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君を僕が見つけた日 4

 そうこうしながら十分程馬を走らせていると、やがて遠目に見えていた石壁が目前に迫ってきた。

 高さは十メートルはあるだろう。左右に目をやると、街を囲うように建てられているのか、遠くまで続いているのが分かる。

 道の先にはさほど大きくない門があり、開け放たれた扉の横には見張りらしき兵士が立っているのが見える。

 レリーが門へと馬を進めると、その姿に気が付いた兵士が二人に目を向けた。


「よう、レリー。早かったな」


 顔見知りなのだろう。気さくに声をかけてくる。


「マンティコアが一頭だったから」


 レリーの答えは素っ気ない。だが、兵士もそんなレリーに慣れているのか気にする素振りもない。


「で、後ろのそいつは?」


 聖を顎で指す。


「旅の人。ケガしてるから連れてきた」

「そうか。羨ましいな、おい」


 何やら羨ましがられたようだが、何の事だかさっぱり分からない聖は、曖昧な笑顔を浮かべるしか出来ない。

 レリーはそのまま門を通り過ぎる。聖もそれ以上何か言われることもなく、門を通過出来た。


 門の内側は住宅地なのか、平屋の建物が立ち並んでいた。子供達が遊んでいたり立ち話している主婦がいたりと、それなりに人の姿もあるが、どちらかと言えば寂しい感じだ。


「この辺は日当たり悪いから」


 そんな聖の思いに気付いた訳でもないだろうが、レリーが説明してくれる。

 確かに日の光は石壁に遮られてしまっいて薄暗い。住人の身なりも、先ほどの親子に比べると質素に思える。スラムという程荒んでいるようには感じないが、裕福ではない人達が住む区画なのだろう。


「向こうの方が賑やか」


 そう言って街の中心部らしき方を指し示す。確かにここより立派な建物が明るく輝いているのが見える。

 だが、レリーはそんな中心部へと馬を向けることなく壁沿いの道を進んでいく。その先にはこの辺りには似つかわしくない、立派な建物が見えてきていた。尖塔のある三角屋根の建物。


