デザート・モンスター 9
妙菫が合図をすると、何か大きな布に包まれた荷物を肩に担いだ鉄菖が入ってきた。その荷物をテーブルに置いた鉄菖が覆っていた布を取り去る。
「!」
長柄の武器らしきものが聖達の目に入る。
「これが、クプヌヌ・ネ・ズブサでさぁ。こいつでマプージョンをクポヌカしやす」
お分かりでしょう、とばかりの鉄菖の態度に二人は顔を見合わせた。クプヌヌ絡みは本当に訳が分からない単語が飛び交う。
「すいません。もうちょっと詳しく教えてもらえませんか?」
鉄菖はそう言った京平にチラッと目をやると、クプヌヌ・ネ・ズブサに手を伸ばし柄の根本部分を何やら操作した。軽い金属音と共に柄が伸び、三倍程の長さになる。
「こいつはこうやって使いやす。折れちまうので、刺す直前まで伸ばさないように気を付けてくだせぇ。この長さならククネプ貫けやすから……」
また知らない単語が増えた。
「その、ククネプと言うのは……」
話の腰を折られた鉄菖は少しムッとしながらも説明を付け加える。
「ククネプと言うのは、クプヌヌの表面を覆ってる鎧のようなもんでございやす。ナノマシンとやらで制御された液体金属だっちゅう話ですが、よくは分かっちゃおりやせん。銃や爆薬なんてのはククネプに受け流されて通用しやせんので、こいつを力の限りぶっ刺してやりやす」
手にした武器をポンポンと叩く。
「で、こいつをぶっ刺すことが出来やしたら、後はマプージョンをクポヌカするだけでさぁ」
何度も聞いているマプージョンをクポヌカするだが、未だに何の事か分からない。
「……その、マプージョンをクポヌカすると言うのは……」
大きなため息をついた鉄菖は長く伸ばした柄を元の長さに戻すと、その先端の二枚の刃を二人に見せた。
「こいつをマプージョンに当てやして、こうクポヌカしてやるんすよ。そうしやすと、クプヌヌはククネプを制御できなくなりやすので、後は銃でも爆弾でも」
聖達が理解できないという顔を見せ続けるので、鉄菖は武器を手に何度も説明を繰り返す。
「んー、オッケーす。何となく分かったんで」
暫く訳の分からない説明を受け続けた二人だったが、遂に聖が音を上げた。助けを求めるように京平を見るが、その表情を見るにおそらく京平もさほど理解出来ていなさそうだ。
「……そうでやすか。では、お二方にお願いする内容でやすが……」
二人を少し見比べ、何かを確かめるかのようにそれぞれの上腕に触れた。
「京平様には牽制役をお願いしやす。銃はいくらでもありやすので、好きなのをお使いくだせぇ。で、お連れ様には、あっしと共に討伐役をお願いしやす」
その言葉に顔色を変えた聖は、話が違うと妙菫に文句の一つでも言ってやろうとするが、さっと視線を逸らされてしまった。
「ああ、御心配には及びません。クポヌカするのはあっしですから。お連れ様にはこいつを持ってクプヌヌを引き付けて頂きやす」
それならと納得しかけた聖だったが、危険な事には違いがない。
「勿論、クポヌカするチャンスがありやしたら、遠慮なくやってくだせぇ」
今更クポヌカがどういう事か分からないとも言いだせない聖は、曖昧に頷いた。
「説明は以上になりやすが……何かご質問はありやすか?」
二人とも首を横に振る。これ以上説明されたところで、クプヌヌに対する理解が深まるとも思えない。
「そうそう、後程お連れ様には少しご足労をおかけしやす」
クプヌヌ・ネ・ズブサをしまい立ち去りかけた鉄菖が最後に付け加えた。
「厳爺の所に案内しますけぇ、お連れ様用のこいつ調整しねぇといけんですし」
では、と鉄菖が去る。
「まさかこんなに早く出くわすことになるとは思ってなかったからなー。ま、しゃあねえか」
一旦人の存在を認識したクプヌヌは、まるで獲物を見定めた猟犬の如く追い詰めてくるらしい。どうやって追ってくるのかは分からないが、逃げ切るのは至難の業だという。
「倒すか、とんでもねー犠牲をだして逃げ切るか、どっちかだからな。出来れば倒しちまいてーよな」
そう言った時の妙菫は少しだけ悲しそうな表情を見せた。
「それによ、あいつ喰ったら、うめーんだ。で、あの量だろ。一匹倒せりゃ、色々楽になんのよ」
だが、そんな表情も一瞬だけで、すぐに明るい表情を取り戻す。
「……食うんだ、あれ……」
「ま、まあ、見た目はアレな方が旨いって事もあるしな」
そうは言ってみた京平だったが、二人からすればあのクプヌヌが美味とは到底思えない。
「ま、そういう事だから、よろしく頼むわ。早けりゃ明日にでも見つかっちまうからよ。心の準備だけはしといてくれ」
じゃ、と軽く二指の敬礼をして去って行く妙菫。それを見送った二人は大きなため息をついた。
「なあ京平。結局何をどうしたらいいのか分かったか?」
「そりゃお前、マプージョンをクポヌカすればいいに決まってるじゃん」
「……お前も分からなかったんだな」
「分かる訳ねーだろ、あんなの」
「だよなー」
幾度マプージョンやクポヌカと言う言葉がテントの中を飛び交った事だろう。だが、理解出来ない言葉は理解出来ないのだからどうしようもない。
「それに、あのクプヌヌ・ネ・ズブサだっけ?あれさ」
鉄菖に見せられた対クプヌヌ用武器。それを見た時の二人の思いは一つだった。
「どう見ても高枝切り鋏よな」




