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デザート・モンスター 6

「よしっ、もうここにはいねぇみたいだな」


 妙菫は、四方の瓦礫の隙間から辺りを確認すると、京平に問いかけた。


「お前はどうする?行く当てはあるのか?アタシとしちゃ、出来れば村までついて来て欲しいんだけどよ」


 そう言ってチラッとバイクに目をやる。


「腐っても若い男だからこのまま逃すのも惜しい気がするし、バイクに乗せて欲しいってのもあるし、ってとこなんだけどな」


 二ヒヒと笑って見せる。その笑顔を見た京平もつられて笑ってしまった。


「なによ」

「いや、妙菫さんも悪い人じゃないんだなって」

「は?」


 京平は戸惑う妙菫に指鉄砲を向ける。


「俺なら銃を突き付ける。で、バイクを寄こせって言いますね」


 キョトンとした表情で京平を見ていた妙菫だったが、やがて爆笑し始めた。


「アハハ。そうか、その手があったか!いやぁ、アタシもまだまだだわ」


 そう言いつつ笑い続ける妙菫を見ていた京平は、軽く肩を竦めた。


「ま、行く当てもないですし、銃突き付けられてもかないませんし、ご一緒させてもらえるのならついていきますけど」

「じゃ、さっさと帰ろうぜ」


 嬉しそうに言った妙菫がさっとバイクに跨る。


「運転はアタシがするからな。ほら、さっさと後ろに乗りな」


 促された京平が後ろに乗るのを確認した妙菫は、バイクを急発進させた。振り落とされかけた京平が慌てて妙菫の体にしがみつく。


「お、なんだ、ようやくおねーさんの魅力に気付いたか?」


 バイクを止めた妙菫がからかってくるが、京平はあっさりと切り返す。


「わざとやっといて、よく言いますね。俺が落ちる方選択したらどうするつもりだったんです?」

「んー、も一回膝枕に挑戦すっかな」


 そう言いつつ妙菫はバイクを再度急発進させ。トーチカの外へと飛び出していった。


「げっ。あいつヌヌネネーまで吐いていってやがる」


 振り返ってトーチカの様子を確認した妙菫のその言葉に、京平もトーチカへと目をやる。黄色く濁った液体が、全体を覆う様にぶちまけられている。


「ぬぬねねー?」


 その黄色い液体がヌヌネネーなのだろう。妙菫が吐くと言っているという事は、口から出た何かという事か。


「うん。クプヌヌが吐いてくる謎の液体。かかったら溶けるからな」

「……気をつけます」


 それってブレスなんじゃ、と思った京平だったが、どっちにしろかかるとまずい事になるのは違いない。言葉の違いを気にしても仕方がないだろう。


「さて、と。じゃ、急ぐぜ」


 妙菫がスピードを上げていく。クプヌヌと出会ったという事は、この付近は安全ではないという事であり、早々に手を打つ必要があるらしい。

 人を見かけたクプヌヌは、その近くのコミュニティを探し出しては襲ってくるのだと言う。


「あいつら人以外は襲わないんだよ。それこそ人に恨みでもあるんじゃねーかってくらいに」


 妙菫が首を傾げている。


「UMAが生体兵器にされたって話も強ち嘘じゃないかもな。あんな訳の分からんもんにされたら、そりゃ腹の一つも立つだろうし」


 それをぶつけられるこっちはたまったもんじゃねーけど、そう付け加えた妙菫からは、言葉ほどの憤りは感じられなかった。

 それっきり無言でバイクを走らせる妙菫。京平も大人しく妙菫の後ろでバイクに揺られている。


「あれがアタシらの村だよ」


 妙菫が背後の京平に声を掛けたのは、暫くバイクを走らせた後だった。背中越しに前に目をやると、キャタピラの付いた大型トレーラーが二台と、それを囲うように張られているテントの群れが見えた。

 村の方も京平達に気付いたらしい。見慣れぬマシンに慌ただしい動きを見せている。


「ちょっと代わって」


 妙菫は速度を緩めると、自分にしがみついていた京平の手を引っ張りハンドルを握らす。そのまま持ってればいいからと言い捨てると、振り返りつつシートに上がってしまう。そして京平の首に手を回すと顔を近づけていく。


「どう?そろそろおねーさんの魅力にドキドキしてきたろ?」

「そうですね。妙菫さんしか見えないって意味では、妙菫さんにドキドキしてますよ」


 視界を妙菫に奪われている京平は、バイクをまっすぐ走らせるのに必死だ。


「やっぱ、お前はつれねーな」


 そう笑った妙菫はそのまま京平に抱き着くと、軽く飛び上がり勢いで後ろに回り込んだ。


「ちょっ」


 首を持っていかれそうになった京平はバランスを崩し、バイクが大きく揺れた。振り落とされかけた妙菫が京平にしがみつく。


「やっべ、やりすぎた」


 さほど反省して無さそうな妙菫の呟きに、たまらず京平が抗議する。


「いや、何かやるならやるって言ってくださいよ。今のはさすがにヤバいでしょ」

「ハハハ、わりぃわりぃ。でも、今のはドキドキしたろ?」


 悪びれた様子のない妙菫の姿に、京平は大きなため息をついた。


「流石に今のはドキドキしましたけどね。でも、いいんですか?こんなドキドキのさせ方で」

「いーんだよ。ドキドキさえさせられりゃ、吊り橋効果で落ちるかもしんねーじゃねーか」

「吊り橋だけが落ちていきますよ」


 呆れたように言う京平。そんな京平の背を支えにシートに立った妙菫は村の方へ声を掛けながら大きく手を振った。

 村の方でも向かってくるのが妙菫だと認識したらしく手を振り返してくる。


「よし。運転代わるか?」


 京平は無言で首を横に振った。今度はどんなアクロバットな動きで自分の前に入ってくるか分からない。そこに見えている村まで位なら自分で運転した方がマシだ。


「ま、たまには誰かの後ろでゆっくりするのも悪くねぇ」


 そんな呟きが聞こえてきたが、特に反応する事無く運転を続けていると、やがて小さな舌打ちが聞こえてきた。

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