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カレーなる冷やし中華 1

 翌日。

 聖達がいつも通り京平の家にやって来た。

 昨日の出来事があっただけに、流石の聖もハイテンションという訳ではなかったが、三人共モチベーションは失っていない。

 これもありがたい御言葉のお陰かと思わなくもない三人だったが、勿論誰も口にはしない。

 とりあえず、昨日と同様ジャンケンで組分けを決める。


「むー」


 綺麗に三つに分かれた手に、残念がる穂波。誰のせいとは言わないが、運気が下がっているような気がしてならない。


「はい、では、行っちゃいましょうか。レッツ、異世界ガチャ」


 日に日に適当になる神のコールを背に異世界へと転生する三人。


 そんな三人が一様に憮然とした表情で還ってきたのは、きっちり十時間後だった。

 無言で顔を見合わせ、その表情から全員の爆死を悟る。誰からともなくため息をつくと、崩れるようにその場にへたり込んだ。


「どうしたんですか、皆さん。せっかくなんですから、お互い行ってきた世界の感想戦とかしましょうよ」


 能天気に言う神に対し、京平と聖は無視を決め込んだのだが、穂波は噛みついた。


「あんたさあ、私達がどんな世界へ行ったか分かってるんでしょ?」

「それはもう、転生の神ですから、勿論ですよ」


 胸を張る神を冷たい目で見据える穂波。


「じゃあさ、感想言い合う気にもならないって事くらい分からない?」

「どうしてです?情報交換は大事ですよ?」


 どこまで本気か分からない神の態度に、これ以上言っても無駄だと悟る穂波。大きなため息と共に床に身を投げ出す。


「私、次生まれ変わっても日本人よ、きっと」

「またか」

「うん、また」


 京平の問いに、穂波は心底ウンザリした感じで答えた。


「ゼロ系乗ってカレー食べてきた」

「今度は高度成長期か」

「多分ね。クエストで三種の神器手に入れたもん」

「マジで?いいな、それ」


 羨ましそうに口を挟んできた聖を、後の二人が不思議そうに見つめる。


「えっ?三種の神器って、草薙の剣、八咫鏡、八尺瓊勾玉だろ?」


 何故そんな目で見つめられているかピンとこない聖は、逆に不思議そうに二人を見る。


「お前、話聞いてたか?」

「白黒テレビに洗濯機に冷蔵庫。要は高度成長期の三種の神器よ……多分……」


 呆れた様子の京平の言葉に、うんうんと頷き言葉を続けていた穂波だったが、何かに思い当たったのか急に自信無さげになる。


「多分?」


 その自信の無さを京平に聞きとがめられた穂波は、異世界での出来事を思い出しながら言葉を続けた。


「確かにそう言われてみると、手に入れたのは三種の神器なのよね。新幹線の食堂車で食事しろとか、街頭でプロレス中継を見ろとか、それっぽいクエストだったから、てっきり高度成長期の三種の神器だと思い込んじゃったけど……」

