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君を僕が見つけた日 7

 二人が向かったのは礼拝堂への入口近くの部屋だった。レリーは食堂と言っていたがさほど広くなく、四人掛けのテーブルが二つ並んでいるだけだ。奥には申し訳程度の調理台と竈が見える。


「好きな所に座って」


 レリーはそう言うと調理台の方へと歩いていく。聖は手近な椅子に座り、その様子を眺めていた。


「お腹空いてる?」


 この世界に転生してから何も口にしていないが、高揚しているからか空腹は感じない。


「あ、大丈夫です」


 調理台を何やら漁っていたレリーは、聖の答えに顔を上げた。


「ダメ。体調管理も大事」


 レリーがいい事言ったみたいな感じのドヤ顔を見せてくるので、聖は大人しく従う事にする。


「あ、じゃあ、何かお願いします」

「うん」


 暫く調理台の辺りをゴソゴソしていたレリーだったが、やがて手ぶらで聖の元へ戻ってきた。


「何もなかった」


 そう言いながら聖の前の席に腰かける。


「まあ、誰もここで食べないし」

「そうなんですか?」

「うん。料理するのが面倒だから外で食べる」


 それなら探すまでもなく無くて当然と思う聖だったが、口に出すのは思いとどまった。


「マリエラはたまにジェノの為に料理してるみたいだけど」


 聖から見ても調理器具すら満足に揃ってなさそうに見える有様で、マリエラという人はどうやっているのだろうと疑問に思う。家庭科程度の知識しか持ち合わせていない聖には想像もつかない。

 そんな他愛もない会話をしていると、準備を済ませたらしいジェノが入ってきた。

 背中の大きく開いたホルターネックのブラウスに、深いスリットの入ったスカートという大人の色気を感じさせるその姿は、下着姿とはまた違う魅力がある。

 二人の様子を一瞥したジェノは、聖達が囲むテーブルに持ってきた大きな金属製の盆を乱暴に置く。高そうな盆だが、いつも雑に扱われているのか、よく見ると傷やへこみが無数にあった。

