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石が為に金は要る 5

「おかえりなさい」


 現世に還ってきた聖の目に飛び込んできたのは、ヘラヘラ笑いながらお笑い番組を見ている神の姿である。昨日も見た姿だなと思いつつ、京平達の姿を探すが見当たらない。


「あれ?京平達は?死んでる?」

「ええ。昼頃に転生されましたからもう暫くは……あっ、えっ、はい。了解です。京平さん達、還ってくるそうです」


 神がそう言うや否や、京平達の姿が現れる。


「おー、おかえり。でも、還ってくるのが俺と一緒の時間て、ちょっと早くない?」

「あー、うん、ちょっとな」


 京平はそう答えると何とも言えない表情で穂波と顔を見合わせる。穂波も穂波で、微妙な表情を浮かべている。


「聖の方はどうだったのよ」


 穂波に水を向けられた聖は、たちまちうんざりした表情になる。


「いやあ、参ったぜ。十日間ずっと農作業とか何の異世界だって話だよ」

「……工場勤務の次は農業か」

「おう。ただ、今回は俺一人だったんだよな。施設とか道具はばっちり揃ってるのに。言わば一人コルホーズ」

「一人の時点でコルホーズじゃないけどな」

「細かい事はいいんだよ。とにかく、ゲームならカーソル引っ張って全選択で水遣りとかで済むのを、全部人力でやるんだぜ。貸農園で農作業するのとは訳が違う」

「それが農業ってもんだろ」


 身も蓋もない京平の一言に、少し情けなそうな表情になる聖。


「それでも、クエストは全部クリアしたんだぜ。全部農作業だったけどな。えーっと、確か果物ルンルンセットに野菜わくわくセット、それと……あ、そうそう、菌糸類ドキドキセットだ」

「ドキドキさせられる菌糸類って何が入ってるのよ」

「松茸みたいな高級茸にドキドキするんじゃないか?」


 聖の答えは楽観的だったが、訊いた穂波はあまり納得していなさそうだ。


「ま、久しぶりにいいトレーニングをしたと思えば、農作業も悪くは無いな」

「じゃあ、次は漁業か林業だな」

「なんで俺だけお仕事体験みたいな事になってるんだよ。ファンタジー世界へ行かせてくれよ」

「それこそガチャ運だろ」


 京平にからかわれて嘆く聖。


「そういうお前たちはどんな所に行ってたんだよ。そっちはそっちであんまりテンション上がってない感じじゃないか」


 聖の言葉に再び顔を見合わせる京平と穂波。


「琵琶湖の神様の使徒がライブしてた」

「は?」


 穂波の答えに、聖の目が点になる。


「だーかーらー、琵琶湖の神様の使徒のライブを見せられたの。要はその使徒様のCMよ、CM。新曲のCD貰ったから、気に入ったら旧譜も買ってねって事なんじゃない?」


 どこか投げやりな穂波の答え。聖は、この娘何言ってるのとでも言わんばかりの表情で京平を見るが、京平は唯々頷くばかりだ。


「勿論、ライブ終わった後、色々見て回ったんだけど……流石は琵琶湖の神様の世界よね」


 そう言った穂波は、どこか感心したような、それでいて呆れたような表情を見せた。


「全ての水は琵琶湖に通ず、だもん」

「は?」


 ますます訳が分からないと言う表情の聖。


「淀川は当然として、最上川も信濃川も利根川も長良川も江の川も、本州の川と言う川の源流は全部地下水脈で琵琶湖に繋がってるんだって。凄いよね」

「あ、ああ……」


 理解が追いつかないままに頷く聖。


「そして、何が一番凄いって、琵琶湖の水止めるぞ、が実現出来てる事ね。それが京都大阪に対してだけじゃなく、本州全土に対して有効なんだから、マジ琵琶湖パネェっす」

「お、おう……」

「逆に、水倍流すぞってのも出来るって」

「……水攻めかよ」

「そんな琵琶湖が頂点な世界を見てきた訳ですが……」


 そこで言葉を切った穂波は、チラッと京平の方へ目をやる。この後、どう続けようかと少し困っているらしい。そこで京平が後を受けて話し始めた。


「一番の見所は安土城だな。何と天守が現存している」

「それ魅力」


 素直に感心する聖。


「後は、彦根城に長浜城。びわ湖タワーにも登ったな」

「八幡堀では屋形船に乗ったし、マキノではメタセコイア並木も見たわね。勿論、有名処の神社仏閣にもお参りしたし」


 見て回ったところを指折り数えながら話す京平達。次々と出てくる場所は、観光地ばかりだ。


「いや、待て待て」


 流石の聖もおかしな流れだという事は分かる。


「それじゃあ、まるで観光してきたようにしか聞こえないんだけど」

「してきたように、じゃないわね。してきたのよ」


 穂波がきっぱりと言い切る。


「安土城やびわ湖タワーみたいにこっちじゃ現存してない所もあるにはあったんだが、とどのつまりは滋賀なんだ」


 京平の言葉に、穂波はうんうんと頷いている。


「そうそう、滋賀なのよ滋賀」

「滋賀……」


 力無くオウム返しで呟く聖。


「琵琶湖が世界の中心って言う以外は、こっちの滋賀と変わらん」

「ほぼ滋賀の世界よ、ほぼ滋賀。滋賀をよく知らない人だったら異世界に転生した事に気付かずに生活出来るレベルで滋賀だったもの」


 穂波の台詞は面白がっているようにも聞こえる。


「一応、滋賀以外がどうなってるかも気になったので、京都まで足を伸ばしたんだが……」

「残念、京都でしたー」


 全く残念がっている様子の見えない穂波。


「金閣が詫び寂びで銀閣が銀ピカに入れ替わったりしてるのを期待したんだけど、普通に金閣銀閣だったしねー」

「ま、そんな訳で、滋賀を観光するなら現世の滋賀でいいだろって事で、早めに切り上げて還ってきた」

「なるほど」


 腑に落ちたという風に頷く聖。


「でも、酷いと思わない?私、最初に飛ばされたのがバブルで、次が滋賀よ。まだバブルはレトロ感があったからマシだけど、今回は現世と変わらない。異世界感ゼロよ、ゼロ」


 見ていた番組が終わったのか、暢気に茶を啜りながら三人の会話を聞くとはなしに聞いていた神だったが、いきなり矛先が自分に向いた事に気付き、慌てて聞いていない振りをする。当然、間に合わなかったのだが、その余りの慌てっぷりに呆れた穂波は、それ以上何かを言う気を無くしてしまった。


「まあ、今のところ、みんな引きが悪いって事だな」


 京平の言葉に、聖達が頷く。


「あ、でも、琵琶湖牛は美味しかったな」


 穂波はそう言いながらうっとりとした表情を見せる。その時の事を思い出しているらしい。


「琵琶湖牛?」

「まあ、こっちで言う近江牛の事だと思うが、あれは確かに美味かった」

「マジかよ。こっちは自給自足の野菜生活だったってのに、そっちは近江牛なんか喰ってたのかよ」

「まあ、本命以外にも当たりはあるって事よ」


 全力で悔しがる聖に、笑顔で追い打ちをかける穂波。

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