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デザート・モンスター 8

 そんな二人の耳にテントの外で何やら話し合う声が聞こえてきた。一人は先程の玲柊らしく、もう一人は子供の声のようだ。


「何かあったのかな」


 入口の方に目を向けると、声の主らしい少年が入ってきた。ずかずかと中まで上がり込むと、机の上にポットとコップを乱暴に置いた。


「水!貴重なんだから、ありがたく思えよ」


 ガンを飛ばしながらも、コップに水を注ぎ二人に差し出してくる。


「お、おう、サンキュー」


 気圧されながらも、コップを受け取る二人。

 年の頃は十歳くらいだろうか。遠慮なく聖と京平の顔を見比べている。


「で、どっちが妙菫が連れてきた王子様なんだ?」


 その言葉に水を飲みかけていた京平が噴き出した。


「汚ねぇな。貴重だって言ったろ。勿体ない事すんな!」

「わ、悪い」


 動揺を隠せない京平。


「まだ言ってんのかよ、あの人……」

「なになに、王子様って何だよ」

「俺が知るか。彼女が勝手に言ってるんだよ」

「そうか、お前が王子様か!俺は鶴杜だ」


 二人の会話から京平が王子様と理解した少年は、指を突き付けて宣言した。


「お前なんかに妙菫は渡さない!俺がクプヌヌ・ハンターになって妙菫と結婚するんだからな!」


 その子供らしい宣言に吹き出しかけた京平だったが、何とか真顔をキープする。


「そうか。それは是非とも頑張ってくれ」


 心の底から応援したつもりだったが、鶴杜には伝わらなかったらしい。


「いい気になっていられるのも今のうちだからな。俺がハンターになったらお前なんてイチコロなんだぞ」

「じゃ、まだ、ハンターじゃないんだ」


 聖の何の気なしのツッコミに、鶴杜は言葉に詰まる。


「うっ……それは鉄菖がまだ早いって……」


 さっきまでの勢いはどこへやら、一転もじもじし始めた。


「そっかー、じゃあ、お兄ちゃん達と一緒だな」


 聖はそんな鶴杜の頭をポンポンと叩いてやった。


「は?何だよ、それ」

「いやー、お兄ちゃん達もクプヌヌ倒した事ないからな。どっちが先にクプヌヌ倒すか勝負だな」

「お、おい、何でお前はいつもそうやって適当な事を……」


 京平が止める間もなく、自然な流れで鶴杜を煽る聖。


「俺は絶対負けないからな!」


 聖の手を払いのけた鶴杜は、やはり子供らしい捨て台詞を残してテントから出て行こうとした。


「おっと、なんだ鶴杜じゃねぇか。ここで何してる?」


 入れ替わりで入ってこようとした妙菫とぶつかってしまう。


「な、なんでもねーよ、ちーび!」


 少し顔を赤らめた鶴杜は妙菫と視線を合わせようともせず、走り去った。


「ガキだねー」

「ガキだなー」


 子供の好意の示し方はどこでも一緒だな、と微笑ましく思う二人。


「ちびじゃねぇっつってんだろ、クソガキ!」


 その背に向かって声を張り上げている妙菫の姿は、鶴杜と同世代に見えなくもない。


「ガキだねー」

「ガキだなー」

「ああん、何か言ったか?」


 妙菫が凄んでくるが、やはり可愛い。


「いや、何でもありません」

「ちっ、まぁいいや。で、鶴杜の奴は、ここで何してたんだ?」

「王子様に宣戦布告していきましたよ」

「はっ?なんだそれ?」


 鶴杜の好意に気付いていないのか、妙菫にはピンと来てないらしい。


「と言うか、何で王子様って言いふらしてるんですか?朴念仁だって呆れてたじゃないですか」

「いいじゃねーか、別に。腐ったって若い男なんだ。誰かに取られたらそれはそれで悔しーじゃん」


 妙菫の王子様そう簡単に手が出せないという事なのだろう。妙菫さえあしらえばいいというのは京平にとっても都合のいい話ではあるが、王子様と見られるのはやはりきつい。


「じゃ、王子様じゃない俺はワンチャン……」


 一瞬テンションを上げかけた聖だったが、京平と妙菫に睨まれて黙る。


「で、そんな王子様にお願いがあるんだけどさ」


 京平の顔をじっと見据えながら、その向かいに腰かけた。


「クプヌヌ倒すの手伝ってくれよ」


 お使い行ってきて位の軽い調子で妙菫は言ってくるが、間違いなくそんなに簡単な話ではないだろう。予想通りの展開に、聖と顔を見合わせ肩を竦める。


「まあ、そう来るとは思っていましたけど。こんな素人二人に何期待してるんです?」

「んー、頭数?」


 誤魔化すつもりもないのだろう。あっさりと答えてくれる。


「悪く言えば囮。良く言えば……まあ、囮だな」


 悪びれた風もない。


「京平にはさっきも言ったけど、ハンターが鉄菖しかいねぇからさ。サポートする面子が欲しいのよ。勿論、アタシも含めた女連中も手伝うけど。お前ら若いし、体力あんだろ」


 京平は無言で頭をかいた。正直なところどうするべきか決めかねていたが、こういう時はどうせ自分が考えたって仕方がない。


「いいっすよ、やりますよ」


 考えもなく即決する奴が横にいるからだ。


「さっき京平とも話してたんすよ。ワールドクエストって聞いてます?どうせなら、あれ達成したいっすからねぇ」


 一人で盛り上がっている。その様子を見ていた妙菫は、少しだけ京平に同情した。


「……大変だな、王子様も」

「もう慣れましたけどね。で、囮の俺達は何すればいいんですか?」

「その辺は鉄菖に説明させる」

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