石が為に金は要る 7
「それで、どうされます?『お気持ち』、お納めいただけます?」
「穂波がお納めしたろ」
「……十転生石の授与になります」
「一転生石一円か……」
「よくあるレートね」
「そこ!あくまで『お気持ち』に対する御利益なのですから、レートとか言わない」
そんなもんだろうと言う表情を見せる京平と穂波に対し、神は不満そうな表情を見せるが、当然の如く無視される。
「じゃあ、ステーキ一人前五百円って事か。それは……食べるよな」
聖が悔しそうに呟く。転生石の価値が分かった事で、色々と見えてくるものがある。
「でしょ、でしょ」
我が意を得たりとばかりの穂波の姿に、聖がますます悔しがる。その様子を見ていた京平は、ある事に思い当たった。
「ん?確か聖が働いた世界って五百で五煙草やら一焼酎って話だったよな」
「五タバコに一ショーチューですね」
すぐさま京平の発音を訂正する神だったが、京平は構わず話を続ける。
「琵琶湖の世界じゃ五百で五千琵琶湖円だったじゃないか。一焼酎と五千琵琶湖円、同じ価値なのか?」
「は?一緒な訳ないでしょう?焼酎一杯とブランド牛のステーキが同じ価値って、どんだけプレミアムついた焼酎かって話ですよ」
神は、ここぞとばかりに何言ってんだこいつと言う視線を京平に向ける。一瞬ムッとした表情を見せた京平だったが、すぐに平静を装った。
「じゃあ、何か。世界によって石の価値が違うとでも言うのかよ」
「当たり前じゃないですか」
事も無げに言ってのける神。
「円だって国によって価値が違うでしょう?じゃあ、転生石だって世界によって価値が変わるに決まってるじゃないですか」
神の言葉に顔を見合わせる三人。決まってると言われても、異世界へ行ったり転生石を使ったりするのは初めてである。分かるはずもない。
「まあ、仮転生生活を快適に過ごしてもらう為に、転生石強めの為替レートにして頂いてますけどね。これもわたくしの神望の厚さの賜物ですね」
「転生石強めで焼酎一杯五百円なのかよ」
ブランド牛が食べられる琵琶湖の世界に比べると随分と弱く感じられる。
「あの世界でお金持っちゃうと、みんな働かないですからねぇ。まあ、そう言う事です」
「……為替レートまでブラックか」
呆れたように言う京平に、神は軽く肩を竦めてみせた。
「異世界も色々って事ですよ」
「分かった。異世界によって石のレートが違うのはいいとするわ。でも、課金ガチャが一回五百円ってのは、ちょっと高くない?」
今度は穂波が非難の声を上げる。
「何を仰います。アベックガチャもスペシャルガチャも、言わば確定ガチャなのですよ。二人一緒に同じ世界に転生出来たり、一度体験した事のある世界に転生出来たり。それが、たった五百転生石なのですから、これはお得と言わざるを得ませんよ」
「だから、確定させるなら同じ世界の同じ場所に転生出来るガチャ用意しろって言ってるの。それなら喜んで回すわよ」
「穂波さんも分からない人ですねぇ。それだと離れ離れになった二人が艱難辛苦を乗り越え遠い異世界で再び出会う、というアベックガチャの醍醐味が味わえないと、ご説明させていただいてるじゃないですか」
「だから、そんなクソみたいな醍醐味いらないって言ってるのよ」
「艱難辛苦もなく、ただただ平凡な異世界生活を送る。それで本当にその世界を理解出来ると思います?」
突然まともっぽい事を神に言われ、流石の穂波も言葉に詰まってしまう。
「『おねがいリンカーネーション』は、あなたの充実した異世界転生を応援します」
そう言いつつも、神はそっと賽銭箱を京平に近づける。
「さ、是非とも『お気持ち』を」
あくまでにこやかな神に対し、苦々しげな表情を見せる京平達。
「……くそ」
やがて、観念した京平が財布を取り出そうとするが、その動きを穂波が止めた。
「穂波?」
京平が声を掛けるが、穂波は答えず神を見据えている。
「えーっと、まだ何か?」
気圧された神がおずおずと尋ねる。
「別に課金するのは構わないんだけど。でも、ログボも出さないようなクソ運営に払う金は一銭も無いわ」