「教会ですか?」

「うん」


 近づくと徐々にその全貌が分かってきた。入り口にはドラゴンらしき姿を象った像が鎮座しており、訪問者を歓迎している。

 建物に嵌め込まれているステンドグラスもドラゴンをモチーフとしているようだ。


「ドラゴン、ですか?」

「そう。善なる龍神の教会」


 レリーは教会の前で馬を止め、ひらりとその背から降りる。慌ててついていこうとした聖は、バランスを崩しそのまま落下する。


「ああ、ごめん。動けないの忘れてた」


 レリーはそう言いながら、背中をしたたかに打ちつけ呻いている聖に手を貸して立ち上がらせる。あまり悪いとは思っていなさそうだ。


「どうぞ、入って」


 そう言って先に教会へと入っていく。聖も体を引きずるようにして後を追う。

 そこは礼拝堂らしく、長椅子が並び、奥には祭壇が見える。そこにもやはり龍の像が祀られていた。

 壁には幾つものステンドグラスが飾られているが、日が差していない為かどこか寂しい感じがする。

 レリーはどんどん先へ進む。礼拝堂から奥へ続く扉を抜けると、そこは居住区らしく、いくつかの扉が並んでいた。そのうちの一つへ聖を案内する。

 清潔そうなベッドの他には、机と椅子が一脚ずつ。後は部屋の隅に小さな物入があるだけの質素な部屋だ。


「適当に座ってて。水浴びだけしてくる」


 聖を部屋に通したレリーは、そう言って部屋から出て行った。

 聖はしばし部屋を見回した後、椅子に腰かけた。部屋を汚すのは気が引けたが、体力は限界に近い。


「それにしても、水浴びってなんなんだろう……」


 何となく雰囲気に流されてここまでついてきたが、レリーの真意がどこにあるのかさっぱり分からない。悪意は感じないが、どこかむず痒い。


「あれかな、身を清める的な何かかな」


 状況が把握出来ないまま下手に動くよりかは、流れに身を任す方がいい。

 何故なら、郷に入れば郷に従え、と言うから。とりあえず流されてる俺は正しい。

 そうやって自分を無理やり納得させる聖。後は流れが激流でない事を祈るだけだ。

 そんな事を考えながら京平の現状へと思いを馳せる。アベックガチャである以上、京平も同じ世界に来ているはずである。

 ようやく引き当てた念願のファンタジー世界で、京平はどう行動しているのか。要領のいい京平の事だ。もっと上手くこの世界に溶け込めているかもしれない。

 そんなとりとめのない事を考えていると、やがてレリーが戻ってきた。水浴びを終えてきたらしくタオル一枚巻いただけの格好だ。


「!?えっ?えっ?ちょ、レリーさん!?」


 直視したらまずいと咄嗟に目を逸らそうとするが、焦りのあまりバランスを崩し椅子ごと倒れてしまう。


「どしたの?」


 呆れたようにそう言ったレリーは、ベッドの端に腰かけると、横のスペースをポンポンと誘うように叩いた。


「おいで」


 そう言われても、はいそうですか、と行けるものではない。聖はレリーが視界に入らないようにしながら体を起こす。


「なんでそんな格好してるんですか!?」


 自分を見ないよう部屋の隅を見つめながら話す聖を、レリーは不思議そうに見つめている。


「治療してくれるっていう話じゃ……」

「うん。治療するよ」

「じゃあ、なんでそんな恰好なんですか?」

「ん?違う恰好の方が良かった?」

「いや、違う格好というか、普通に服を着るんじゃダメなんですか?」

「普通?なるほど、そういうのが好み?」


 どうにも話が噛み合わない。


「……そもそも、服って関係あるんですか?」

「人によるかな」

「?人による?」

「だいたいの人は気にしないけど、たまに君みたいにこだわる人はいる」

「えっ?別にこだわってる訳じゃ……」

「そう?じゃあ、このままでいいよね?早速、ヤろうか」


 レリーはそう言って立ち上がると、聖へと近寄っていく。


「やろうって、何を……」


 なるほど、門番が羨ましがったのも合点がいく。どういう状況か理解した聖だったが、何故そうなっているのかは理解できないだけに、まだ流れに乗る勇気は出ない。

 何とかレリーから距離を取ろうとする聖だったが、すぐに部屋の隅に追い詰められてしまう。


「男と女が寝室でやる事と言ったら一つ」

「治療、治療なんですよね?なんでそういう事になるんですか!」


 聖の背後にレリーが迫る。


「大変な目に逢ったんだ。心身ともに治療が必要」

「心……身……?」

「私の慈愛で身も心も癒されるといいよ」


 レリーの手が聖に触れようとする。聖は決死の覚悟で振り返ると、その手を掴んだ。


「どしたの。急に積極的だね」


 そんなからかい気味のレリーの言葉には耳を貸さず、彼女の頭の先から足の先までしっかり目に焼き付けていく。


「一番長いコースでお願いします」


 治療なら仕方がない。レリーの言う通り、自分は心身共に酷く傷ついたのだ。彼女の慈愛に癒されて何の問題があろうか。

 悪いな、京平。俺は、今日、大人の階段を一足飛びに登っちまうよ。


「いいよ。身も心もしっかり癒えるまで、シ・テ・ア・ゲ・ル」


 レリーの吐息が耳にかかるほど、顔が近づく。聖の興奮は最高潮に達する、はずだったのだが……


「あ、あれ?そんなっ……」


 大事な部分が全く反応していない。


「愚息、愚息よ頑張れ。ここで頑張らなかったら名実ともに愚息だぞっ」


 聖はレリーの白い肌を凝視し、何とか奮い立たせようとする。だが……


「ああ……愚かすぎるだろ……我が息子よ……」

「そか。勃たないのか。若いのに。もったいないなー」


 レリーはそう言うと、そっと聖の手を外す。


「いや、ホントはやればできる子なんです!ただ、ほら、ちょっと純真で繊細だから、環境の変化とかに……」


 がっくりとうなだれる聖。

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