 ジェノは二人の間の席に陣取ると、テーブルに頬杖をついて聖に視線を向けた。その切れ長の目でジッと見つめられた聖は、思わずドギマギしてしまう。

 それを見たジェノはおかしそうに笑いだした。


「お前、あれだな。童貞だな」

「!ちちちちがうし」


 分かりやすく動揺する聖。


「ハハハ。そうかそうか。いやぁ、やっぱり主の嗅覚は凄いな」


 ジェノは爆笑している。


「別にそんなつもりじゃなかったんだけど」


 そう答えたレリーも小さく笑っている。


「何もそんなに笑う事はないでしょう」


 聖はしどろもどろになりながら抗議をするが、二人の女性は笑い続けている。


「初めての相手が主なんて言う事ないだろ。遠慮すんなって」

「いや、別に遠慮してるわけでは……」


 聖の抗議の声は二人の耳には届いていないようだ。


「まあでも、あれか。初めてで主を経験してしまうと今後困るもんな。普通じゃ満足できない体になる」

「別に普通だし」

「いやいやどの口が言ってるんです?これまでどれだけの純粋無垢な青少年を骨抜きにしてきたことか」


 おどけて見せるジェノ。自分も骨抜きにされたかったと、またもや後悔の念に襲われる聖。


「はいはい。お二人とも。その純粋無垢な青少年をからかうのはそれくらいにしてあげてください。まったく、笑い声が廊下にまで聞こえてますよ」


 そう言って二人を窘めながら入って来たのは紅い髪の女性だった。手には大きな水瓶を持っている。ただ残念な事に、彼女は長袖長ズボンという露出が殆どない格好だ。


「サンキュー、マリエラ」


 ジェノの言葉に応えるように、マリエラと呼ばれた女性は手にした水瓶から盆に丁寧に水を注いでいく。やがて盆が一杯になると、水瓶を抱えてジェノの後ろに控えた。


「で、探すのはどんな奴?」

「えっ?」


 急に真面目な調子に切り替わったジェノの変わりようについていけず、間の抜けた返事をする聖。


「だから、お前の友達ってどんな奴かって聞いてんの」

「どんな奴って……」


 何を答えていいか分からず、さっと答えを返せない聖に対し、目に見えてイライラしてくるジェノ。


「そいつの特徴だよ特徴。何かあるだろ」

「落ち着いて、ジェノ」

「ジェノ様、イライラしすぎですよ」


 レリーとマリエラ、二人から同時に諭される。それに対し不満気に舌打ちしたジェノだったが、仕方なく質問の仕方を変えた。


「そいつの名前」

「あ、京平です。丹羽京平」

「ニワ・キョウヘイ?聞かない響きだな。どこから来た?」


 聖の名前を聞いたレリーと同じような反応をするジェノ。この世界には和風な国は存在しないのかもしれない。


「あ、えっと……」


 聖が横目でレリーを確認すると小さく頷くのが見えた。


「異世界です」

「ん?」

「異世界から転生してきました」


 キレられるのを覚悟で本当の事を答えた聖だったが、レリーと同じくジェノもまたあっさりとその答えを受け入れた。


「異世界から転生してきた、ニワ・キョウヘイ、ね」


 早々に質問を打ち切り、両手を盆の上に翳す。


「見つかりそう?」


 レリーの問いに軽く答えるジェノ。


「まあ、異世界から転生してきたって奴がゴロゴロいればそいつらが引っかかるかもしれませんが、大丈夫でしょ。ニワ・キョウヘイって名前も分かってますし」


 そう言うと何か聖の理解できない言葉を呟く。

 おそらくこれが魔法なのだろう。レリーが馬を呼び出した時も聖に理解できない言葉を呟いていた。魔法という存在に触れた事のない聖には、その為の呪文の詠唱らしきものも理解できないようだ。

 静かな水面が少し震え、何かが浮かび上がるように映し出されてくる。


「地図?」


 覗き込むようにして水面を見ているレリーの問いに、ジェノが頷く。


「即物的」


 そのレリーのボソッと言った一言にジェノが敏感に反応する。


「何ですか?イメージ映像的な方が良かったですか?ボヤっとどこかそれらしい画を前に、それがどこか侃々諤々やりたかったですか?いいでしょ、地図で。一発でどこか分かるんですから」


 その剣幕にレリーも少し引き気味だ。


「別にそこまで言ってないし」

「魔法なんですから、便利に使いましょうよ、全く……」


 尚もぶつぶつ言いながらジェノは水面へと視線を戻す。浮かび上がりかけてた画は、綺麗さっぱり消えてなくなっていた。


「集中切るほど腹を立てる事ですか?」


 マリエラが呆れたように言うのを一睨みしたジェノは、再度水面に両手を翳し何か呟いた。

 先ほどと同じように水面に地図が浮かび上がってくる。そのままジェノが手を翳し続けていると、地図に文字のような物が描かれた。


「ニ……ワ……ニワね……」


 レリーが読み上げるが聖には読めない。やはり会話による意思疎通は可能だが、読み書きは不可能のようだ。


「ここは……北のザナエ村の辺りでしょうか?文字の位置にニワさんがいるのだとすると、村からはだいぶ離れていますね」


 水面の地図を読み解いたマリエラは、水瓶を置くと懐から紙の地図を取り出し、二つを照合し始める。


「ザナエ村?」


 その村の名前に何か引っかかるものを覚えたレリー。ジェノもまた同じようで、暫く二人して思案顔で見つめあっていたが、同時に声を上げた。


「邪教徒のアジト!」


 以前この村の近くに巣食っていた邪龍を信奉する邪教徒を殲滅した事があったのだ。


「あれ、いつだっけ?」

「二、三年前じゃなかったでしたっけ?潰しても潰しても涌いてくる連中ですからね。いつ殺ったかなんて覚えてられませんよ」


 ジェノは投げやりに言うと、マリエラが手元の地図に印を付けた事を確認し、魔法を解く。

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