「てことは、ワンチャン本物の可能性あるんじゃね?」


 聖はそう言うが、穂波達は首をひねる。


「じゃあ、いっそのこと出してみるか」

「やめときさなさいよ。例え本物が出てきたとしてもどうしようもないし、家電が出てきた日には邪魔になって目も当てられないわよ、京平が」

「……確かに」


 三人は部屋に鎮座する社に目をやる。ログボの為とは言え、京平は既に大きな犠牲を払っているのだ。追い討ちになるようなことは避けたい。


「てかさ、私、四回転生して四回とも日本なんだけど。それも全部近代。これ、提供割合どうなってるのよ」

「穂波さん、穂波さん」


 神はボヤく穂波に寄っていくと、こっそりと耳打ちした。


「日本日本て仰ってますけど、全部異世界ですから。日本ではありませんよ」

「……で?」

「いや、ちゃんと転生してるんですよ、という事をアピールしておこうかと。わたくし、転生の神ですし」

「異世界だろうが何だろうが、日本にしか見えなかったら、そこはもう日本でしょうが」


 一応反論はする穂波だったが、面倒なのかいつもの勢いはない。


「であれば、せめて日本風と言っていただかないと」

「はいはい、分かった分かった。日本風日本風。で、その日本風の世界はどれだけあるのよ」

「それはもう……」

「秘密だって言うんでしょ。分かってるわよ」


 台詞を取られ呆然とする神を尻目に、穂波は穂波で足をバタバタさせて床をのたうち回る。


「ねー、誰かもっと酷い爆死の話を聞かせて、私を慰めて」


 滅茶苦茶な事を言い出す穂波だったが、じゃあと聖が話し始める。


「俺の行ったところは、動物が三頭身くらいで二足歩行してる世界だったんだけど」

「……異世界感爆発してるじゃない。失格」

「いや、せめてもうちょっと聞こうぜ」


 羨ましさを隠そうともせず話を打ち切らせようとした穂波を、京平が苦笑いしながら止める。


「そんな動物のお願いを聞いたりしながら、ちょこっと農作業をしたりするスローライフな世界だった」


 あっさりと話を纏めてしまう聖。言葉通りスローなライフを送ってきたのだろう。


「良かったわね。一つ望みが叶ったじゃん」

「えっ?」


 穂波の冷たい言葉に、聖がキョトンとする。


「ケモ耳よ、ケモ耳。見たかったんでしょ。やっぱり失格よ」


 京平もその言葉に同意するかのように頷いている。


「いやいや、あれはケモ耳なんてもんじゃねーよ。獣だよ獣。ちょっと、想像してみ。色んな動物が人間サイズの三頭身でウロウロしてるんだぜ。正直怖ーよ」

「はぁ?獣の耳なんだからケモ耳でしょ」

「じゃあ、松永は動物園行ってケモ耳だって喜べるのかよ?違うだろ。人に獣の耳がついてのケモ耳だよ。獣についててもそれは単なる獣じゃん」

「知らないわよ。だいたい、私ケモ耳見たって全然嬉しくないし」


 冷めきった目で見てくる穂波に対し、それでもケモ耳の魅力を伝えようと聖は熱弁を奮う。


「何でだよ。人の姿をしているのに、こう、獣の耳がぴょこぴょこ動いたりする訳だぞ。これぞまさに異世界!じゃないか!」


 わざわざ両手を頭を上でぴょこぴょこさせて説明する聖の姿に、穂波の視線はますます冷たさを増していった。


「……近代日本には獣の耳つけてる人なんていないんだけど?」


 遠くから神が小声で日本風と訂正してくるが、誰も気にする様子はない。


「全く異世界っぽくない世界ばっかりで悪かったわね」


 完全に拗ねた様子の穂波。不貞腐れたように二人に背を向けてしまう。


「あっ」


 その姿を見た聖が何かを思い出しのか、声を上げた。


「そうそう、クエスト報酬で『おくすり』ってのをゲットしたんだけど」

「響きがヤバそうだな」


 京平の言葉に、どうかなと首を捻る聖。


「うーん、病気と言えば風邪、の世界だったからなぁ。『おくすり』渡せば一晩で治るし」


 どうやら不貞寝状態の穂波が、病に伏せる動物とオーバーラップしたらしい。


「まさかの万能薬と言う線は?」


 とりあえず言ってみたという感じの京平に、無い無いと手を振る聖と穂波。


「普通に風邪薬だろ。出してみる?」


 聖の言葉に京平が頷く。万が一、万能薬が出てきた日には万々歳だ。後は、聖が好きに異世界のお姫さまやドジっ子メイドに会いに行けばいい。

 気が付けば、いつの間にか穂波も体勢を変えて興味津々の視線を聖に向けている。


「えっと、『おくすり』の受け取り、でいいんだっけ」


 神に確認するように聖が言うと、神からは威勢のいい返事が返ってきた。


「はい、喜んでー」


 そのテンションの高さに三人は眉を顰めるが、文句は呑み込んだ。次の瞬間、聖の視線の先に茶色の紙袋が現れる。


「おおっ」


 驚きの声を上げる穂波。改めて神の御業を目の当たりにした事で、あんなんでも一応神なんだという事を認識し直す。

 聖は紙袋を手にすると、そっと中を覗き込み、そして納得した表情を見せた。


「何だよ」


 そう言った京平だったが、聖に袋の中を見せられ、同じような表情を見せる。


「何?」


 寝転がっている穂波からは袋の中身は見えない。


「いや、熱喉鼻に良く効きそうだなって」

「風邪薬じゃん。普通に市販の風邪薬じゃん」

「そうだよなー」


 多少の期待はあったのか、少々がっかりした感が出てしまっている穂波に相槌を打ちつつ、念の為開封して中身を確認する聖。

 出てきたのは、聖も良く知っている小瓶だった。


「風邪薬だ」

「まあ、そうだろうな」


 パッケージが明らかに風邪薬なのだから、中身も風邪薬なのは当然と言えば当然だろう。


「はいはい、次、次。京平はどんなとこだったのよ?」


 聖の話に興味を無くした穂波が、京平に訊く。暫く答えにくそうにしていた京平だったが、やがて観念したように小さな声で答えた。


「……チャドウ・ファイト……」

「へ?」


 声の小ささと相まって、聞きなれぬ単語に思わず聞き返す穂波。


「チャドウ・ファイト。相手に茶を飲ませては、腹パンして茶を吐かす、そんな闘いの日々を送ってきたんだよ」

「また行ったのか……」


 聖の言葉に力無く頷く京平。


「ああ。でも、今回は野良試合で勝つことも出来たぞ」


 勝利の喜びもなく報告する。


「おかげで何となくチャドウ・ファイトが何なのか分かってきた気がしなくもない。流派も色々あるらしくてさ、戦った相手だけでも、オブバース・サウザンド流だろ、リバース・サウザンド流にウキタ流……」

「腹パンして茶を吐かすとか意味分かんないんだけど」


 ろくでもなさそうな世界だという事だけは理解した穂波が、長くなりそうな京平の話を遮ろうとしたが、京平は止まらない。


「ところが、これが腹パンだけじゃないんだよ。ウキタ流は毒混ぜて茶を吐かせようとするんだぜ」

「えっ?それ、死ぬだろ」


 聖のもっともな質問に、京平はしたり顔で答える。


「相手が死ぬと反則負けになるから、その死ぬか死なないかのギリギリの所を攻めるのがウキタ流って事らしい」

「……ますます意味分かんない。もう、京平が優勝でいいよ」


 何がどうなっての優勝なのかは誰にも分からないが、何となく納得した空気が流れ、話は落ち着いた。

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