きっぱりと言い放つ。
「穂波さん。クソ仕様とかクソ運営とか、ちょっと言葉遣いが良くありませんよ。女性がクソクソ連発するのは、流石にどうかと」
「クソなもんにクソと言って何が悪いのよ」
「まあ、クソクソ言われるのも、これはこれで新たな性癖に目覚められそうなので、わたくしは別に構いませんけどね。ついでに踏んで頂けたりなんかすると、なお結構」
「やめてよ、変態!」
神は一瞬で強気だった穂波をドン引きさせる。
「まあ、冗談はさておき。そんなにログボが欲しいのでしたら、毎日ログインしてください。そうすれば、ログボを差し上げましょう」
「さっき転生はログインじゃないって言ったばっかじゃん」
聖の言葉に、神はまたもや残念な子を見るような目を向ける。
「当り前じゃないですか。転生はあくまで転生なのですから」
「じゃあ、ログインはどうやるんだよ」
「簡単な事です。わたくし、神ですよ。ようは毎日わたくしの元へ詣でればいいのです。ログイン、それ即ち参拝!」
三人は一様に嫌そうな表情になる。
「既に毎日詣でてるようなもんじゃないか。ログボ寄こせ」
「何を仰います。どちらが詣でているかと言えば、わざわざ京平さんの家まで足を延ばしてきているわたくしの方でしょう?」
京平の言葉を一蹴する神。
「分かった分かった。いいわよ、参拝してあげるわよ」
「お、おい、穂波……」
半ばやけくそ気味な穂波に、本気かと問うように京平が声を掛ける。
「無よ。クソゲーに成り果てたゲームに、それでもいつか復活するんじゃないかという一縷の望みをかけて、ただただログインだけする時のように、無の心で参拝するのよ」
「無の心で参拝って、おかしなこと言ってるのに気付いています?」
神の言葉は三人に無視される。
「ログボの為に、数十秒自分の心を殺すだけ。どうって事ないわ」
「こう見えても八百万の一柱に名を連ねる神なんですよ?そこまで嫌がられると、流石に傷つくんですが……」
神の嘆きもやはり無視だ。
「そこまでしてログボいるか?」
京平が呆れ気味に訊くが、穂波はきっぱりと言い切る。
「当たり前よ。三人で参……ログインすれば、当然三人分のログボが来るわけ。それを毎日続ければ、クソ仕様のガチャが何回かは引けるようになるでしょ」
「まあ、それは分かるんだが……」
「天井のないガチャ回してるのよ。この先どれだけ石が必要になるか分かったもんじゃないんだから、取れるものは取っておかないと」
穂波の迫力に、京平達は頷くしかない。
「で、どこへ参拝すればいいの?」
「どこと言われましても、わたくし流しでやらせてもらっていますので、決まった場所と言うのはありませんが……」
「どこの世界に流しの神がいるって言うのよ!」
「ここにいますが」
全く悪びれる様子のない神に、穂波のイライラが募る。
「じゃあ、いったい、私達は、どこへ、参拝、すれば、いいのかしら?」
穂波は怒りを抑えるように歯を食いしばり、絞り出すような声で訊く。そんな穂波を、まあまあと手で押し留める神。
「先程言ったじゃないですか。お社もあるって。それを出させてもらったら、そこがわたくしの神社です」
「じゃあ、さっさと出す!なう!」
穂波がそう言うと、しめたとばかりに神がお社を取り出す。
「あ、やめろ」
京平が止める間もなく、神の社が姿を現した。広いとは言えない京平の家のリビングだが、社は綺麗に収まった。
「場所に合わせて大きさ変えられるのですよ。便利でしょう?」
先に出した賽銭箱を社の前に設置しながら神が自慢するが、耳を貸す者はいない。
「人の家に何出してるんだよ」
京平の尤もな抗議も、神は穂波さんが出せと言ったので、の一点張りで受け付けない。
「どうすんだよ、これ……」
力無く穂波にも抗議してみるが、こっちはこっちでログボの為だからと一蹴される。
「さ、どうぞ、参拝してください」
満足いく位置に賽銭箱を置けた神が社に陣取る。文句を言う気力も失った京平が、のろのろとお賽銭を上げようとすると、またもや穂波がその動きを止めた。




