デザート・モンスター 4
「イテテ」
女性は京平の背中にぶつけた額をさすりながら振り返った。クプヌヌはもうそこまで迫っている。
「おい、大丈夫か」
前に座る京平に声をかける。
「なんとか……」
どこかにぶつけたのか額から血を流している京平だが、声はしっかりとしている。
「アタシが運転する。代われ」
少しホッとした様子を見せた女性だったがのんびりしている暇はない。素早くシートから降りると、今度は器用にハンドルと京平の間に身を捻じ込んでいく。
「ほら、下がれ」
そう言いながら全身で京平をシートの後ろへ追いやる。
「しっかり掴まりなよ」
そう言うや否やハンドルを握った女性だったが、すぐに困惑の表情を浮かべる事となった。アクセルを回してもバイクが反応しないのだ。
「あん?何だ?」
代わりにディスプレイに表示されだした謎の文字列を見た女性が毒づく。
「あ、それは……」
自分の時と同じだと見た京平が何か言いかけるが、女性はマルバツが表示されるや否や躊躇うことなくマルを押した。
「おっ、これで動くのか」
シートに伝わる振動を感じた女性は、満足げに呟くとバイクを急発進させた。京平の時とは違いスムーズに加速し速度を上げていく。
クプヌヌとの距離はあっという間にひらいていった。
「王子様は、銃撃てる?」
距離を取り過ぎたとばかりにスピードを緩めつつ、京平に尋ねる女性。
「……撃った事はあります」
海外旅行の際に観光用の射撃場で、ではあるが、全くの嘘ではない。
「じゃ、あいつ近寄って来たらこれで撃ってくれ」
女性は背負ってたショットガンを下ろすと、京平に押し付けてきた。
「もうちょいこっちに引きつける」
女性はクプヌヌとの距離を測りながらバイクの速度を調整している。京平が苦労して運転していたバイクを、あっさりと手中に収めていた。
「撃ち方分かる?」
突然銃を渡され、戸惑っている京平に女性が訊く。
「まあ、一応分かると思いますが……」
京平が頷くと、女性は振り返って笑って見せた。
「じゃ、頼むわ。外したって構わねーからさ。どうせ当たったって効きやしねーし」
「えっ?じゃあ、何の為に……」
「うーん、牽制と挑発、的な?」
そして小さく笑いながら続ける。
「王子様だってクソガキに銀玉鉄砲撃たれ続けたらムカつくだろ。そういう事」
その説明で納得出来た訳ではないが、とりあえずクプヌヌへと銃口を向ける。記憶を頼りにボルトを操作し装填するが、引き金が引けない。
のっぺらぼうを思い出させる不気味な姿だが、それでも生き物を撃つのは躊躇われた。
「ん?どうした?」
女性が不審そうに訊いてくる。装填の音は聞こえたが、発射音はいつまで経っても聞こえてこない。
「頼むぜ。撃てって」
少し苛立ったような声。それでも、まだ京平は迷ったままだ。
「だーかーらー、こうやって撃つんだよ」
焦れた女性はハンドルから手を放し、京平の方へと向き直る。そして背後から抱きかかえるようにして、銃を構えている京平の手に自分の手を添える。
「ちょっ、運転……」
驚く京平に構わず、雑に狙いを定めるた女性は、京平の指に自分の指を重ねて引き金を引いた。的が大きいだけあり、適当な狙いにもかかわらず命中する。
だが、弾は表面の液体に食い止められてしまったようで、女性の言う通り効いてる様子はない。
「こうやんだよ。分かった?次は頼むぜ」
軽く京平の肩を叩くと、女性はバイクの運転へと戻る。
それでも、少しの間悩んでいた京平だったが、やがて意を決して銃を構え直し、引き金を引く。
「おー、そうそう、その調子。次、次」
女性に促されるまま、引き金を引き続ける京平。ダメージを受けている様子はないが、煩わしさは感じているようで、触手の攻撃は激しくなる。
女性はバイクを華麗に操りその攻撃を巧みにかわしていく。
「上等上等。じゃ、アタシらも逃げるとするか」
再び加速すると、ぐんぐんクプヌヌを引き離していく。
「もう少し行くとトーチカがある。そこで奴をやり過ごす」
京平には否も応もない。
女性の言うトーチカはすぐに見えてきた。トーチカとは随分と良く言ったもので、実際には半壊した倉庫といった体である。
「頭下げて」
ギリギリ通れるかどうかという入り口に、そのままバイクを滑り込ませていく女性。慌てて頭を引っ込めた京平だったが、髪が何かを掠めたのを感じゾッとした。
壁にぶつかりそうになりながらもバイクを止めた女性は、さっとシートから降りる。そのまま迷うことなく部屋の隅へ走っていくと、地下への入口の扉を引き開けた。
「こっち。しばらくここでやり過ごす」
そう言って京平を手招く。慌てて地下への入口へと向かった京平が中を覗き込むと、梯子が暗闇へと飲み込まれているのが見えた。
「ほら、さっさと降りる」
蹴り落とさんばかりの勢いの女性の言葉に押された京平は、梯子に手を掛け下へと降りだす。女性はケミカルライトを数本投げ落とすと、自分も後に続いた。
地下は防空壕のようなものだったのだろうか。床に降り立った京平は辺りを見渡してみるが、ぼんやりした灯りでは全貌は分からない。灯りの中には幾つものがらくたが転がっているのが見えた。




