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神が来りてホラを吹く 4

「相談はまとまりましたか?」


 部屋に戻ってきた二人を、神は相変わらずの笑顔で迎えた。


「ああ。とりあえず、その仮転生とやらを試してみる」


 京平の返事に、神は満足気に頷いた。


「おお!『おねがいリンカーネーション』を試して頂けるという事ですね!ありがとうございます!では、早速……」


 何やら準備を始めようとした神を、京平が慌てて止めようとする。


「その前に、確認したい事があるんだが」

「いやいや、とりあえず、転生してみましょうよ。百聞は一見に如かず、論より証拠、虎穴に入らずんば虎子を得ず。ああ、ご心配なく。この『おねがいリンカーネーション』、ちゃんとチュートリアルも用意しています。何という心遣い、何という親切設計。さらにさらに、何とこのチュートリアル、仮転生の数には含まれません。何てお得。何て太っ腹」

「たかだかチュートリアルだけでよくもまあ、そこまで盛り上がれるな」

「それはもう、チュートリアルとは言え、普通の仮転生と変わりはありませんからね。さ、さ、こちらへ」


 そう神に促され聖が部屋の真ん中へと歩みを進めるが、京平は後に続かない。


「京平?」


 怪訝そうな聖に、京平は務めて爽やかに答えた。


「虎穴に入るのは、とりあえず一人でいいかな」

「おいっ」

「冗談だよ、冗談。とは言え、他人のプレイを見て研究するのは常套手段。どうせやるなら、チュートリアルとはいえ無駄にはしたくない。と言うわけで、よろしく」

「ま、構わないけどさー」


 聖はそう言うと部屋の中央で神と並んで立つ。

 並んで初めて分かったが、体格のいい聖に対して神も負けず劣らずのいい体つきをしているようだ。


「そうそう。ここに戻って来たくなった場合は、そう願うだけで結構です。すぐに戻って来れます」


 そう言いながら神は京平の様子を確認する。簡単に行き還り出来ますよ、という神なりのアピールだったようだが、京平には響かない。


「ざっくりしてんだな」


 そう言っただけで動こうとはしない。その様子を見て、神は諦めたように頭を振った。


「今回は聖さんだけと言う事ですかね?京平さんは様子見?様子見?わっかりました。では、さっそく行ってみましょうか?」


 神がそう言って聖を見つめる。その眼差しは何かの覚悟を促すかのように真剣そのものだ。

 ゴクリ、と聖の喉が鳴る。その後、一つ大きく息を吐き頷いて見せる。


「それでは、転生先に願いを込めて。いざ、参りましょう」


 神が右の拳を握りしめ、ゆっくりと天に掲げる。そして、ゆっくりその手を振り下ろした。


「レッツ、異世界ガチャ!」


 だが、何も起きない。


「ちょっとちょっと。ダメじゃないですか。ここは一緒にやってくれないと。そんな事じゃ転生できませんよ」

「今の流れでお前に合わせることが出来る奴がいたとしたら、それはそれで恐ろしいわ」


 呆れ返った京平の口調にも、神は動じた様子は見せない。


「そうですか?簡単だと思いますがねぇ」


 そういいながら何度もポーズをとる。


「それに何だよ、異世界ガチャって」

「えっ?皆さんお好きでしょ?ガチャ。皆様に様々な世界を体験していただきたいという、わたくし共の思いを実現するのに、このガチャというシステムは最適だったのです」

「行先ガチャなのかよ……」


 思わず頭を抱える京平。


「いいじゃないか。つまり、『聖騎士王(パラディンおう)』になれそうなファンタジー世界を引き当てればいいんだろ?簡単じゃないか」

「聖……お前、今、盛大にダメなフラグを立てたぞ……」


 京平のツッコミは聖の耳には届いていなかった。神と二人で盛り上がりだしている。


「お、いいですねぇ、やる気ですねぇ。じゃあ、行っちゃいますか」

「行っちゃいましょう」


 今度は二人してポーズをとる。


「レッツ、異世界ガチャ!」


 次の瞬間、聖の姿はかき消すように消えてしまった。




 神の動きに合わせて右手を振り下ろした次の瞬間、聖の意識はどこかに吸い込まれるかのように遠のいていった。

 炎天下で脱水症状になる時のような嫌な感覚。あまりの気持ち悪さに崩れ落ちるように膝をつき、倒れ込んでしまう。

 熱中症でぶっ倒れたあの時と同じだな、と昔の記憶がよぎる。

 そんな思いを抱きながら恐る恐る目を開けてみる。すると、そこには抜けるような青空が広がっていた。


「まじかよ」


 興奮を抑えきれない感じで呟く。明らかにさっきまで居た京平の部屋とは様子が違う。

 鼻腔をくすぐるのはかつて経験したことのないほどの深い緑の香り。

 そして風に乗って流れてくる生臭さ。


「?」


 風上へと目を向ける。そこには図鑑でしか見たことのない生き物の顔が眼前にある。


「……まじかよ」


 かつて地上最強と言われたティラノサウルス。見間違えようのないその暴君竜の咢が、聖へと迫っていたのだ。

 どこからか神の声が聞こえてくるが、聖の意識はその内容を聞き取ることなく途絶えた。

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