デザート・モンスター 1
「おはよー」
「おーっす」
翌日、聖が穂波と連れだってやって来たのは十時過ぎ。聖にしては遅い時間だ。
「おはよう。今日は珍しいな」
朝だというのに既に疲れ切った表情で二人を迎え入れる京平。奥の部屋からはいつも通りテレビの音が聞こえてくる。
「ま、まあ、いつも早朝ってのは、流石に迷惑だろうし。なぁ、松永」
「う、うん、そうそう」
二人は京平と目を合わそうとせず、白々しい会話を続ける。昨日の出来事に対して少しは罪悪感があるらしい。
「……いや、一番迷惑なのが居つくことになった訳だが」
「ごめん」
穂波が申し訳なさそうに顔の前で手を合わす。京平は小さくため息をつくと、二人を中へと招き入れた。
「おはようございます。今日は遅かったですね」
奥の部屋では、すっかり寛いだ様子の神が二人を出迎えた。最早スーツすら着ていない。
「……ホント、ごめん」
その姿を見た穂波がもう一度謝る。その図々しさは想像以上だ。
「あ、皆さん朝食は済まされました?まだでしたら、シェフ転生の神自慢の味噌汁なんてどうですか?ま、相変わらず京平さんの冷蔵庫は中身無いんで、単なる味噌の汁な訳ですが」
「まあ、その、なんだ、すまんとしか言いようがない」
早朝からこの調子なのだとしたら、京平の疲れ切った表情も頷ける。
「とりあえず、ログインしよっか」
穂波が、空気を変えようと努めて明るい声で言う。その言葉に聖達はため息で返事をした。
三人はお賽銭を賽銭箱に投げ入れると、無の表情のまま参拝を済ませる。
「……全然、参拝されている感が無いのですが……まあ、転生石三百十五ゲットと言う事で」
納得いかないと言う表情の神に対し、三人は一様に何言っているんだこいつと言う視線を向けるが、すぐに諦めたように今日の行動について話し合いを始める。
「で、今日はどうする?三人で行く?」
穂波の言葉に、京平が首を振る。
「いや、外れを引いた場合、三人だとダメージがデカいだろ」
「でもさ、場所もランダムな訳でしょ?当たりの世界の当たりの場所を引く必要があるって考えたら、複数で行った方が良くない?」
「それはその通りなんだが……まずはその、当たりの世界ってのを見つけないとだ。であれば、バラバラの方がいいんじゃないか?」
考え込む京平達に対し、何も考えていなさそうだった聖が軽い感じで提案した。
「じゃあさ、いっその事、じゃんけんで決めちまおうぜ」
「じゃんけん?」
怪訝そうな二人に、説明を始める聖。
「そう。じゃんけんて言っちまうと変な感じだけど、要はグーチョキパーの三種類あるんだから、同じ手が出たら一緒に、そうでなければバラバラって感じで」
「あー、そうするか」
「運を天に任せるって感じね。いいんじゃない」
あっさり二人も同意する。
「運を神に任せてくださってもいいのですよ」
寛いでいても余計な口を挟む事は忘れない神。
「地に堕ちた神に任す運は無いから」
だが冷たく穂波にあしらわれる。
「いや、別に地に堕ちたからここにいる訳ではないのですが……」
何やら言い訳めいた事を呟き続けているが、誰も聞いてはいない。
「じゃ、さっさと決めちまおうぜ。せーの。最初はグー、ジャンケンポン」
聖の掛け声に合わせ、三人が手を出す。
「うー、私が一人か」
穂波が天を仰ぐ。聖と京平はチョキを出しているが、穂波はグーだ。
「ま、これも天の神様の言う通りって事で」
「そっちが当たりの可能性だってあるんだしな」
聖達の言葉に頷く穂波。今日は運が向かなかった、それだけの事だ。
「じゃ、俺と京平がアベックガチャ、松永が普通のガチャという事で」
その言葉に神は寝転がってテレビを見ながら応える。
「はい、では。アベックガチャ五百転生石頂きます」
「……昨日今日のログボがもう消えるのよね」
「ログボで賄えていると考えようぜ」
苦虫を噛み潰したような表情の穂波に、聖は明るく声を掛ける。
「はい、では、準備は出来ましたか?」
例によって何やら手帳に書きつけた神が、寛いだ態勢のまま三人に声を掛けてくる。そのままの体勢かよ、と口に出かかった三人だったが、すぐに気を取り直し出発の準備を済ませる。
「それでは参りましょう。レッツ、異世界アベックガチャ、アンド、異世界ガチャ!」
三人に合わせさせる気もない適当な感じでガチャのコールをする神。寝転がってテレビを見ている体勢は崩さないまま、例のポージングだけはキッチリとやってのける。
「おい、せめてガチャの瞬間だけはやる気……」
その姿勢に抗議の声を上げた京平だったが、言い切る前に他の二人と共に現世から旅立っていった。




