アンドロイドは甘い夢を見るか? 5
「では、私は少々店主と話をして参りますので、聖様はご自由にご覧になっていてください。気に入ったものがございましたら、試射も出来ますわ」
試射と言われても、等と考えている間に、クインは店主の方へと去っていった。取り残された聖は、何となく辺りを見回す。
おそらくこの世界では原始的と言われそうな火薬式の銃からレーザーライフルと思しき銃、はたまたどう使うか分からないような武器まで、クインが一番の品揃えと言うだけあって見応えがある。
本来なら一つ一つ手に取って見てみたいところだが、流石に迂闊に手を触れるのは躊躇われた。何せどうやって持つのかさえ分からない武器、かどうかも分からない物すらあるのだ。ここはグッと我慢して目だけで楽しむ事にする。
そうやって一人でサイバーパンク感を満喫していた聖だが、暫くするとクインに呼ばれた。行ってみると、クインが幾つかの武器を用意して待っていた。
「何か気に入った武器はございまして?」
聖が首を横に振ると、クインは嬉しそうに用意していた武器を差し出してきた。
「これなんか如何でしょう?小型で携行に不自由ありませんし、目に連動する必要もございません。絞りを広げれば広範囲に……」
クインが次々と武器を紹介してくる。聖に合いそうな武器をピックアップしてくれたらしい。嬉々として説明を続けるその姿を見ていると、武器に対して異常なまでの愛を感じられた。丸腰に対して拒絶反応を起こすのも無理はない。
「さ、どれになさいます?」
そう聞かれても聖には判断のしようがなく、結局はクインに選んでもらう。小型の熱戦銃と振動ナイフ、そしてそれらを隠し持つための上着。聖はただ言われるがままに身に着ける。
「似合ってますわ」
クインの称賛が照れ臭い。これらの武器が使いこなせるかといえば疑問だが、その世界の衣装を着るとやはり気分は上がる。
「折角ですので、私も同じ物を頂きますわ。フフ、ペアウェポンですわよ」
やはりクインには武器に対して並々ならぬ想いがあるようだ。そうでなければ、ペアウェポンという発想はなかなか出てこないだろう。
京平なら確実にツッコんでるなと思った聖だったが、クインが嬉しそうなので黙っておくことにした。そんなクインだったが、武器をしまう段になって自分の服装を思い出し、どうしたものかと途方に暮れてしまう。
確かに白いワンピース姿に武器は目立って仕方がない。
結局、クインは腿にホルスターを巻くことにした。感覚を掴もうと数回抜き撃ちの動作を繰り返す。当然、その度にスカートが捲れ上がるのだが、聖はしっかりとその光景を目に焼き付けていた。
これぞ漢のロマン!
フィクションでは見かける光景だが、まさか生で見られるとは思っていなかった。白い太腿が露になるも大事な所は見えそうで見えない、その絶妙さ加減が実に素晴らしい。
その視線に気づいたクインは、少々恥ずかしそうだ。
「この位置に携行しますと、どうしても一射目は遅れてしまいますね……」
どうやら抜き撃ちが思うような早さでない事が恥ずかしいらしい。どこまでも武器中心のようだ。そんなクインだったが、何度か繰り返しとりあえず納得いったらしい。
「お待たせいたしました。後は、左手を出してくださいませ」
言われるがままに聖が左手を差し出すと、クインはその薬指に指輪を嵌めた。
「えええっ!」
流石に激しく動揺する聖。
「右利きだとお聞きしたので、邪魔にならぬよう左に付けさせていただきました。何か不都合がございますか?」
「いや、不都合って訳じゃないんだけど……」
これは意味深じゃないかと動揺を隠しきれずドギマギする聖に構わず、クインは指輪に触れると軽く捻るように動かした。
指輪は小さな起動音と共に微かな光を放つ。その光は聖を包み込むように広がっていったかと思うと、すぐに消え去った。
何が起こったのかと自分の手を見た聖が驚きの声を上げる。指輪を付けていたはずの左手が鉄のガントレットで覆われていたのだ。だが、右手で触れるとそこに金属の感触はなく、左手にも触れられた感触が伝わってくる。
「ホログラムですわ」
よっぽど間抜けな顔をしていたのだろうか、クインがすぐに教えてくれた。
「子供騙しですけれど、これですぐにナチュラルだと気付かれる事はなくなるはずです」
左手だけでなく、その他の部分も何か所かサイバーパーツの映像が重ねられている。確かにパッと見はサイボーグに見える事だろう。
「なんだ、そう言う事か」
単に文化が違うだけと理解する聖。薬指なのも偶々であって深い意味など無いに違いない。それはそれで少し残念な気もするが、ホッとする気持ちの方が強い。
「……この指なのは?」
それでも聞かずにいられないのは悲しき男の性か。
「最も指輪のサイズに合っていた指ですが……やはり、何か不都合がございますか?」
「いやいや、不都合は無い。うん、無い」
笑って誤魔化す聖。流石はサイボーグ。見ただけで指の太さを見極めたらしい。やはり、そこに深い意味は無いらしい・
「まあ、そりゃそうだよな」
苦笑しつつ呟く。何となく様々な感情の混ざった複雑な呟きだ。
「何がでしょうか?」
それを聞きつけたクインが顔を覗き込むようにして尋ねてくる。聖は何でもないとばかりに力いっぱい首を横に振った。
「そうですか。では、そろそろ行きましょうか。次は何をいたしましょう?」
店主に軽く頭を下げると、そのまま店を出て行こうとする。
「えっ?あの?代金は?」
クインの後についていっていいのかどうか。ダメだった場合は背後から撃たれるんじゃないかと、聖はクインと店主を交互に見ながらどちらへともなく声を掛けた。
「大丈夫ですわ。このお店には既に十分すぎる程払っていますもの」
クインの言葉に店主も無言で頷いている。
「あ、そうなんですね。じゃ、そういう事で」
聖も店主に軽く頭を下げると、クインの後に続いた。それでもどこかビクビクしている感じなのはやむを得ないだろう。




