君を僕が見つけた日 6
さらに教会の奥へと歩いていったレリーは、廊下の突き当りにある扉の前で足を止め、その扉をノックした。
暫くすると扉が開き、一人の女性が顔をのぞかせた。寝起きなのか、黒いミディアムヘアをかきあげながら二人に目を向けたその表情は不機嫌そうだ。
「あれ?主じゃないですか。どうしたんですか、こんな時間に」
「まだ昼だから。普通の人間は活動している時間」
「……そうかもしれませんけど。主も知ってるでしょ。私が日の光が好きじゃない事」
そう言いながらも、女性は部屋から出てきた。
「!」
成り行きを見守っていた聖だったが、女性が姿を現した途端、その目が釘付けになった。
年は自分より少し上だろうか。あどけなさが残るレリーとは違い、どこかアダルトな魅力を持った女性が下着姿で現れたのだ。平常心でいられる訳が無い。
だが女性の方はというと、聖に見られている事を気にする素振りすら見せなかった。
「誰です、そいつ。主の客ですか?」
自分を見つめてくる聖にチラッとだけ目をやった女性が尋ねる。尋ねてはいるものの、その口調から聖に対する興味は感じられない。
「ううん、ヤッてないよ」
レリーの答えに少し驚いた表情を見せた女性は、今度は興味深げに聖に目をやる。上から下までその姿を見る女性の無遠慮な視線は、やがて憐みの視線へと変化していった。
「せっかく主が相手なのに勃たないのか。可哀そうに」
「何でそうなるんですか!」
聖が抗議するが、その視線は胸の辺りから離れない。
「違うのか?じゃあ、あれか。主だから勃たないのか」
そう言ってレリーの方へと目をやった女性の視線は、その小振りな胸へと向けられている。
「せめてもう少し成長してからでも良かったんじゃないですか?」
「十七歳と言うのが大事」
レリーは自慢げな表情でその胸を張る。
十七にしても華奢だったよなと、先の光景を思い出す聖。返す返すも息子の失態が痛い。
「そういうジェノだって言うほど大きくない」
「分かってませんね、主。胸なんてものは人並みでちょうどいいんですよ。大きすぎず小さすぎず、普通が一番。これくらいあれば十分なんですよ」
反撃に出たレリーだったが、軽くいなされ少し悔しそうな表情を見せる。
それにしても、このジェノと呼ばれた女性、レリーの事を主と呼ぶ割に口調はぞんざいだ。二人の関係性も気になる聖だったが、ジェノへの興味も隠し切れない。
「で、マジでこいつ誰なんです?」
「んー、私の弟子」
「は?」
「弟子」
「でしぃ?何の?」
ジェノからの視線を痛い程感じる聖。
「パラディン」
レリーの答えを聞いたジェノは、呆れたように大きなため息をついた。
「師匠は選べよ、いろんな意味で」
「どういう意味?」
口を尖らせて抗議するレリー。
「で、その弟子と何するんです?」
その抗議を軽く無視するジェノ。
「あ、そだった。今からヒジリの友達を探しに行くから手伝って」
「こいつの友達ですか?なんでまた」
「んー、パラディンの修行を兼ねて、かな」
その答えを聞いたジェノは、やれやれといった風に頭を振った。
「な、悪いことは言わないから今からでも考え直せ。まともな師匠は他にいくらでもいるさ」
そう言いながら聖の肩を馴れ馴れしく叩く。
「いや、でも、レリーさんがいいんです」
きっぱりと言い切る聖。レリーとの出会いは偶然だったが、運命的なものと感じない訳でもなかった。
「ま、別に好きにすればいいんだけどさ」
ジェノにしても、真剣に説得するつもりは元々なかったらしい。さっさとレリーに向き直る。
「で、私は何をすればいいんです?」
「魔法で友達の居場所探して」
レリーの要求を、ジェノは鼻で笑い飛ばそうとする。
「ハハ。私がそんな便利な呪文、使えるとでも?」
「この前、邪教の教祖探した時……」
レリーにジトっとした視線を向けられ、慌てて目を逸らすジェノ。
「地道に探すのめんどくさいって言って、呪文覚えてたの知ってる」
そう断言されて心底嫌そうな表情を見せたジェノだったが、やがて観念したように大きなため息を吐いた。
「……分かりました。やりますよ、やればいいんでしょ。マリエラ、手伝って!」
ジェノが部屋の奥へ声をかけると、それに応えるかのように誰かが動く気配がした。
「よろしく。じゃ、食堂で待ってる」
笑顔のレリーにすっかり観念したジェノは素直に応じた。
「はいはい。準備したら行きますよ」
そう言って部屋に戻って行く。
「行こっか」
ジェノを見送ったレリーは、ずっとジェノを見続けていた聖を促して歩き出す。
「あ、はい」
名残惜し気にジェノの後姿を見つめていた聖だったが、その声に慌てて後ろをついていく。




