その笑顔なら何でも許されると思ってるだろ」

「はい」


 即答するマリエラを見て、ジェノは諦めたように肩を落とした。


「分かった分かった。行くよ、行きますよ。あー、もう、ザナエか。めんどくせーな」


 当て付けるように大袈裟に嘆いて見せるが、マリエラは笑顔を崩さない。


「さ、参りましょう」


 マリエラがジェノを促して部屋を出ようとしたその時、一人の女性が乱暴に扉を開けて入ってきた。


「今、ザナエって言ってなかったっすか?」


 金髪を肩で揺らし、部屋を見渡しながらそう言った。そこにレリーやジェノの姿を認め、軽く頭を下げる。


「言ってましたけど。どうしたんですか、ティファナ」

「行くんすか?」


 マリエラの質問に、食い気味に質問で返すティファナ。


「ええ。今から」


 マリエラの答えにティファナはホッとした表情を見せた。


「なら、この子の頼み、聞いてやってくれないっすか」


 そう言うティファナに促され部屋に入って来たのは、一人の少年だった。


「そいつは?」


 ジェノにしてみれば普通に聞いたつもりだったのだが、それでも少年にその口調は怖く聞こえたのだろう。ビクッと体を震わせるとジェノから隠れるよう、ティファナの陰に身を寄せた。その様子に、流石のジェノも少しばかりショックを受ける。


「ザナエの外れにある孤児院の子っす」


 確かに身形はみすぼらしい。服も継ぎ接ぎだらけだ。だが、その一つ一つは丁寧にかがられており、大事にされているであろうことは見て取れる。


「何でも森に遊びに行った友達が帰ってこないとかで。ついでに言うと探しに行ったシスターも帰ってきてないらしいっす」


 ティファナはしゃがみ込むと大丈夫だという風に少年の頭を撫でてやる。言葉遣いは少々乱暴だが、ジェノとは違い子供の扱いを心得ているようだ。


「それはいつ?」


 マリエラも少年の前にしゃがみ込み、優しい笑顔を浮かべて問いかける。


「……一昨日」


 その答えにレリー達が顔を見合わせる。子供はともかく大人が一日以上帰って来れていないのは、何らかのトラブルに巻き込まれてた可能性が高いだろう。猶予はあまりないかもしれない。


「……ったく、なんでこんな時に森に行くかね」


 ジェノにしてみれば普段の調子でぼやいただけだったのだが、少年は怒られたと思ったのだろう。泣き出してしまった。


「せん、先生が、病気で……森に、良く、効く、薬草が……あるって、前に、先生が話してたから。だから、シャルとレンが探しに行くって……」


 泣きながらも必死で答える少年。


「ジェノ」

「いや、別にそんなつもりじゃ……悪い」


 レリーに窘められたジェノは、ばつが悪そうに少年に頭を下げる。


「森も……前に、せい、聖騎士様が、悪い人を退治してくれたから、たまになら、行って、いいって、なってたから、だから、こんな事になるって思わなくて……」


 レリーとジェノが顔を見合わせる。少年の言う聖騎士とはレリー達の事だろう。邪教徒を殲滅する道中、森に潜むモンスターも退治したような気がする。

 だが、それから数年で森はまた危険な場所になったらしい。


「恒久的な安全は難しいね」


 レリーが呟く。どれだけ危険の芽を潰しても、次から次へと涌いてくるのが現実だ。


「それで、ギルドの冒険者に助けを求めに来たみたいなんすけど、ほら、子供っすから」


 ティファナは少年を安心させるように優しく抱きしめる。


「誰も請けないね」


 レリーが事も無げに言った言葉は、聖には衝撃的だった。だが、考えてみれば当然の事なのだろう。ゲームの世界なら感情で動いても何のリスクもない。

 しかし、現実は違う。そこには間違いなく命の危険が存在する。それはマンティコアと対峙した事でよく分かっていた。


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