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デザート・モンスター 10

 翌朝。

 妙菫のテントに招かれた二人は、朝食を振舞われた。

 いつの物か分からない随分と古そうな缶詰だったが、彼女達にしても精一杯のもてなしなのだろう。二人はその心遣いに感謝しつつ、有難く頂いた。

 そんな朝食が終わりかけた頃、外がざわつきだした。京平達が食事する様子をぼんやりと眺めていた妙菫の顔に緊張の色が走る。


「妙菫、奴が見えた!」


 玲柊がテントに飛び込んできた。


「もうかよ。思った以上にはえーな。しゃあねえ、二人共、頼むわ」


 妙菫はそう言うと、玲柊に何やら指示を与えながらテントを後にする。その姿を見送った二人は顔を見合わせると、覚悟を決めるように頷きあった。


「やるって言っちゃったからな、お前が」

「そうは言うけどさ、この状況でやらないってないだろ」


 聖は足元に置いていたクプヌヌ・ネ・ズブサを手に取り、具合を確かめる。昨晩、クプヌヌ・ネ・ズブサの職人だという厳爺に調整した貰ったものだが、聖には何がどう調整されたのか分かっていない。


「……まあな」


 結局のところ行動しないと何も始まらないのだが、聖のように考えなしで動けるかと言うとそれはそれで難しい。

 京平は銃を手に取る。昨日、逃げる際に妙菫に手渡されたショットガンだ。ショットシェルホルダーを通したベルトを腰に巻く。


「いいなぁ、その恰好。世界観に合ってんじゃん」


 借りたレザージャケットが世紀末感を増している。


「お前も構えてみたら意外としっくりくるかもよ」


 無責任に言い放った京平の言葉に、聖は大口径砲を構えるロボの如くクプヌヌ・ネ・ズブサを構えた。


「……あー、農作業のバイトだな……」


 しっくりはきているが、それは果物の収穫をしようと高枝切り鋏を構えた青年としてだ。


「だよな。マジでこれで何とかなんのかよ」


 聖も半信半疑の様子だが、実際にクプヌヌと対峙した京平には冗談としか思えていない。


「あんだけ銃あるんだから、俺にも撃たしてくれたらいいのに」


 京平の銃選びの際に見た武器庫には大量の銃や爆弾が保管されていた。厨二心をくすぐられるその光景を前に、一丁位貸して欲しいと頼んでみた聖だったが、お前はクプヌヌ・ネ・ズブサで頑張れとあっさり拒否されてしまっていた。


「今更うだうだ言っても仕方ないし、行きますか」


 二人もテントを出る。村人は慌ただしく動き回っている。銃を手に迎撃の準備をする者、テントを片付け撤収の準備をする者など、皆緊張した面持ちで各自の作業に余念がない。

 鶴杜も他の子供達と撤収準備を手伝っているが、やはり気になるのだろう。妙菫の様子を盛んに窺っている。

 その鶴杜の視界にテントから出てきた京平達が入ってきた。その姿を見た鶴杜は悔しそうな表情を浮かべたが、意を決して二人の前に走ってきた。


「おい、王子様!」


 京平の前に立ち塞がり、指を突き付ける。


「王子様じゃないんだよ。京平だ。丹羽京平」


 真面目な顔で子供から王子様呼ばわりされるのは、妙菫のからかい交じりの王子様と違い結構恥ずかしい。


「じゃ、京平。俺は子供だからついていけないけど……」


 心の底から悔しそうに京平を睨みつける。


「妙菫にケガさせたら、俺が許さないからな!しっかり守れよ!」


 そう言うと、さっさと身を翻し、撤収準備を手伝う子供の群れに戻っていく。


「鶴杜!」


 京平の呼びかけにその背が一瞬ビクッとなる。


「心配するな。皆は俺達が頑張って守るからさ」

「うっせー、バーカ!どうせお前なんか、すぐにクプヌヌにやられちまうからな!」


 いかにも子供な捨て台詞と共に走り去る。


「いや、どっちなんだよ」


 笑いながらツッコむ聖。


「ガキだねー」

「ガキだなー」


 京平も小さく笑っている。二人の緊張が少しだけ解れた。


「こっちだ」


 妙菫に呼ばれ、迎撃班に合流する。クプヌヌ・ネ・ズブサを手にした鉄菖と、妙菫を始めとした銃を手にした女性が数人待っていた。玲柊は何やら大きな荷物を背負っている。

 クプヌヌの姿は遠くに小さく見える。開けたオアシスに逗留する事が多いのは、こうやって早くにクプヌヌを発見できるからだそうだ。


「揃ったな。じゃ、いつものように」


 言葉少なな妙菫の指示に一行は無言で頷き、クプヌヌへと進軍を開始した。

 とにかくオアシスから離れた所でクプヌヌの足を止めなければならない。速足でクプヌヌへと向かって行く。

 最悪の結果に終わった場合でも、そこが遠くであればあるほど村が逃亡する時間が稼げるからだ。


「おいおいおいおい、マジかよ、あれかよ」


 クプヌヌが近づくにつれ、聖の目にもその大きさ、異質さが明らかになってくる。思わず声を上げてしまうのも仕方がない事だろう。


「マジで、ヤバいデカいキモイのな」


 手の中のクプヌヌ・ネ・ズブサが物凄く頼りなく思える。

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