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デザート・モンスター 11

「ここらでいいか」


 村からだいぶ離れた所で妙菫が足を止めた。クプヌヌはすぐそこまで来ている。一行は鉄菖を中心に並んで迎え討つ態勢をとった。

 玲柊はクプヌヌの進路に、持ってきた携帯用のスパイクを手慣れた様子で展開している。


「効くんですか?」

「……気休めだな。あって損はねぇ」


 妙菫はそう言いつつ京平の背中をバンと叩いた。


「来るぞ」


 クプヌヌがスパイクを敷き詰めたゾーンに突入してきた。間一髪、全てのスパイクを敷き終えた玲柊が転がってその巨体を避け、そのままその横っ腹に銃弾を撃ち込んだ。

 その一発を合図に一行も行動を開始する。妙菫が指示を出し、それに従うように女性陣は銃撃を加えながら左右に散っていく。

 銃弾はククネプに阻まれダメージを与えるまではいっていないようだが、煩わしさは感じているようで触手の動きに迷いが見える。


「クプ腕の動きに気を付けなよ!」


 正面で銃撃を始めた京平に妙菫の注意が飛ぶ。クプヌヌは、まず正面の敵から相手にする事にしたらしく、触手を伸ばしてくる。


「くぷうで?」

「足以外のもんが胴から生えてったら腕だろうが。刺さっても殴られてもいてーから気をつけろって言ってんの」


 京平の間抜けなオウム返しに少しイラっとした妙菫が怒鳴り返す。


「ああ……腕?」


 少々腑に落ちないながらも、そのクプ腕に襲い掛かられては呼び方など気にしている場合ではない。必死でクプ腕を躱しつつ隙をついては銃撃を加える。

 そして聖もまた、クプ腕に襲い掛かられていた。鉄菖をサポートすべく配置についていたのだが、想像以上に素早い鉄菖の動きについていけず置き去りにされつつある。

 だが幸いにもクプヌヌの意識が聖に向いたおかげで、鉄菖は容易にクプヌヌへと近づくことが出来た。


「顔ねぇのに何で分かんだよ」


 クプ腕の大半は正面の聖と京平に向かってきているが、左右から銃撃を加えている女性陣にも的確に攻撃を加えている。目はおろか鼻もないのにどうやって敵を感知しているのか、それは妙菫達にも分からないらしい。


「所謂、疑似視覚って奴だろ!目の無いモンスターによくある奴!」

「くそっ、ゲームでは何とも思わねぇけど、実際目の当たりにするとチートな能力だな」


 そんな顔だが口はあるらしく、その下部が徐に大きく開いていく。そして、その裂け目からは妙に泡立った黄色い液体が溢れ出していた。


「ヌヌネネー!」


 妙菫の緊張した声に女性陣は慌てて物陰に身を隠す。クプヌヌに近付いていた鉄菖ですら、少し離れた岩陰に隠れようとしている。だが、ヌヌネネーが何を意味するか分からない聖達は反応出来ていない。


「バカ、お前らも早く来いって」


 動かない二人を見た妙菫が飛んできて二人の腕を引っ張り岩陰へと誘う。そんな三人が陰に隠れた次の瞬間、三人が元居た場所を黄色い液体が迸っていった。


「ブレス?」


 驚く京平の頭を、妙菫が思わず引っ叩く。


「お前は昨日見ただろうが!」


 その言葉で黄色い液体まみれになっていたトーチカを思い出した。確かにクプヌヌが吐く謎の液体と教えてもらっていたが、いきなりヌヌネネーと言われて反応出来るものではない。


「あー、確かに」

「ったく、かかったら溶けるんだから気を付けろって」


 妙菫はそう言いつつ、黄色い奔流が収まるのを確認し、用心深く岩陰からクプヌヌの様子を窺う。


「ちっ、もうゲロ吐いてやがる」

「ゲロ?」


 予想外の妙菫の言葉に、聖達が妙菫の上から顔を覗かせる。クプヌヌは顔らしきものを下に向け、黄色い液体をダラダラと垂れ流していた。ゲロと言われれば、最早それにしか見えない。


「全部吐ききれないのか、一回吐く度にああやって下に向けて吐き散らかすんだよ。で、存分に吐ききったら次のヌヌネネーを飛ばしてくるって寸法さ」


 液体を吐き終えたクプヌヌは、妙菫の言葉通り三人の隠れる岩へとヌヌネネーを吐いてきた。岩に遮られた液体が激しく辺りに飛び散るが、身を竦めた三人にはかからない。


「ゲロを吐かねー限り次のヌヌネネーは来ねー。だから、次のヌヌネネーの後、ゲロを吐く前に近寄って一気に仕留める。いいな?」


 妙菫はそう言うと聖達の返事も待たず、玲柊達に合図を送る。


「リチャージする前に叩くって事だな」


 聖と京平が顔を見合わせる。願わくば次のリチャージには時間がかかってほしい物だが、異世界ガチャの引きを鑑みると自分達のリアルラック的には厳しい気がしてならない。

 そんな二人の気持ちをよそに、妙菫達は着々と攻撃態勢を整えていく。


「京平はアタシと一緒に牽制。その隙に聖は一気に前に詰めて鉄菖の援護を」


 真剣な表情で言われてしまっては否応もない。緊張に顔を強張らせつつも、頷き返す二人。

 やがて轟音と共にヌヌネネーが三人の隠れる岩に襲い掛かってくる。


「止まったら行くよ」


 辺りに飛び散る飛沫を見据えた妙菫は、そう言うと意を決するように手の中の得物を強く握りしめた。それを見た二人も、無言で頷く。

 やがて吹き荒ぶ轟音が止んだ。


「行くよ!」


 妙菫は岩陰から飛び出すと、すぐさまクプヌヌに向けて発砲した。その銃声を合図に、周囲に隠れていた玲柊達も次々に攻撃を始める。


「俺達も行くぞ」


 後に続く聖達。妙菫に並んで援護射撃を始めた京平の横を、聖が駆け抜けていく。その目は、早くもクプヌヌの腹の下に潜り込もうとしている鉄菖と、その動きに気付いていそうなクプヌヌを捉えていた。


「まずいな」


 聖もクプヌヌ・ネ・ズブサを持っているとはいえ、あくまでメインアタッカーは鉄菖だ。その鉄菖を失えば、クポヌカをマプージョン出来る人間はいなくなってしまう。

 足を速める聖だったが、クプヌヌが意識を向ける様子はない。


「ちっ」


 反射的に手の中のクプヌヌ・ネ・ズブサの柄を操作する。少しでもリーチを、という思いからの無意識の動作だ。軽い金属音と共に柄が伸びる。

 その音に気付いたのだろうか、クプヌヌの意識が自分に向いた事を感じる聖。何もないはずの顔から、刺すような視線すら感じる気がする。


「いけやせん!早すぎる!」


 気付いた鉄菖が警告の声を上げるが、その時には既にクプ腕が唸りを上げて聖に襲い掛かっていた。


「やべっ」


 薙ぎ払うようなクプ腕の一撃をクプヌヌ・ネ・ズブサで受け止めた聖だったが、その細長い柄は衝撃に耐えきれず一発でへし折れた。すぐさま次のクプ腕が聖に迫る。慌てた聖は折れた柄の先を掴むと、その刃先をクプ腕に突き立てた。


「!」


 刃はククネプに守られていないクプ腕に容易に突き刺さる。その瞬間、生物を切る嫌な感触が聖の手を襲った。思わず柄を離し、後退る聖。クプヌヌはその隙を見逃さない。


「聖!」


 京平が叫び、聖を狙うクプ腕に銃を向けるが間に合わない。クプ腕は狙い違わず呆然と立ち尽くす聖の左胸を貫いた。そして、聖に意識を取られクプヌヌから目を逸らしてしまった京平もまた、クプヌヌにとっては格好の餌食だった。


「京平!」


 妙菫の絶叫を遠くに聞いた気がした京平だったが、何かを思う間もなく意識は暗転していった。

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